いつだって別れは突然で理不尽で
「ユイちゃん!! 凄いです!!」
「んふ」
背後からいきなり抱きつかれた。だれ……ってメルか。
「わたしは信じてたわ〜ユイちゃんなら絶対に負けないって……ふふ〜」
「スティア……」
倒されてしまえばもうどうでもいいのか、スティアはカレンの残骸を普通に踏んで歩いてきた。女神とは………。
「どうだ? ボクの武器のおかげだろ? 向こう3年くらいはボクに感謝して生きてろよな?」
「………いい武器だったよ、ありがと」
舞台に上がってきたイブに鞘に収めた剣を差し出す。わたしの血で汚れてるけど!
「くっくっくっ……次に貴様と刃を交えるのが楽しみだ………」
「なにこれ順番に喋らないといけないの?」
律儀に順番を守って舞台に上がってきた4人。それと同時にまた舞台が明るくなる。全員の顔がよく見える……ナナミ以外はみんな笑顔。そして、唯一笑顔じゃない……真顔のナナミが口を開く。
「さてさてと。ご覧の通り、舞台はお嬢さんの勝利で幕を閉じました。本来ならばありえない結末……しかしあなたたちはそれを可能にした……。そして、ワタクシはお嬢さんとの約束を果たすわけですな。……お嬢さんの願いを叶えると。」
「なんだ? ユイそんな約束してたのか?」
「ユイちゃんの願い?」
(……そうだ、ちゃんと言わないと。)
「みんな……ごめん」
「?」
わたしが頭を下げてると、顔こそ見えないけどみんな戸惑ってる様子が伝わってきた。そりゃそうだよね……説明しないと。
「わたしの願いはね……ここじゃない場所……わたしの故郷に帰ることなの。ライズヴェルからすごく遠くて……多分、どんなにお金と時間があってももう二度とライズヴェルには来られないと思うし、みんなにも会えない……」
「は……おまえ……何言ってんだ?」
「ユイちゃん……どこかに帰ってしまうんですか? 私達とはもう……?」
(そんな悲しそうか顔しないでよメル)
「……断言出来る。もう会えない。いまのわたしの力だけじゃどうしてもそこに帰ることが出来なくて、あとほら、借金とかもあったりさ……とにかく、こんな女神……ナナミの力でも借りないと実現出来なくて……。」
「貴様が何を背負うかは我には興味などない……刃を交える事が出来なくなると言うなら残念ではある」
「ふふ〜、ユイちゃん……泣きそうよ〜?」
「えっ?……あ、いや……なんで……」
(なんでわたし泣いてる………)
気がついたら涙が出てた。は? なんで? 別にわたしは……アリサに会えるならなんでもいいし、この世界のみんなはそりゃあ良い友達みたいな人もいたけど、かなり短い間しか触れ合ってない……そんな、涙流して悲しむような、別れが惜しくなるような…そんな、そんなんじゃないのに………じゃないはずなのに。
「だから……ここにいない人達……エルザとかマリアとかさ……伝えておいてほしいな………ユイは……故郷に帰ったからもうライズヴェルには来ないし、会いにも行けないんだよって……ごめんね、自分勝手で。」
「クソ……なんなんだよおまえ。何も分からないまま自分勝手にどっかに帰るとか、ムカつく奴だな。好きにしろ、神を倒したのは他でもねーおまえなんだから。」
(イブ………)
口ではそんなこと言って、本心では……って思ったけどこれ違うな〜普通にこれが本心っぽいな〜めっちゃイラついてるじゃ〜ん。イブはあくまでもイブか……。
「あー、そろそろいいですかな。ワタクシも暇とはいえいつまでも人間のくだらない別れに付き合うギリもないものでして。お嬢さんの願いをちょちょいと叶えて終わりにしたいところですな。」
「………だってさ。みんな、ほんとにごめんね……ありがと…………………………バイバイ」
どこまでもムカつくナナミだけど、今は従うしかない。みんなの顔見てるといつまでも動けないから、背を向けてナナミの方に向かい、手を取る。
「さて、それでは……あの日あの時あの場所……何かを少し、僅かにずらす……そしてお嬢さんは帰還する……これで良いですかな?」
「…うん。お願い」
(そう………あの時、少しでもなにかズレれば…わたしは生きてた。それだけの話なんだ。)
「では始めましょう。ひとつご注意……ご存知のとおり、そもそものお嬢さんの転生はワタクシすら関与していない未知なる領域。故、ワタクシの力でも想定を多少超えるズレがあるかもしれませんが、それがお嬢さんの願いに干渉することはございません。ふむ……以前は数分程度、と申しましたがもう少し時間がずれるやもしれませんな。」
「いいよそれくらい……どうでもいい」
(……遂に)
奇跡的に手にしたチャンスを偶然のヒラメキと発見でなんとかものにすることができたんだ……イブ達には申し訳ないし、寂しいけど……わたしはこの道を進むしかない。ライズヴェルの……この世界のみんな……バイバイ