わたしの戦いにみとれないでよ?
(気が付かれた!)
わたしが近づくと、大人しかった蟷螂龍は低い声で唸り、わたしの方に向いた。そして、2つの鎌をぶつけ合って威嚇する。その音はまるで、硬い金属同士をぶつけ合うような甲高い音。
(生物の体から出る音とは思えない……!)
あの鎌に当たったら、さすがに死ぬ。普通の鎌と変わらない………!
「じゃあ一気に決めるよ………!」
(せっかくだしこのバットも使いたいけど……)
とりあえず右手にバットを持ち、左手を高くかがける。不思議なことに、全く重さを感じない。これがわたしの真の力!?
「まずは光の魔法………!聖なる刃……いや違うな………もっといい名前を………ま、いいや。いけ!聖なる刃!」
適当に念じてみると、前の炎と氷の時みたいに左手に光の魔法が………出ない。
「なぜ!!」
そんなことをしてるうちに、蟷螂龍は近くの木の実のなる木じゃなくて、めちゃくちゃ大きい木を鎌で切り倒して、それをわたしに向かって弾き飛ばしてきた。
「あぶなっ!!」
地面をころがってきた大木を紙一重でジャンプしてかわす。多分今3mくらい飛んだ。そのあともどんどん来るから、どんどんかわす。疲れる。
(なんで光の魔法が出ない…………あ、そっか)
炎と氷を出した時は、ある程度詳細にそれをイメージしたからでたんだ。でも、『光』をイメージするって何?哲学?宗教?わからんわからんしらんしらん。電球かなにかですか?
(闇はどうかな?無理だろうね)
周りの大木がほぼ無くなり、一瞬だけ蟷螂龍の動きが止まる。その隙にまた左手を掲げて、念じる。
「次は闇……!さあ目覚めて……わたしの中に眠る深淵の暗闇……!暗き穴よりいでし|古の呪いよ……漆黒の誓約の元敵を滅しろ!」
(決まった……最高だ……わたし……)
とか思ってたら!なんと!なんか出た!
「うわっ!?きもちわるっ!」
わたしの左手から放たれたのは、真っ黒な玉。そしてそれがそのまま蟷螂龍の方に飛んでいき、直撃する瞬間に爆発し、巨大な闇が蟷螂龍や周りの木々すらも包んだ。
「……ユイ!」
「エルザ!?なんで!」
一体どうしたのか、エルザがいつの間にかわたしの隣に来ていた。
「今の魔法は……!?」
「ふふ………あれこそがわたしの真の力だよ………闇の力………!」
「それについては後でじっくりとお聞きします……が今は………いや、もう遅いですか。」
「なにが?」
「……ご覧になればわかるはずです。」
闇に包まれた場所が、徐々に明るくなる。そこには倒れてピクリとも動かなくなった蟷螂龍がいた。そして、そのまわりも闇に飲み込まれて更地になっている。
「おお!すご!ほらみてエルザ!わたしあっさり蟷螂龍倒したよ!ほらほら!わたしのすごさわかったよね?」
しかしエルザは溜息をつき、残念そうに言う。
「たしかにあなたの強さはよくわかりました。しかし、今回の依頼は蟷螂龍の討伐であると同時に、この森の木の実を守ることでもあった訳ですが………どうでしょうか。」
「…………………………………………」
(やらかしたなこれは)
そりゃそうだ、少し考えればわかる。木の実を守るために蟷螂龍を倒すっていうのが目的のひとつだよ。それなのに、調子乗った闇の魔法でその木々諸共わたしは破壊した。つまりこれは………
「残念ですが、依頼は失敗………ランクの話は無くなると同時に、違約金が発生します。もちろん、それは私ではなくユイに支払いの責任が生じます。」
「ちなみにおいくら?」
「30万ルピアですね。」
(単位がわからん……)
「………今回の依頼に成功していた場合の報酬は5万ルピアでした。」
「うお………」
(ゴールドの依頼の報酬の6倍ってことは……かなりえぐい金額じゃん…………)
一気に身体が冷えるような感覚に襲われる。
「ここで話していても何も起きません。蟷螂龍死骸を近くで確認し、討伐の成功だけ確認したら直ぐに戻りましょう。」
「あ、はい………」
(終わった……わたしの異世界生活おわった…………)
――――――――――――――――――
「えーっとですね〜」
ギルドに戻り、顛末を報告した。受付の人はさっきと同じ人。帰ってくるまでの間にもう暗くなってたけど、この人いつまで働くんだろ。ほかの人たちは入れ替わってるのに。
「蟷螂龍の討伐は、たしかにこの鎌で確認しました。」
エルザに言われて、蟷螂龍の鎌を切り落として持って帰ってきていた。こういうのがないと、討伐の証明にならないみたい。死骸の方は放置する訳にも行かないから、ギルドに所属する回収隊みたいな人達が向かってるみたい。
「それと同時に、周辺環境の破壊も確認されました……つまり、今回の依頼は失敗ということになります…………はい。」
「ですよね〜」
耳を澄ますと、店内の人達の声が少し聞こえる。何となく、バカにされてる気がする。『やっぱりダメじゃねーか』みたいな感じ。
「ユイの戦闘能力の高さは私も驚かされました。人間離れしたジャンプ力を持っていて、即座に闇の魔法を放ち、武器を使うことも無く一撃であの蟷螂龍を倒したのですから。しかし……その力を制御することが出来ていないように感じます。そうであるなら、まずは『ランク無し』からスタートするのが妥当かと。」
エルザは受付の人の方を見て、淡々と言う。
「はーい………」
「蟷螂龍を一撃で倒す闇の魔法……なるほど、確かにユイさんは自信に沿った力をお持ちと…………さて、それはそうと違約金ですが…………」
(うう……)
「わたしお金もってな」
「ああ!ユイ様!やっと見つけましたわ!」
「おー!ちょうどいいところに!」
突如現れたのはマリア。そういえばここで待つって約束忘れてた!ごめーん。
マリアはわたしに近づいてきて言う。
「ちょうどいい?そんな困った顔をして……一体どうしまして?」
「実はさ………アレがコレでそうなってさ…………」
とりあえず、ここで待ってなかったことに対する謝罪、その理由、その結果どうなって今どういう状況なのかを詳しく話した。
「まあ………そのようなことが………しかしどうしてわたくしが来たのがちょうどいいということになるのでして?」
「お金貸して!!」
「…………嫌ですわ。」
わたしの期待とは裏腹に、マリアは首を振る。
「どうして!!」
「どうしても何も、申し上げた通りわたくしお金持ちのお嬢様などではありませんわ。そう簡単に数十万も貸せるほどの経済的余裕などはないのですわ。それに……わたくしはユイ様のことが大好き………ええ、愛しておりますわ。しかし……いえ、だからこそ。ユイ様にはそのような無責任な人間であって欲しくないんですの。自らの過ちであるなら、それはご自身の力で何とかしてこそ………わたくしの愛する方でしてよ。」
(めんどくさ…………)
「そうですね、私もそう思います。きっと女神様もユイのことを見放したりはしないはずです。」
「どなたか存じ上げませんが、いいことを言いますわね!その通りですわ!」
「とは言ってもねぇ………」
受付の人の方をみると、ニコッと微笑んで言う。
「ご安心を!そんな人のためのプランがあります!お金の支払いは後でもOK!その代わり、冒険者登録をしてから返済が終るまでの間は、依頼の報酬から一部の金額をギルドが頂くことになります!もしよろしければこちらにサインを!」
「あ、そういうのあるんだ」
(なんだ………じゃあ平気か………)
例えば、500ルピアの依頼を達成した時、200ルピア取られるけど、それは自動的に返済に当てられる……ってことだね。ローンかな?
「これにサイン………」
念の為、書類に目を通す。『所定の期間以内に返せなかったら強行手段に出ます』とか、怖いけど当たり前のことや、当たり障りのないことの最後、凄いことが書かれている。
(『なお、返済に当てる金額の40%程度は手数料となり、実際には返済額には含まれません。』…………っておい)
どこぞの魔法のカードじゃないんだから………なんて、わたしが文句言える立場じゃないからなぁ。極悪非道な非人道的な手法でしかないけど、これしか道がないからサインするしかない。むしろ利子がつかないだけマシでは?
「サインしました…………………………………」
「はい!確かに受け取りました!それではこれよりユイさんは『ランク無し』の冒険者です!」
「ユイ、おめでとうございます。」
「ユイ様!わたくしもお手伝いいたしますわ!」
「どうも………」
(まさかこんなに嬉しくない冒険者登録になるなんて…………)
最強クラスのチート能力を持ってしても、結局は使う人……つまり、わたしの使い方次第……ってことですか。いやー、少し舐めてたね。異世界怖いぞ。
(ま、なんとかなるなる!)
そうは言っても、少し頑張れば魔法を使いこなせそうだし、そうなればあとはもう無限のあがり目、伸び代しかないわたしだよ?最近美少女が異世界無双だよ?楽しみじゃん!