その8 責任を感じるリエコ
責任感と罪悪感で慌てるリエコ。
――漫画とかだと、もう一度同じ衝撃を与えれば記憶が戻るんだよね。だったら……。
おサムライを立たせ、そこに再び弾丸シュートを放つ。そんな物騒な光景を一瞬思い浮かべるリエコ。だけど、強く首を横に振った。
――ダメ! そんなことしたら、記憶が戻るどころかおサムライさんが死んじゃうかもしれないよ!
どうしよう、どうしようと焦るばかりのリエコ。
と、おサムライが小さな声であっと声を上げる。
「何か思い出したの!?」
「いや、大したことではないでござるが………」
おサムライは、左の腰のあたりを手で叩きながら続ける。
「拙者、ここに棒のような何かをつけていたような気がするでござる。こう立っていてどうもしっくりしないのは、それがないからでござるな」
記憶を失う前に持っていた大切な物。それを再び手にすることで、思い出が刺激となって失われていた記憶が戻る。そんな展開を、リエコは前にテレビで見たことを思い出した。
――おサムライさんがその棒みたいな何かを落としたとしたら、アタシのシュートが当たったあの時に違いないよ!
リエコは、力強く頷いた。
「その棒みたいな何かを探しに行こ! それを見つければ、あんたの記憶もきっと戻るはずよ!」
「おお、娘ご。それは一理あるでござるな。お主、なかなかかしこいでござるよ」
かしこい、なんて言われるのは滅多にないことだから、リエコは少し嬉しくなかった。それでも、今は喜んでいられないと自分に言い聞かせる。
「褒めてくれてありがとう。でも、これぐらいみんな思い付くことだから。それと、娘ごって呼ぶのは止めて。あたしには、リエコって名前があるの」
「リエコ殿でござるな。うむ、了解したでござる」
頷くおサムライを、リエコは片手でむんずと掴んだ。再びスカートのポケットの中へと押し込む。
「少しだけそこで大人しくしててね」
リエコは自分の部屋を後にした。
上ってきた時と同じように、ダダダと勢いよく階段を駆け下りる。少し前に脱いだ外履きへと足を突っ込んだ。
「ママ、アタシ、学校に忘れ物しちゃった! 今から急いで取ってくるね!」
驚いた顔のママが廊下へと出てくる。
「リエコ。外は暗いわよ。もうすぐお父さんが帰ってくるから、そしたら車で――」
「大丈夫! 大丈夫! パッて行ってパッて帰ってくるから!」
ママの言葉を遮り、リエコはそう言うと自宅を飛び出した。
ママの言っていたように、あたりはすっかり薄暗くなってしまっている。それでも、行かないわけにはいかなかった。
リエコの中にある、責任感と罪悪感がそれを許さない。
「棒みたいな何かを見つけて、絶対におサムライさんの記憶を取り戻すんだから!」
強い決意を口にしながら、リエコは学校への道を走り始めた。