その6 礼儀正しいお人形?
二階にある自分の部屋のドアは、半開きになっていた。両手が塞がっているリエコにとっては丁度良かった。
半開きのドアを体で押して、自分の部屋へと入る。すぐにお尻でもってドアを閉めた。そのままドアの前に立ち続ける。こうしていれば、もしママが急にドアを開けようとしてもリエコの体が邪魔で開かないからだ。
男まさりのリエコだけど、部屋の中まで男の子男の子しているわけではない。カーテンは星柄。ベッドにいたってはイチゴの模様だ。自分で買ったり誕生日やクリスマスにプレゼントとしてもらったりしたぬいぐるみたちが棚には並んでいる。
少々散らかってはいるけれど、ちゃんとした女の子の部屋だった。
リエコは一息つくと、人形を捕まえている両手を見た。特別、中で動いている感触はしなかった。
――ひょっとして、さっきのは何かの見間違いとかかな?
そうであって欲しいという願いを込め、リエコは恐る恐る両手を開いてみる。
おサムライの人形は、リエコの掌の中でちょこんと正座をしていた。リエコのことをしっかりと見上げている。
「どうもでござる」
いきなり人形は、ペタンとリエコの掌に頭をくっつけて挨拶をした。
――ああ、やっぱり見間違いじゃなかったんだ。
残念ながらリエコの願いは天には届かなかった。
ママから人形を隠そうと必死になっていたせいだろうか? 最初に感じた怖いって気持ちはほとんどなくなっていた。
それよりも、この動くおサムライ人形が何なのかが猛烈に気になって仕方がない。
リエコは、人形の着ている着物のえり首を右手でちょいと摘まみ持ち上げた。
「あっ、娘ご。何をするでござるか? 下して欲しいでござる!」
ジタバタと手足を動かす人形を目の前へと持ってくると、右に左にと回転させながらよく観察する。
縫い目やつなぎ目ようなものは一切ない。表情だってコロコロと変わるし、動きの不自然さだってない。
たっぷりと時間をかけてから、リエコは一つの結論を出した。
「人形なんかじゃない! ちゃんとした人なんだ!」
人形……ではなく、小さなおサムライを左の掌の上に下してあげる。
それから、リエコは真剣な表情で尋ねた。
「あんた、一体何なの? どうしてそんなに小さいのよ!?」
おサムライは、困ったような顔になる。
「何と聞かれても、拙者は拙者としか答えようがないでござる。そもそも、拙者からすればお主が大きいことの方が不思議でござるよ」
のんびりとした口調でそう答えた。
「じゃあ、質問を変えるわ。あんたは誰なの? どこから来たの?」
リエコの次の質問に、おサムライはさらに困った顔になった。
「それが……分からないのでござるよ。拙者には確かに名前があったはずなのに、まるで思い出せないでござる。名前だけでなく、拙者がどこに暮らしていて何をしていたのかも。不思議なこともあるものでござるな」
自分が誰なのか思い出せない。こういったケースは、映画やドラマ、漫画の中でリエコは幾度となく見てきている。
――これって記憶喪失!?