その5 人形が動いた!
ここでようやく、リエコは茂みの中で見つけたこの人形のことを思いだした。
「職員室に届けようと思って、すっかり忘れちゃってた!」
うっかりな自分に少し呆れるリエコだったけど、
「でも、仕方ないよね。だってハットトリックを決めたんだから」
強引な理屈で納得をする。
「明日の朝、職員室に持ってけば問題ないよね」
とりあえず人形を、近くにあるドラム式の洗濯機に置こうとする。
と、その時だった。リエコの手の中で、人形がモゾモゾと動いた。
「えっ!?」
さらに、人形がパッチリと目を開く。
リエコと人形の目が、バッチリと合った。
「えええええええええええええっ!」
リエコは思わず大声を上げると、人形を手放した。
人形は軽い身のこなしで床にピョコンと降り立つと、不思議そうな顔であたりをキョロキョロと見渡している。
「な、何なのこれ?」
リエコは、前にパパがママに内緒でこっそり見ていた外国の古いホラー映画を思い浮かべた。呪われた人形が人を襲うという内容だった。
「ひょひょひょ、ひょっとしてこの人形って、呪われてたりするの?」
さすがのリエコも、少しだけ怖くなってしまう。
だけど、怖がってばかりもいられなくなった。ママの声が聞こえてきたのだ。しかも、ドアのすぐ近くで。
「リエコ。どうかしたの?」
リエコの悲鳴を聞いて心配になってやって来てしまったようだ。
――ままま、マズいよ!
リエコは大いに焦った。
実はリエコのママは、超がつくぐらいに怖いものが苦手なのだ。
テレビでやっている怪奇現象の特集をちょっと見てしまっただけで、その後しばらく青ざめていたほどなのだ。
パパがホラー映画をママに内緒で見ていたのは、そんな理由があるからだった。
それぐらい怖い物が苦手なママが、こんな動くおサムライ人形を見てしまったら……。
――ママ、泡を吹いて倒れちゃうかもしれないよ!
もう怖いなんて言っていられなかった。
リエコは咄嗟に床にしゃがみ込んだ。おサムライ人形を両手で挟み込むようにして捕まえた。
次の瞬間、ドアがガチャリと開きママが顔を見せる。
「リエコ、さっきの悲鳴って――」
「あはは、何でもないよ。えっとね~~」
リエコは必死に作り笑いを浮かべながら、適当な言い訳を考える。
「そうだ! 大事な宿題があるのを思い出したの! 気になって気になって、お風呂なんかに入ってられないよ。だから先に宿題をすましちゃうね」
早口にそう言うと、動く人形を捕まえたままリエコはママの脇をすり抜けるようにして廊下へと出た。そのまま階段へと向かい、勢いよく駆け上がったのだった。