その4 思い出した!
10分ほど坂道を上ると、そこは静かな住宅街が広がっている。その中に、リエコの家があった。こじんまりとした一軒家、『野々原』という表札が貼り付けられている。
「たっだいま」
ドアを開けて家の中へと入るリエコ。靴を脱ぎ捨て、家へと上がろうとする。
と、家の奥からすごい勢いで女の人がやって来た。リエコのママだ。夕食の準備の最中だったのだろう。手にはお玉を持っている。
「ああ、やっぱりそんな泥だらけになって」
リエコの恰好を見て、ママはため息をついた。
「帰りが遅いから多分、そんなんじゃないかって思ってたわ。お風呂沸かしてあるからさっさと入っちゃいなさい。ほら、ランドセルはママが預かるから」
「は~い」
リエコはランドセルを下ろすと、ママへと渡した。そのまま廊下を歩き、突き当りにあるお風呂へと向かう。
洗面所と脱衣場が一緒になった場所で、リエコが髪留めを外そうとした時だった。
「リエコ、スカートのポケットの中身をちゃんと確認してね。あなたってばいっつも、消しゴムとか丸めたティッシュとか入れたままにしてるんだから」
「ママ、分かってる。言われなくてもちゃんとやるから!」
リエコは、ドア越しにそう言った。もちろん嘘だった。ママに言われなかったらポケットの中なんて調べずポーンと洗濯物カゴの中にスカートを放り込んでいただろう。
「よいしょっと」
リエコはまず、スカートの左のポケットに手を突っ込んだ。丸めた紙が発見される。朝、家を出る時に食べたキャンディーの包み紙だ。
――そーだ。後で捨てようと思ってポケットに入れたままだったんだ。かんっぺきに忘れてたよ。
洗面台の脇にあるゴミ箱に、リエコはキャンディーの包み紙を勢いよく投げ込んだ。
続いて、右のポケットの確認作業に入る。
ポケットに手を突っ込んだ途端、何かが手に触れた。紙でもなければ消しゴムでもない不思議な感触だ。
「ん?」
掴み引っ張り出す。姿を現したのは、おサムライの人形だ。
「あああああ!」