最後の魔王は――。
「そうか、君が俺を呼んだのか」
漆黒を練り固めたような、されど大理石のような質感を持つ石造りの一室。それはまるで中世の謁見の間の如く広大で、そして冷たく、寂しかった。
黒い床に一色線にビロードに似た鮮やかな赤が敷かれた先には、やはり黒の玉座があり、その段になった三歩手前あたりに、蹲るような影が一つ転がって。
まるでその身を飾る様に大きく広がった、見事な黄金の長髪。頭部の左右からは、東洋の竜の如き、或いは鹿の角の如き見事な銀角が髪を別けて飛び出している。閉じられた瞳からはその色は窺えないが、話に聞くところによれば、鮮やかな紅色だったらしい。
外見的には、まだ十代の少女と言ってもいい若さで。今はまだ、瑞々しさを保っている身体だが、数時間も経てばその生気も失せて、乾いた肉の塊となるのだろう。
何故ならば、その少女は死んでいるのだから。しかして最後の希望を、絶望の中で掴み取り、通しきったのだから。
「君の望みは叶えよう。だから、俺の望みも、この世界で叶えさせて貰うぞ?」
そっと壊れ物を使うように、遺骸を抱き上げ、それを数歩進んだ先にある玉座へと運ぶ。丁重に、恭しく、かつての玉体を凭れさせ、その前に跪く。
悔しかったろう、何も出来なくて。
辛かったろう、何も守れなくて。
悲しかったろう、それでも誰もが笑顔で、君の為に死地へと赴く。その背を見送るのは。
近づいてくる無粋な気配に、立ち上がり、身を翻して玉座の間を閉ざす大扉に目を向ける。途端に外側から爆裂し、その破片を焼き尽くしながら放たれて来る紅蓮の巨弾を前に、障壁を張る。この部屋全てに。そして彼女の亡骸を特に念入りに。
無粋な侵入者などに、決して傷付けられる事の無い様に。
「追い詰めたぞ魔王! 四天王は見ろ、こうして討ち取ってやったぞ!!」
威勢のいい声が、勇ましく、誇らしげに響き渡って、投げ込まれた四つの塊が障壁に当たって眼前に転がり落ちた。
それは焼けただれている女、目玉を潰され口内から後頭部に貫かれた獅子、しわくちゃな顔を歪ませた彼女の似たような角を持つ老人、まだ幼げであどけなかっただろう顔を切り刻まれた少年、それらの首級だった。間違いなく死している。
そんな残骸たちに、せめてもの手向けとして復元の魔法をかける。見た目だけは奇麗に修復されたそれらを見つめて、黙祷を捧げる。
そうか、話には聞いていたが、お前らはそんな顔をしていたのか。よくこれまで、彼女を支えたな。
氷魔術で一時的に凍らせ、同時に内部に仕込まれていた『自爆術式』を無効化させる。部下の首を投げ込んで動揺を誘い、更にそれを自爆させる事で精神的にも肉体的にも効果を狙ったんだろうが。これ以上、奴ら、『勇者パーティ』なぞの好きにはさせてやらんよ。
「ちっ、爆発しないぞ!」
「無効化されたみたいね、流石は腐っても魔王って所かしら?」
「あぁ、神に仇なす不浄達の身が一部とはいえ残るとは、何たる不敬でしょう。魔王と共に早急に浄化せねばなりません」
「ふっ、ゴミの様な魔族を纏める首魁如きが、王を僭称するとは度し難い物よ。それも今日にて最後にしてくれる」
黄金の光を纏う白銀の剣を構え、同様の鎧と盾を身に纏った、まだ年若い黒髪黒目の少年が忌々しげに、しかし嗜虐と愉悦を宿した見下すような瞳で、室内へと歩み入ってくる。勇者リンジ・タダノだったか。
続くのは、魔導士然とした豪奢なローブを纏う、紫髪のグラマラスな女。賢者エリジアだな。宝飾品に見える貴金属は全てが何らかの効果を持った付与魔法具。手にする杖には絡み合う黄金の蛇が意匠され、莫大な魔力を放つ宝玉を加え込んでいた。
その後には、純白の神官装束に白き霊威を迸らせ、黄金の天使像を頭に添える錫杖を手にした、金髪の少女。これが女神教の聖女クリセリアで。
少女を守る様に、白い金属甲冑と片手半剣に、大きな宝玉を真ん中に埋め込んだ黄金の大盾を構えた、騎士然とした銀髪の女。装備は全て魔力付与された、かなりの業物だろう。こっちが王国聖騎士団長ジャンリーヌと。
女たちは誰もが美しく、魅力的で、そして弱者を踏み躙る事に快感を覚える者特有の傲慢さを、例外なく潜ませているだろう事が伺えた。
「あん? 今代の魔王ってのは、若い竜人女って話じゃなかったのか? オッサンしかいねえぞ?」
「そうでもないわよ勇者様。奥の玉座を見てごらんなさいな、人影が見えるでしょう? 尤も、魔力反応もないし、アレ多分死んでるんじゃないかしら」
「浅ましきものですね、恐らくこの期に及んでも内輪で権力闘争でもしていたのでしょう。自分たちの種が絶滅の瀬戸際にあるという時にさえ。どこまでも愚かで、救いようもない、穢れた種族。神の身許に送る価値もない、生命以前の汚物に相応しき所業です」
「魔族なぞに忠義や信義など在るまいからな。王の真似事は所詮真似事、配下が容易く反逆する程度の愚物だったのであろうよ!」
「ふむ、虫がよく囀る」
「何だと?」
「「「何ですって?」」」
「異世界に召喚され、勇者に祭り上げられてはしゃいだみたいだな。その三人とも肉体関係あり。各地で女と見れば食い漁り、反抗する者は勇者権限で無礼討ちしてまわったとか?
魔族でも見目の良い種族の雌は肉奴隷扱いで飼っているらしいな。実にテンプレな俺ツエー下衆ハーレム展開、満喫中じゃないか。楽しかったかね?」
「な、って、テメエまさか同郷か!? 姿は人間じゃねーし、そっちは転生者か!」
「近いようで違うな。これから死に逝く虫には、語って聞かせても詮無い事だよ」
俺にとっては至極どうでもいい、埃にすら価値の及ばないこいつらだが、それでも彼女を追い詰めた存在なのだという事は知っている。ならばそれで十分、殺す理由には値するだろうさ。
魔王と勇者の対立、よくある話だ。実際には生臭い種族闘争の渦中でしかなかった。それが狂いだしたのは、二千年ほど前に人類陣営が召喚魔法から派生させ、独自に開発した異世界召喚魔法が発端だったそうだ。
何度も呼び出し実験をした事で、ピンポイントで狙った上位世界から、異世界人を召喚する形で完成を見た術式。その過程で、上位世界人であるが故に莫大な容量を持つ魂を器とし、生贄として捕らえた同族である筈の孤児や捉えた魔族を、その魔力と魂の全てを捧げ、流し込み、この世界に顕現する過程でありえないほど強力で希少なチートスキルを植え付ける事に成功した、生きた兵器。それが勇者と呼ばれる異世界人。
呼び出す年齢を、思想を染めやすく、色に弱い若年層に設定する事で操りやすくし、対魔族戦線に投入し続けて来たのだ。
結果、多くの魔族種が一方的に虐殺され、一気に戦況が人類に傾く。しかし、そんな勝手を見逃せなかったのがこの世界の神々だった。察知した瞬間に召喚ルートを閉じようとして、しかし世界の上下次元連結にまで影響を及ぼしかねなかった為、やむなく極限まで細い穴とすることしか叶わなかった。
代わりに魔族側に発生するように設定した存在が、魔王だった。それまでにも魔王が居たが、それは純粋に魔族たちの国の王という意味しかなかったという。
異物である勇者をウイルスとすれば、魔王はワクチンと言ったところだ。そして毎回相討ちで倒れる事で、どうにか凌いでいたのだが……今回で破綻確定し、この世界の魔族はいずれ殲滅される筈であった。
俺が、彼女の最後のあがきとして転生召喚されていなければ、だが。
「ふん、さっさと逃げて置けばいいものを、馬鹿な奴。死になさい、『煉獄破極』」
魔導士の女が少年の隣に踏み出し、詠唱破棄で放たれた白き輝きを放つ焔。眼前に迫るそれを、俺はふっと息を吐いて失望すると、無詠唱で術式を放つ。
こちらと起点である女とのちょうど中間に、ポツリと浮かび上がる小さな黒点。それが一瞬で白焔を巻き込む様に吸収し、一切の痕跡もなく消し去ってしまう。
「「「「は?」」」」
呆気にとられる勇者パーティの阿保面。
それからゆっくりと接近した黒点が、女が手にする杖に触れた瞬間に。焔と同様にしゅるり、といった感じの光景でその身体が巻き込まれ、吸い込まれ、そして消失した。
「え、あれ、賢者どこいった?」
「っ、勇者様っ、かまえてびゅっ」
「ばきゃなきゃひゅ……」
「へ?」
聖女の首が一瞬でミンチとなって後方に飛び散り、盾を構えたまま正中線に沿って真っ二つになった女騎士がずるりと分かれ落ちて、べちゃりと倒れた瞬間に断面から内臓もろもろを血飛沫と共に撒き散らす。
「なあああっなっなにがごぎょ!?」
一瞬で起きた事態に理解が及ばず狼狽える勇者、その背後に一移動していた俺の手が、既に彼の首を掴んで握力の身でへし折っていた。
この世界最強のLV999チート勇者の、オリハルコンよりも強固強靭である筈だった首を。
「さて、貴様のチートは『無限残機』だったか。魂さえ無事ならば、死しても蘇えるというゲームの定番みたいなアレだが」
手を伸ばした先、ここから消え失せようとしていた勇者の魂を掴み取り、神力を込めて握り潰す。
「おおゆうしゃよ しんでしまうとはなさけない えいえんにさらばじゃ……なんてな」
邪神から与えられた、魂干渉の権能。これでもう、復活はない。完全消滅させたが故に以降は二度と転生もない。
「残すは――」
魔王城のバルコニーへと転移する。打ち破られた城門、砕かれた城壁。あちこちに夥しく転がる種々様々な魔族たちの、無残な骸。
中にはまだ生きていて、しかし兵士たちに遊び半分で嬲り刻まれ、肉塊となっていく者も。または雌故にそちらの楽しみとして使われている者も。間に合う者へと球状結界を施し、内部で完全治癒、その後に転移させ、まだ人類の手が及ばぬ奥地へと逃がす。
自分たちの楽しみがいきなり消失し、取り上げられた兵士たちが困惑しつつ周囲を見回す様子を見下ろし、城内外に残された気配全てをロックし、それらの体内に先に使ったのと同様の黒点を発生させる。
それだけで、全ての人族兵士がこの世から消え失せた。
次は城門から離れた荒野で、陣幕を張っていた十万余りの人類連合軍に。中央に発生した黒球が一瞬で兵団全てを飲み込む規模に拡大し、刹那に収縮し、消滅する。
あとに残るのは、共に削られた大地に刻まれた巨大なクレーターのみ。それを見届け、再び玉座の間へと転移する。
「一先ず、当座の害虫駆除は終わったよ」
静謐で、静寂な空間。一つの亡骸と、四つの首級に報告を行う。
漆黒の床に、焦げ付いた魔力の痕。それは巨大な魔方陣を描いていた。しかもこれだけではなく、城の造りすらも利用された、巨大立体魔方陣。
起動の為のエネルギーは、魔族たちの領土の地下深くを流れる龍脈、そのほとんどを枯渇させる量。これから数百年かけて、この一帯は命が芽吹かず、雨も降らず、渇き切り、細かく砕かれた砂の海へと変じていくと予測されていた。
そこまでして行われたのが、『最強の魔王』召喚。現魔王の力と魂を対価にしたそれは、成功する可能性など、それこそ奇跡レベルであったにも関わらず。
だが彼女は成し遂げた。別世界で死した直後だった俺の魂が呼び込まれ、邪神との謁見、説明を経て、その権能のいくつかと亜神クラスの肉体を与えられ、さらにそこに対価となった筈の彼女の魂を、魔力を、知識を内包させ、こちらの世界に降誕したのだ。
それ故の圧倒的な力だった。だが同時に、それほど物に対し制約が課されない筈もない。
俺は、この魔王城の敷地からは、以後一歩すらも出る事は叶わない。上空であっても、地下であっても変わらない。亜神故に死ぬ事も出来ない。
代わりに、世界に満ちるマナを介して、距離や場所に関係なくすべてを知覚する事が出来る。言葉を送る事も可能だ。それを使い、勇者パーティと連合軍の全滅を、世界中に知らしめる。
それによる世界の混乱を、困惑を観察し、その中でも今回の勇者召喚を行った王国を探し出す。見つけた。
魔王城直上の衛星軌道に召喚した小惑星を、落下コースに乗せる。あとはただ、眺めるだけだ。彼の国土が、一つ一つが城塞都市に匹敵する規模の、数千の流星雨によって壊滅する様を、死に絶えていく過程を。
衝突で砕かれ舞い上がった粉塵が大気圏迄立ち昇り、日照を遮っていく。あの辺一帯の気候は、向こう暫くは寒冷と異常気象が続くはずだ。
取り敢えず魔族領全域に、粉塵が流れてこないよう、また人類が侵入出来ない設定で神力の結界を張っておく。唯一の入り口として、俺が今後滞在する魔王城までをトンネル状の結界で繋げておいた。俺を倒せれば、魔族領内へ再度の進行も可能になる事も、ついでに人類に知らせて置く。
そうすれば新たな魔王の存在に恐怖し、それを払拭しようと新たな勇者召喚が、また行われる筈だ。そうしたら、またその国を潰していく。それが原因だと人類が思い至るまでな。
召喚術式をこの世界から消し去る、それが邪神を含む全ての神々との契約条件だったから。
この世界の神々の力は大きすぎ、直接干渉しようとすれば世界に致命的な損害を与えてしまう。故に神々は、今まで動けなかった。現地の魔王では、与えられる力も器の限界により、どうにか召喚勇者に並ぶ程度にしか弄れなかった。代償に寿命が極短命ともなる上で。
一度完成させた世界には、新しい種を新造する事が出来ないという制約があり(内部での進化は問題ない)、そうなればまだリソースが残っている内にこの世界を完全破壊し、新たに作り直すことも想定されていた。
今回行われた、魔王召喚の成功がなければ。
人族を生み出した女神は、何度も神託で勇者召喚などと嘯く、異世界からの誘拐をやめる様に告げたが、長い歴史の中で腐りきった宗教組織は、自分たちの利益にならない神託を握り潰すだけでなく、捏造して魔族殲滅と奴隷化を煽り続けて居た為、既に女神からも完全に見放されている。
むしろ代わりに天罰として間引いてくれと、怒り心頭な様子で邪神の傍で告げる女神様、めちゃくちゃ怖かったぞ……。
まあ、それはもういい。ここまでで一応の務めは果たした。邪神様、俺の願いを叶えてくれるか?
――ご苦労。では渡しておいた宝珠を掲げるが良い。
懐から取り出す、生々しい血色に鈍く輝き、鼓動する宝珠をアイテムボックスから取り出す。俺の中から神力と、それとは別の『何か』が勝手に流れ出し、宝珠へと瞬く間に満たされて、浮かび上がる。
光り輝くそれが一人でに目の前の玉座の、そこに凭れ掛かる骸へと飛んでいき、あわや衝突という所でスッとその胸元に吸い込まれて。
ドクンッ――
終わってしまった筈の命が、生命の鼓動が蘇える。
「ぅ……っけほ、こふっかぁ、はぁ、あ、な、なに?」
呼吸が再開され、咳き込みながら開かれていく瞳は、美しい紅玉の色。うっすらと涙を浮かべて、虚ろな視線が周囲を見回し、直ぐそばに転がっている首級へと焦点が合わされる。
「あ、あっああああっああああぁ!?」
「……すまない、そいつらまで助ける猶予はなかった」
「っ!? な、何者っ! これは貴様の仕業かっ!! 許さぬッ許さぬぞ!!!」
親しかった者たちの変わり果てた姿を前に、駆け寄り、持ち上げ抱きしめて涙を流し始める竜人の少女に、躊躇いがちに声を掛ける。こちらに気づいていなかった彼女は、途端に警戒心を剥き出しにして飛び退り、鋭く伸ばした爪を向けて構える。
「何者、か。いきなりこんな世界に呼び出して、酷いじゃないか。俺はもう、あっちでガキどもを育て上げて、孫にまで囲まれながら天寿を全うした所だったんだぞ?」
「は? 貴様訳の分からん事を……っ」
「それなのに、気づいたら訳の分からん場所で、おっそろしい邪神やら大勢の神々やらとご対面させられて、びっくらこいたわい……いくら前世の縁があるからと言って、限度があるだろう。なぁ、ばあさん?」
「だ、誰がばあさんだっ、私はまだ若、い……? く、ぁ、な、なんだこれはっ頭の中に、何か、浮かんでっ」
今際の際で、確かに死んだら向こうで会いたいと確かに願いはしたがなぁ。どんな確率でこんな大事になるのやらだ。
頭を押さえて蹲っていた少女が、漏らしていた呻きを止めて、再び頭を持ち上げる。死神様の計らいで、事情説明と前世の記憶のロックを外してもらう手筈だったんだが、上手くいったかな?
「わ、我は魔王……でも、あぁ、そうか、我は、私は、あんたを呼んじまったのかい……じいさん」
「すまんが、勇者関連の駆除に対価として、ばあさんの復活を叶えて貰ったわい。寿命についても、解決されとるでな。
その新しい体の、新しい人生を邪魔するのはどうかとも思うたんじゃが……こういう縁があって呼び出されたと聞いては、居てもたってもおられんかったんじゃ」
「……なに、一度は死を覚悟したんよ、また生まれ直したようなもんさぁ。それと、魔族を救ってくれて、ありがとうなぁ、じいさん」
「まだ完全に終わってはおらんがな、お勤めの最中といったところじゃて。 しかし、お互いこの姿だと、老人口調はいささかおかしいのう、くははっ!」
「ふふ、そうだねぇ。それじゃあ、今世の喋り方で、改めて自己紹介と行こうかしら?」
「うむ、そうするか」
足元に大事そうに降ろされた四つの首級に一度視線を向けた後、顔を上げた少女が名乗りを上げる。
「我はこの世界最後の魔王にして、前世はそなたの妻である、ローズレリア・オズ・ドラグティア!」
「俺はこの世界最初の亜神にして、前世はお前の夫である、グレイズロア・バズ・アドラメレク」
見つめ合った後、互い同時に噴き出して、暫く笑い合う。やがて収まった所で、彼女に近づいて、その小さな体を抱きしめた。
「また、よろしく頼む」
「よかろう、面倒を見てやろうではないか。こちらでは我が先輩だからな?」
「やれやれ、こっちでも尻に敷かれる羽目になりそうだな」
「この若い体で尽くしてやるのだから、感謝してほしい物よ?」
「………」
「な、なに、そんなジロジロと……」
「いやぁ、なんかこっぱずかしい事言っとるなぁと」
「むかっ」
「ああ、すまん。そのあれだ……ごほん。 改めて、俺の妻になってくれないか、ローズレリア?」
「……浮気はしない事、ご飯の好き嫌いもしない事、それと……また、貴方の子供が欲しい。その求婚、喜んで受け入れるわ、グレイズロア」
「「愛しています、前世から」」
――それから二千年の月日が流れて。
多くの人類の国が、街が滅び、文明が衰退し、文化が失われる中で、勇者召喚の術式は事実上、世界から消失した。
魔族は生息圏を広げ、その過程で生き残っていた人類を保護し、やがて共生を道を歩み始める。互いへの恨みつらみは世界の復興の中で風化していき、また時に『世界の守護者』たる一組の夫婦が、夫が見つけた諍いに、妻の方が調停に乗り込み、かかあのげんこt、げふん、穏便な話し合いで解決して回り。
やがてかつての魔王城は聖域とされ、世界最強のおしどり夫婦は、稀に天変地異クラスの夫婦喧嘩をやらかしつつも、末永く睦まじくあり続けたという。
俺の元嫁(前世)。というタイトルがきっと続く(*´з`)
なんでこんなネタ浮かんで来たんだろうなぁ、しかも仕事中に。
発端が何かあった気がするんだけど、思い出せぬ_(:3」∠)_