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妹と婚約者のはじめまして


今まで見たこともないくらい不機嫌な娘をなんやかんやと宥めつつ、王都に着いた時には両親はくたくたになっていた。

しかしゆっくり休む時間などない。王に謁見の約束を取り付けた時間までもう幾ばくもない。早速王城へ赴き謁見の間まで案内してもらった。


父親が宰相のためライナも数度謁見の間まで来たことがあるが、片手で足りるほどのこと。普通の子どもならあらゆる所にあしらわれる豪華絢爛な調度品に目を奪われてもいいものだが、ライナは真っ直ぐ謁見の間までを見据えひた歩いていた。まるで戦場に赴く騎士のような娘に呆れつつ、両親も疲れを引きずりつつ謁見の間へ直行する。案内を担う従者は、異様な宰相家族の姿に言いようのない緊張感を感じ、無駄にビクビク背筋を伸ばしていた。

謁見の間の扉に辿り着き、案内役の従者は陛下、と中の人物に呼びかける。入室の許可の言葉と共に扉が開き中に踏み入れれば、そこは先程の廊下以上に豪奢な調度品が並べられており、奥には威厳に溢れ堂々と玉座に座る壮年と隣りに見目麗しい少年が立っていた。


「陛下、アルド・テンペスト。只今参上しました」


父親が名を名乗り片膝をつき礼をする。母親とライナもそれに従い深いカーテシーで礼をした。

この王国での王という地位は最上のものだが貴族との関係は割とフランクだ。元々が農耕により発達した地であるため、民がいるからこその発展がありその民を守るのが王だという認識のもと王権が成り立っているからだ。


そして、王国成立より役を担うテンペスト家にいたってはそのフランクさも一線を越えていた。


「おいアルド」

「なんでございましょう、陛下」


眉間にこれでもかと皺を寄せた王と、それを表情も変えず受け流し礼の姿勢を崩さない父親。しびれを切らしたかのように王は叫ぶ。


「なんでそんな他人行儀なことするんだ!寂しいじゃないか!」


まるで子供のように喚く王は、これでも一国の王であり2児の父親でもある三十代後半の成人男性である。

王位継承権第一位だった王と公爵家の嫡男として幼い頃から王城を出入りしていたアルドは幼い頃から交流があり、アルドが公爵を継ぎ宰相を任された後も交流は続いた。そして王は何故かアルドに対してだけ尋常でない執着を見せ、敬語をやめろ礼を尽くすな褒めろ撫でろと常に無理難題を科していた。一時期王国に「王は公爵家嫡男のアルドに並々ならぬ想いを寄せているのではないか」と噂が回ったほどだ。


「陛下、今回はアルバート殿下と我が娘ライナの初顔合わせでございますゆえ、私ではなく娘とお話を」

「冷たい!アルドが冷たい!最近ただでさえ仕事減らして顔を合わせることが少なくなってるのに!」


地団駄を踏んでいやいやと手足をばたつかせる姿はまるで欲しいものを買ってもらえずにぐずる子どもだ。こうして駄々を捏ねる王は一応この国の最高権力者であるはずだが、この場で誰よりも冷たい目線を浴びていた。


「大体最近アルドは・・・!」

「ライアン」


さらに喚こうとする王の言葉に、アルドが言葉を重ねる。ライアン、とはまさしくこの王国の王の名前である。本来一国の王に対して呼び捨てなど言語道断だが、王はみるみると笑顔になる。


「・・・様。いいかげんにしてください」

「ようやく名前を呼んだか、この強情っ張りめ!今は俺たちとその家族しかいないのに頑なに陛下なんて他人行儀な呼び方ないだろ!」


まったくもう、とまるでアルドの方がおかしいかのように言う王だが誰も何も言わなかった。

この王様は変わってるのだ。そう思うしかない。


「さて、久しぶりだなアンネマリー。息災だったか」

「ええ。陛下もご機嫌麗しゅう」


先程の駄々っ子の姿を正し威厳ある国王の皮をすぐさま被った王に、母親はにっこりと完璧な笑みを浮かべ王に挨拶をする。無駄のない上品な所作に王も満足気だ。


「そして、隣は」

「ライナ・テンペストでございます」


母親にならい、ライナも王に挨拶をする。所作の美しさはもちろん非の打ち所のないライナの容姿に、王は目を見開いたあとにっこりと凄みのある笑みを浮かべた。


「以前来た時は5歳だったか。随分大きくなって、しかも歳を経るごとに美人になっていくな。将来が楽しみだ」

「恐れ入ります」


王の賛美の言葉にライナはより深く礼をした。

公爵家は幼い頃から王家と関わるため、作法や礼儀に関しては幼い頃から叩き込まれる。両親や教師に反抗することなく淡々と授業をこなしていたライナの立ち振る舞いは大人にも劣らなかった。

随分と立派に育った息子の婚約者に苦笑しつつ、王は少し後ろに下がっていた息子を呼び寄せた。


「こちらも紹介しよう、息子のアルバートだ」


そうして紹介された少年は、こちらも負けず劣らずの美少年。

炎のような鮮やかな赤い髪と、澄んだ琥珀色の瞳。その琥珀色は甘く暖かそうな色合いだが、子どもながらきりりとした目は意志の強さが見えるようだった。すっと通った鼻に薄い唇は引き結ばれ、頬はほんのりと色付いている。王家の品格をこれでもかと詰め込んだ、まさに王になるべくして生まれたかのような容姿は大人になれば相当の色男となるだろうと思われた。

顔の印象でいえば、父親である王のライアンは茶目っ気がありとっつきやすい感じだが、息子のアルバートは勝気で我が強そうな印象を受ける。


「・・・アルバート・ハイデンベルク」


名前を言ってそのまま黙り込む王子。機嫌の悪そうなアルバートの態度に王はおいおい、と苦笑いする。将来結婚することになる相手に対して愛想もなにもない態度だ。


「アルバート、もう少し感じよくできないのか」

「なぜ俺が好きでもない相手に愛想を振りまかなきゃいけないんですか」


ふん、とそっぽを向くアルバートに王はため息をつく。


「将来のお嫁さんだろう」

「っ、だから!それが気に食わないんです!」


呆れたような王の言葉に対して、アルバートは食ってかかった。そしてまるで仇を見るような目でライナを、そしてなぜかライナの父親を睨みつける。

好意的、とは言わずともこれほど敵視される言われはない。なぜこれほど嫌われているのか心当たりのないライナは、はてと頭を傾げた。

そして、アルバートの敵意を一緒に受けている父親の方を見た。父親はライナの視線に気付き苦笑いする。


「実はな、少しアルバート殿下に嫌われているんだ」


思いもしない言葉にライナは大きな瞳を瞬かせた。

父親は王国随一の貴族であり国のナンバー2だ。権力も地位も持ち合わせていながらそれを鼻にかけることはなく、少し強面だが整った顔は表情には乏しいが2児の父になった後もそれなりに人気がある。インガルを助けて後の面倒も見るような正義感にも溢れ行動力があり、部下にも頼りにされている。そしてなによりも妻を愛し家族を愛する家族愛に満ちた人だ。

身内目を抜きにしてもかなりの人格者で、嫌われるような人じゃない。むしろどこが嫌いなのか知りたいほどだ。

少し目を見開いてアルバートを見つめると、嫌そうな目とぶつかる。


「・・・なんだよ」


不機嫌を隠しもしないアルバートに、ライナも少しうんざりする。父親が嫌いだからと言って自分まで睨まれる言われはないし、これが将来の旦那かと思うとじっとりと嫌な気分が沸き起こる。

確かに容姿は整っているが、ライナはすでにインガルという絶対的な美の権化を見てしまったのだ。もちろん他の人にとってはインガルと同じくらいアルバートも至極の美少年なのだが、ライナにとっては雲泥の差があった。インガルが天使なら、アルバートは小バエ程度にしか思っていない。


「・・・いえ、別に」


そちらがそんな態度なら、とライナも目を逸らしアルバートにぞんざいな態度をとった。そんなライナに青筋を立てたアルバートは、我慢していたのを吐き出すかのように叫ぶ。


「ほんっと、アルドの野郎とそっくりだな!心底腹立たしい!」


本人を目の前にしての暴言に父親である王が止めようとするが、一度口に出してしまえば止めることはできない。アルバートは次々と暴言を加速させる。


「その人を小馬鹿にするような目!人形みたいに無表情ですましやがって!王国で王の次に偉いのか知らないが、俺はアルドなんて認めない!アルドの娘なんて心底不愉快だ!大体父上のお気に入りかなにか知らないが、」

「お、おいアルバート」


「父上の一番は母上と俺なんだからな!アルドなんかが寵愛を受けるなんて許さない!」



突然捲し立てるように言われた言葉を理解する前に、ライナはへ?、と間抜けな声を上げた。

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