小話1
・運命の出会いを果たした日のライナの部屋にて
夜も深く屋敷の誰もが寝静まった夜。
ライナの侍女であるメリアは、一人静かに決意していた。
ライナより5つ年上のメリアはライナが5歳の頃から専属として、実の両親よりも近い場所でライナの成長を見守ってきた。時に姉として、時に友達として、侍女としても仕事をこなしつつ着々と信頼関係を結んできた自負がメリアにはある。
だからこそ、この仕事は自分しかできない。
自分しか、止められない。
一度深呼吸して呼吸を整える。
手をかけたドアノブはライナの部屋のものだ。ここを開けば奥にライナがいる。
メリアは意を決して扉を開けた。
「お嬢様!」
ライナの部屋は一人娘ということもあり一級品ながらも可愛らしい家具が置かれ、優しいピンクとオフホワイトの色で統一された少女らしい部屋だ。
その中央に立つのは、この部屋の主人でありメリアの主人でもある少女。天使に見紛うほど美しい彼女は鼻にちり紙を詰め、黒い衣装を着込み、手にはなぜかペンと紙を持っていた。
「め、メリア、違うの、これは・・・!」
「何が違うんですか!」
ずんずんとライナの方へ歩み寄ってくるメリアからなんとか逃げようと目を右往左往させるライナ。手を伸ばせば捕まるというところで、ライナは必死にメリアの手をくぐりドアへと走った。
「ここで捕まるわけには・・・!」
しかし、子供の5歳差は大きく扉から出る前に捕まってしまう。
「お嬢様。こんな夜更けにどこへ行かれるのですか?」
「ちょ、ちょっとトイレに・・・」
目を泳がせながらごにょごにょと言い訳するライナをじっとりと見つめるメリア。
なんとか突破口を探し出そうとするが、離すものかと両手を捕まれにっこりと笑顔を浮かべながらプレッシャーをかけるメリアから逃げ出せそうもない。
「どこに、何をしに行かれるつもりだったのですか?」
さらに掛けられるプレッシャーにおされ、ライナは
白旗を上げるしかなかった。
「い、インガルお兄様のところです・・・」
「何をしに?」
「え、えっと、突然鼻血を出して失礼をしてしまったことへのお詫びを・・・」
「違いますよね?」
なんとか取り繕うとするライナの発言をすげなく切り返し、メリアはライナの手からペンと紙を奪う。
「なぜお詫びに筆記具が必要なのですか?それと、こんな夜中にお坊ちゃまも起きていらっしゃらないでしょう?」
図星をつかれ最早言い訳をする余地もなかった。
「・・・寝顔を、見に行きたいな、と・・・」
「筆記具は?」
「・・・・・・絵に描きたいな、と・・・」
「何を?」
「・・・」
「何を、ですか?」
「・・・・・・お兄様の寝顔を!描きに行こうとしていました!」
誤魔化しも効かない相手にとうとうどうしようもなくなり、逆ギレ気味に魂胆を話した。
つまりは、一目惚れした兄の部屋に深夜侵入し兄の寝顔を写生しようというのだ。
「だってだって、天使の寝顔なんて10000%可愛いに決まってるじゃない!起きて実際に動いてるところなんて直視できるわけもないし!寝顔くらい、寝てる間くらい顔を見に行ってもいいじゃないの!」
とんでも理論を繰り広げるライナに、メリアは少なからず衝撃を受ける。今までかなり近い場所で見守ってきて、それなりに不可思議な部分があることを知っていたがここまでとは。
「それに本当は王国一の腕前の絵描きに描いてもらいたいのよ?でも今日は捕まらなかったし、間違ってこの世界にきてしまったお兄様が神様の元に連れていかれる前にこの美しさを描き止めておかないと、二度とこの感動を味わえないかもしれないのよ!?」
錯乱しているライナの言葉は最早なにをいってるのか分からない。ただ、とりあえず心底義理の兄に惚れ込んでいることが分かったメリアは、深夜夜這いが如く兄の部屋に忍び込もうとするライナを止めるためにさらに拘束の力を強めたのだった。
・一方その頃のインガルの部屋にて
「うわ、ふかふか・・・。枕も、布団も、きもちいい・・・。ここ、これが天国なのかも・・・」
最高級の寝具に包まれ蕩けるような笑顔を浮かべるインガルには、妹の邪な考えなど気付くよしもなかった。
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なんとなく上げた自分の小説に対して、感想や評価、ブックマークがあるのが嬉しくて、
読んでくれる人がいるのが嬉しくて、
1話投稿後に思わずテンション上がって書いちゃった小話。
実は2話が上がる前に完成してたんだけど、2話に主にライナのインガルへの想いを書いたので2話の後にアップ。
ちなみにインガルはベッドに入る時まで窓際で黄昏ながら「あの子可愛かったなぁ・・・。って、またあの子のこと考えて、変態みたいじゃないか・・・!」と、初恋の相手の顔を思い出しては赤面して、初恋を満喫していました。
もちろん、深夜部屋に忍び込もうとか寝顔を写生しようとかは考えもしませんでした。