第9話 初めての村(4)
「弓の扱いを知りたい!?」
村の門から外へ出ようとしていたレンを呼び止め、ボクが「戦い方を覚えたい。弓矢を教えてほしい」と言ったら、そんな驚きの声が返ってきた。それに対してボクは黙ったまま力強く頷いた。
この世界に召還されてから一夜が明け、元の世界に戻るのは容易ではないと感じたボクは、ひとまず今一番脅威である『魔物』への対抗手段を身につけることにした。
本当は『召還』についてローザに色々と聞いておきたかったのだが、どうも村長の仕事の手伝いが忙しいらしく、夕方までは暇がないと、申し訳なさそうに言われた。
「良いぜ。ちょうど今から、俺も練習しに行くところだったからな」
レンはそう言ってボクの要求を意外なほど素直に受け入れた。
「頼んでおいてこう言うのも変だけど、本当に良いの? 昨日会ったばかりのボクに教えても」
内心驚きつつそう聞いてみると、レンはニッと笑った。
「良いってことよ。その代わり、畑仕事とか色々手伝ってもらうけどな」
しかし、背を向けて歩き出したところで、わずかに笑みを曇らせ、
「それに、ハナノと同じ目に遭わせるわけにはいかないからな」
と、小さくつぶやいたのを、ボクは聞き逃さなかった。
これは今朝、ローザから教えられたことなのだが、ヒトクイカズラの毒は元々、獲物の動きを止めるだけの比較的弱い毒なのだが、体質によっては重症化し、命を落とす場合もあるという。
花野とは元の世界でも決して親しい間柄ではない。だが、これ以上クラスメートを喪う事態だけはなんとしてでも避けたい。――少しでも共通点のある人物は、この特殊な状況下では貴重だ。
「それじゃ、始めるか。俺についてこい、練習場まで案内するぜ。練習に使う弓矢は俺の予備のやつを貸すよ」
レンは表情を明るくして、手振りでボクの移動を促した。彼の健脚ぶりにやや苦労しながら、ボクは前を歩く彼の後ろについていった。
練習場は、村のはずれの空き地だった。切り口がまだ新しい切り株と、一抱えほどある岩がいくつか残っていて、開発にはまだまだ時間がかかりそうな場所にあった。
「ここだ。ここからあの的を狙うんだ」
レンが切り株や岩がないぽっかり開けたスペースに立ち、別の場所を指さしながらそう言った。
指さした先には別の開けたスペースがあり、そこには木製の円形の的が設置されていた。そして、二つのスペースの間には障害物となりそうなものは取り除かれていた。
初めての弓矢の訓練を前に、ボクはこの世界にきてから不安でぐちゃぐちゃになった頭の中を、深呼吸をして無理矢理切り替えた。
とにもかくにも、まずはこの世界で生き残る方法を少しでも習得しなければ――。ボクは両手を握りこぶしにして、こぶしの中に汗をにじませた。
次回は9月21日の予定です。
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