表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/67

第6話 初めての村(1)

「あ、あれ。足が……」


 異世界に召還され、化け物に襲われ、やっと落ち着ける状況になったと思った時、花野が両足を抱え込んでその場に倒れた。


「痛い痒い痛い痒い痛い痒い痛い痛い痛い――!」


 花野はのたうち回り叫びながら両足を掻きむしり、あっという間に白い靴下が血で真っ赤に染まった。


「くそっ、ヒトクイカズラの毒か!」


 レンは革製の手袋をはめ、花野の両手を紐で縛った。それから素早く両足の血を拭き取って、粘り気のある液体を塗りつけると、


「おい、そこのお前。危険だから、近づくなよ」


 多分、この時には確信に近い予感がしていたのだろう。ボクの心拍が徐々に上がっていき、脳内がその予感で埋め尽くされていった。


 レンとローザも考えは同じなのだろう。表情に焦燥と悔悟、悲嘆と憐憫が入り混じり、滲み出ていた。


「ここにいても仕方ないわ。村に戻りましょう。レン、彼女をお願い」


 あくまで淡々と、冷静にローザはそう指示した。しかし、すぐにこちらに顔を見せないように、ローブの裾を翻しながら背を向けた。レンは花野を手当しつつ静かに頷いた。




 村に着いたのは夕方遅くになってからだった。森を切り開いて開墾した畑、その畑の隙間に詰めるように質素な木造の家屋が、十数ほどまばらに建っているだけの、実にのどかな村だった。


 日没直前の太陽が村を橙色に染める中、何人かの村人とすれ違い、何か聞かれたような気がするが、後々になっても思い出せない。


 ローザの手引きでその日の夜は、ひとまず村長の家に一泊することになった。村の代表者が住むだけあって、村の中では一番立派な家だった。


「大変だったね。突然、違う世界に呼ばれるとは」


 白髪交じりの初老の男、村長でローザの父でもあるローグマンの優しげな言葉と笑みに、この世界に来て初めて、安堵と猛烈な疲労感を感じた。


 それでも、その日の夜はどうしても寝付けず、こっそりと村長の家を抜け出し、村の中を散歩することにした。


 村の西から中央を通って南に流れる、小川の清らかなせせらぎ。村唯一の風車を回す、木々の匂いをはらんだ夜風。色とりどりの宝石を、墨色のベールの上に散りばめたような満天の星空。


 都会で生まれ育ったボクにとって、どれも元の世界では体験したことのないものばかりだった。


「よう。元気そうだな」


 村の情景に夢中になっていたボクに、誰かが後ろから親しげに声をかけてきた。びっくりして慌てて振り向くと、長い髪を後ろに束ねた、浅黒い肌の少年――レンが穏やかに笑いながら立っていた。



ツイッターもやってますんで、良かったらフォローお願いします。https://twitter.com/nakamurayuta26?lang=ja

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いま一人称の物を書こうと思っていたので、一人称文章の良い勉強になりました。臨場感がありこの先この主人公がどの様な世界に巻き込まれてゆくのかと段々判明して行く緊迫した状況が伝わって来る様です…
[良い点] クラス全員転移で、シビアな世界観。 安易な展開じゃなくて良いですね! まだ冒頭なのでなんとも言えないですが主人公がどう成長していくか楽しみです! [一言] 頑張ってください!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ