第53話 スノウリング村(5)
ボクの『告白』からしばらくして、ようやく泣き止んだローザと一緒に窓の外の景色を眺めていた。楽しそうに走り回る子供達と、それを優しく見守る大人達。――今だけはそれらが遠い世界の出来事のように思えてきていた。
「ねえローザ、そろそろ落ちついた?」
「落ちつけるわけないでしょ。貴方が落ちつき過ぎているの。そんな精神状態で、これからどうするつもりなの?」
ローザは自分の泣き腫らした顔を見られないように、窓の外を見ながらそう言った。ボクは無理に横から覗き込むようなことはせず、苦笑しつつ再び外の景色に目をやると、今朝から止んでいた雪がちらほらと降り始めた。
「ボクはね、思うんだ。この世界に来なくても、いずれはこうなる運命だったのかもしれないって。だって、もう一人の『ボク』も、ボクだから」
夜空から粉雪が風に揺られてひらひらと舞い落ちては、静かに地面に消えてゆく。そんな美しくも儚い景色を目にしながら、ボクはそう口にした。ローザは何も言わず、ただ黙ってボクの言葉を聞いていた。
そして、全てを聞き終えた彼女は窓に近づいて、冷たいガラスに額をくっつけると、自分の顔が映らないようにするかのように、白い吐息で窓を曇らせた。
ボクは固唾を呑んでローザの返事をじっと待った。幸いなことにその間、他の宿泊客が近くを通り過ぎるようなことはなかった。
一秒一秒が、いつもよりずっと長く感じた。
「約束して」「何を?」
時間の感覚がそろそろ完全に麻痺してきた頃になって、ローザはようやくボクの方に振り向いた。彼女は今にもまた泣き出しそうな顔になりながらも、ぐっと懸命に涙をこらえていた。
「心か体のどちらかに新たな異変が起きたら、もう一人の『貴方』がまた貴方の夢の中に出てきたら、私に必ず知らせること。――お願い、約束してちょうだい」
今度はボクが沈黙する番だった。わざわざお願いされなくても、何かしらこれ以上の異変が起きたら、ローザには伝えるつもりではいた。しかし、実際に異変が起きた時に、果たしてボクはボクでいられるのだろうか――?
「大丈夫、約束するよ。そして、ちゃんと守ってみせるよ」
それでもボクは約束することにした。これは彼女への誓いでもあり、そして、ボク自身への戒めでもあった。全てはこの世界でボクがボクであり続け、歪なボクを信頼して受け入れてくれた、大切な仲間達を守るために。
ボクとローザはそれから静かに、賑やかな声と煌びやかな光が消えるまでの間、二人で粉雪がゆらりゆらりと揺れ落ちる景色を眺めていた――。
次回は7月17日に公開予定です。
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