表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/67

第5話 始まりと出会い(5)

 恐慌の熱が急速に冷めていく頭脳で、ボクは淡々と機械のプログラムのように、この状況からの脱出を模索し始めていた。


 花野を引きずるツタはこの場にいる全員の力を合わせても、どうにか対処できるものには思えない。かといって、あのウツボカズラの化け物を倒すというのも困難を極めるだろう。ここまで考えが及んで、ボクの脳裏にある一案がかすめる。


 花野を見捨て、後ろの二人を頼りに逃げる。


 これは、『仕方のない犠牲』だ。


 正直な所、この案を責める者はそう多くないだろう。だが、ボクは微かに恐怖を覚えた。目の前の化け物に対してではない。冷徹にこの一案を考え出し、冷静に受け止めている自分が、ボクの中に存在していることに対してだ。


 躊躇いを覚える自分と、冷徹に逃走を進言するもう一人の自分。


 両方のボクがせめぎ合い、その葛藤がボクの思考を混乱に陥れる。


「伏せろ!」


 レンと呼ばれた弓使いの少年がそう叫んだ直後、咄嗟に伏せたボクの頭上を、一本の矢が鋭く風を切って、化け物の胴体に突き刺さった。矢じりが刺さった所から、赤みがかった粉のようなものが飛び散った。


 最初は飛び出た血かと思ったが、それにしてはどうも化け物の様子がおかしい。痛がっているというより、まるで赤みがかった粉のようなものを、必死に体から払おうとしているかのようだった。


「逃げるぞ!」


 化け物の異変に目を奪われていたボクは、後ろから襟首を掴まれて倒れそうになったが、そのお陰で、花野が触手の拘束を解かれ、逃げだそうとしているのに気が付いた。


 今なら躊躇いが足を止めることもない。ボクは花野の手を引っ張り、その場を急いで走り去った。




 あれからどのくらい走っただろうか。少なくとも、実際に走った時間は数分程度だろうし、距離もそれ相応の長さに過ぎないのだろう。


 だが、この森で目覚めてからというもの一般常識からかけ離れた出来事に立て続けに遭っているからか、まるで数年間もの間、森の中を彷徨っているかのような錯覚さえ覚え始めていた。


 年季の入った吊り橋を渡り、やや開けた場所まで来た。


「ここまで逃げたら、もう大丈夫よ」


 と、ローブの少女が肩で息をしながらそう言って、ようやく全員が立ち止まった。一番体力のありそうなレンも、汗の滲んだ肌を手で拭っていた。


 花野にいたっては地面に突っ伏して嘔吐した。無理もない話だった。あれだけのことがあった後に、慣れない土地を移動すれば、体調に良いはずがない。


 そして、ここでボクは自分の体にある異変が起きているのに気が付いた。他の三人と同じ距離を走っているのにも関わらず、疲労感を殆ど感じていなかった。


「流石ね。曲がりなりにも召還されただけはあるわ」


 息が整った様子のローブの少女は、ボクを見ながら、落ち着いた口調で淡々とそう口にすると、一瞬だけレンと目を合わせ、憂鬱そうに表情を暗くした。


「私の名前はローザ。どれだけの付き合いになるか分からないけれど、よろしくね」



ツイッターもやってますんで、良かったらフォローお願いします。https://twitter.com/nakamurayuta26?lang=ja

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読みやすくスラスラ読める。 [気になる点] キャラの描写が最小限。 あまり危機感が感じられない。
[一言] 読ませていただきました。 いきなりの召喚でこの事態は…インパクトがありますね! これからも頑張ってください!
[良い点] 平穏な日常から突然の異世界召喚。ウツボカズラの化け物の描写が生々しくゾクゾクと怖さが伝わってきました! 眼鏡だけ吐き出したところにもセンスを感じます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ