第41話 オズウィン砦(4)
巧みな演説によって士気が高揚した集団の動きは、実に統制がとれていて、なおかつ迅速だった。演説が終わってから三十分もしないうちに、五百を超える全ての兵が布陣し終えていた。
オズウィン砦の防壁の上には弓矢を装備した兵士と冒険者が中心になって守りを固めている。北の広場にはいくつもの投石機が設置されていて、砦の防壁に近づく敵兵に遠くから攻撃する作戦になっている。ボクとレンは防壁の上、ローザは北の広場、花野は砦内部の治療室に配置された。
全ての配置が終わってからしばらくすると、雪がしんしんと降り始めた。そして、セルモンド山岳の麓の森林から、異形の軍隊が姿を現した。
歪で禍々しい装備に身を固めた異形の軍隊が、徐々に砦に近づくにつれて、ボクの周囲の緊張が高まりつつあるのがはっきりと伝わってくる。中には恐怖に身を激しく震わせる者や、その場で嘔吐してしまう者さえいた。
「――生き残るよ」
隣で弓を手にしたまま異形の軍隊を睨むレンに、ボクは砦の門の前で言った言葉を再び口にした。レンもまた前回と同様に静かに頷いた。
異形の軍隊が隊列を整えると、何体かの魔物が角笛を手に取り、一斉に吹き鳴らして両軍に開戦を告げた。時を同じくして異形の軍隊は鬨の声を上げながら、重装歩兵と弓兵、そして工兵を第一陣にして、オズウィン砦への攻撃を開始した。
「総員、迎撃準備!」
防壁の上の指揮を担当することになったレウニグスの合図を聞いて、ボクとレンを含めた弓矢を装備している者全員が、次々に矢筒から矢を抜いて弓の弦にかけ、矢じりの切っ先を迫り来る異形の軍隊に向けた。
時々雪で足を滑らせながらも、異形の軍隊は障害物のある場所まで砦に接近し、ゴブリン工兵がオーク重装歩兵に守られつつ、最初の木の柵を破壊しようとし始めた時だった。
「――放て!」
レウニグスの叫び声と共にボク達は一斉に矢を放った。放たれた大量の矢は黒い雲となって大空で風を切り刻み、ざあああと、土砂降りの雨のように敵軍に降り注いだ。
「グギッ!」「ギイイイッ、ギイイイッ!」「コロス、コロス!」「ススメ、ススメ!」
純白の雪原は敵軍の兵士の血で真っ赤に染まり、敵軍から悲鳴と怒号と断末魔が上がった。それでも敵軍の勢いは止まるどころかさらに増し、最初の木の柵を突破された。
「怯むな、手を止めるな、ありったけの矢を浴びせ続けろ!」
猛進してくる敵軍に圧倒されそうになったボク達に対して、レウニグスは一喝して攻撃の続行を命じてきた。辛うじて戦意を失わずに済んだボク達は、引き続き何度も何度も矢を放った。北の広場の投石機も二枚目の柵を突破された頃にようやく攻撃を開始した。投石機の岩が敵軍の頭上に落下する度に、肉と骨が潰れる嫌な音が鼓膜を刺激する。
敵軍はゴブリン工兵が深い堀に架けた橋の上を、あるいは投石機の岩と戦死した魔物で埋めた場所を渡って、三枚目の柵を突破してすぐにゴブリン弓兵による反撃を始めた。
今度はこちら側が悲鳴と断末魔を上げる番だった。ボクとレンの左右と後方から呻き声と倒れ伏す音が次々と聞こえてきた。
しかし、ボクとレンを含めて負傷者を気にかける者は誰もいない。例外がいるとすれば、治療室から出て、近くで待機していた衛生兵くらいなものだ。衛生兵達は健気にも必死に負傷者達を治療室に運んでいく。――戦いはまだ、始まったばかりだ。
次回は12月26日に公開予定です。
ツイッターもよろしくお願いします!
https://twitter.com/nakamurayuta26




