第4話 始まりと出会い(4)
どれだけ言いにくいことであったとしても、聞き出さなければ――。
ボクは意を決し、俯き気味のローブの少女に目を向け話を切り出そうとした。
「そうか、じゃあボク達はやっぱり『勇者』なんだ!」
瞳をギラギラさせ、引きつった笑みを浮かべ、田村は歓喜の奇声をあげながらあちこちを走り回り始めた。ローブの少女と弓使いの少年を含めたボク達は、少しの間、その様子を心配と呆れの両方がこもった目で見守った。
しかし、田村が茂みの特にツタのようなものが多い場所に近づいた時、弓使いの少年が真っ青に顔色を変えて必死に叫んだ。
「待て、そこに近づくな!」
「え?」
ボク自身も驚くほど気の抜けた声を出しながら、再び弓矢を構えた少年の方を見た。
後になって考えてみればその瞬間、田村から目を離したのはある意味幸運だったのかもしれない。この直後に繰り広げられた、凄惨な光景を直視せずにすんだのだから。
「う、わあああ!?」
茂みが激しくざわめく音と共に届いた、田村の悲鳴に全身が一瞬にして凍り付いた。視界の端で花野が両手で口元を覆って、目を恐怖で見開いている。
恐怖の元凶を確認しようと、ボクは勇気を振り絞り、花野の視線を辿った。辿った視線の先には、そこに立っていたはずの田村がいなかった。その代わり、ボク達の常識から完全に外れた存在が鎮座していた。
それはウツボカズラをそのまま巨大にしたような化け物で、長いツタのような触手を蠢かせていた。足と思われる根っこから、悪臭が漂ってきそうな天辺の口まで、おおよそ3メートル以上はあるだろう。
「田、村……?」
ボクは呻くように、姿を消したクラスメートの名前を呼んだ。返事はない。その代わりに、化け物の口からなにかが地面に吐き出された。よく確認するとそれは、レンズの割れた田村の眼鏡だった。
ゆっくりともう一度、地面から化け物の方、正確には化け物の口を見た。その時、化け物は嘲笑うかのように口を少し広げた。
巨大な口の中から、人間の手が伸びてきた。何かを掴もうと、あるいは助けを求めて掌が空を彷徨い、そして、底の方へずぶずぶと沈んでいった。
花野が甲高い悲鳴を上げ同時に、化け物は惨劇を続行した。まずは手近な獲物――花野へとツタの触手を伸ばした。花野は逃げようとしたが、足を素早く触手に絡め取られ、その場で仰向けに倒れた。
引きずられていく花野を目の当たりにしながら、ボクの心臓は早鐘を打ち続ける。しかし、極限まで熱せられた脳を氷の芯が貫いたように、心の奥底でボクはこの惨劇を冷静に俯瞰し始めていた。
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