第3話 始まりと出会い(3)
「いや、二人が嘘を言っている可能性は低いと思うよ。もちろん、ボク達に危害を加える可能性もね」
田村と花野は驚きで目を丸くし、弓使いの少年とローブの少女は、ボクの真意を探るように視線を鋭くした。
「君のその服装は、明らかにこんな森の中での行動に向かない。その証拠に、ローブの裾がボク達以上に泥だらけだ」
鋭い視線に気圧されずに、少女の服装を指差しながらそう指摘すると、少女ははっとした表情で自分のローブの裾を見た。
「気づいてなかったみたいだね。多分、着替えることも忘れるくらい急いでいたんだ。だから、少なくとも急いでここに来たっていうのは、嘘じゃないと思う。そもそも、危害を加えるつもりだったなら、最初から弓矢で殺しにくるのが自然な行動だと思わないかい?」
はっきり言ってこの推測は、希望的観測込みだ。事前にローブに着替え、裾に泥を塗りつけて、それからボク達に接触すればいいだけなのだから。相手の選択肢としてはこちらも可能性は低い。だが、どうしても否定しきれない。やはり、ボクもどこか感情的になってしまっているのだろう。
「ボクの言ったことが本当か、それとも、上手く騙されているのかは分からない。どっちにしても、今はこの人達に助けを乞うしかないと思う。この場所は、それだけボク達が住んでいる環境からかけ離れているから」
それに、これ以上この場所に留まるのは危険極まりない。ボク達には水も食料もなく、周辺の地理にも明るくない。さらには、いつどこからか野生動物が襲ってきてもおかしくないのだ。だからこそ、田村と花野の意識を「森からの脱出」に向ける必要がある。
「レン、大丈夫よ。この人達は間違いなく人間で、そして『来訪者』よ」
ローブの少女が弓使いの少年にそう囁いた。すると、弓使いの少年は弓矢を下ろし、警戒をいくばくか解いたようだ。『来訪者』という言葉の意味することは分からないが、少なくとも話し合いの余地は生まれたようだ。
「ようこそ、私達の世界へ。異界より来訪せし方々」
ローブの少女は歌うように、しかしどこか淡々とボク達にそう告げた。――ローブの少女の顔に影が差したように見えたのは、ボクの気のせいなのだろうか。
「ひぃっ、ひぃっ」
突然、喘息の発作のような呼吸音が聞こえ、後ろを振り向くと、田村が顔を青くし、全身を小刻みに震わせていた。
今まで一度も見たこともない田村の様子に、ボクは一瞬、田村がパニックを起こすのではないかと不安になった。しかし、田村は眼鏡のレンズ越しに目を異様にギラつかせて、
「分かったよ、ボク達は『勇者』なんだ!」
と、言い出した。場に沈黙と困惑が広がった。
「確かに、貴方達が『選ばれし者』である可能性はあるけれど……」
ローブの少女は何か後ろめたそうに口ごもった。だが、状況が状況だ。例え、どれだけ少女にとって言いづらいことであったとしても、ボク達にとって有益な情報はなんとしてでも聞き出さないと――。
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