第28話 ノースブルク村(6)
ノースブルク村を日がすっかり暮れるまで観光したボク達は、『青い鳥』に戻った後に男女に分かれ、それぞれの部屋で明日の面会に備えていた。レンは既に隣のベッドで熟睡しているし、久し振りに一日中歩き回って疲れていた様子の花野も、今頃は夢の中にいることだろう。
廊下の明かりは消され、別室の宿泊客達も寝静まっていて、宿の中は自身の脈打つ音さえ聞こえそうな静寂と、清らかな純白の月光で満ちていた。廊下の窓から村の大通りを見渡すと、賑やかだった昼間とは一変して、冷たい北風が通り抜けるだけの寂しい光景が広がっていた。
そして、隣室からローザがゆっくりとドアを開けて廊下に出てきた。先に待っていたボクに気が付くと、穏やかに微笑んで音を立てないようにドアを閉めた。
「ごめんなさい。待たせてしまったかしら?」
「いや、ボクもついさっき来たところだよ」
ローザは窓から入ってくる月の光を浴びつつ、ボクの隣に立って同じように窓から外の景色を眺めた。
「ハナノさんはぐっすり眠っているわ。体調も精神状態も、今のところは良好ね」
異世界『ヴァルキア・ソフィア』に召還されてから、花野は前触れなく襲ってきた不幸に翻弄されてきたので、このノースブルク村への旅行が少しでもプラスになりそうなのは、ボクにとっても朗報だった。
そして、そんな喜びとも打算的とも言える思考を働かせながら、そろそろ本題に入っていくことにした。
「そういえばローザ、二人きりで話がしたいって、どうしたの?」
ボクがそう話を切り出してみると、ローザはぴくりと肩を震わせ、どこか躊躇いがちにボクの方に顔を向け、目と目を合わせた。
「ねえ、ムラカミくん。貴方は――冒険者になって、何をするの?」
ローザの黄金色の瞳が、少しだけ揺らいでいるような気がした。外の凍えそうなほど冷たい北風が窓を叩き、雲が月の光を遮った。
ボクは「この世界で生きていくための生活基盤を作る」と、答えようとしたが、直前になってローザが求めている答えはこれではないことに気が付いた。何故なら、生活基盤の話は前々から周知しているのだ。
となれば、ローザが今ここで求めている答えとは何か。――おそらく、ボクが生活基盤を得た『先』のことだろう。
「他のクラスメートを捜して、可能ならば協力関係を築きたい。『加護』の力は大きな戦力になるだろうし、何より、一度は同じ空間で同じ時間を過ごした人達だから。――もちろん、イチノセ村を拠点にしてね」
ボクは迷うことなく前々から考えていた計画の一部を口にした。これを誰かに教えるのは初めてのことだった。そして、ボクの返答を聞いたローザは、どこか安堵した表情になると、再び窓から外の景色を眺め始めた。
やがて、凍えそうなほど冷たい北風は少しばかり穏やかになり、雲の切れ目からは月が顔を覗かせた。
次回は6月27日に公開する予定です。
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