第22話 父の愛情と責務
越冬前の狩猟を終えた翌日、ボクは村長宅の書斎で羽ペンを片手に、文字がびっしりと書かれた数枚の書類と睨めっこしていた。すぐ目の前の席には、ローグマンが真剣な面持ちで座って立ち会っていた。
ボクがこの世界で自由に活動するために必要なもの、『異界難民証明書』と『冒険者証明書』の発行手続きをしていた。
ゴブリンの群れを撃破した功績と、ボクの日頃の生活態度が良好であることを考慮して、ローグマンは『議員』として推薦状を然るべき組織に郵送していた。そして、ボクは二つの『証明書』の取得に必要な、多岐にわたる様々な試験や審査を、免除してもらえることとなった。
数十分ほどかけて書類の隅々まで目を通し、いくつもの直筆のサインをした後、ローグマンに手渡した。ローグマンは手渡された書類を全て確認し終えると、ボクの方に顔を向けて、にっこりと柔和な笑みを浮かべた。
「うん、必要なサインは全部書かれているね。お疲れ様。これでもう、二つの『証明書』は大丈夫だよ」
ローグマンのその言葉を聞いてボクは羽ペンを机の上に置き、椅子の背もたれに体を預けて大きく伸びをした。これでようやく、自由に行動出来る。前々から計画していたことも実行に移せる。――この世界に来て初めて胸を躍らせていると、ローグマンは再び真剣な面持ちに戻っていた。
「あの、ローグマンさん。……どうしました?」
知らない内に失礼なことをしてしまっていたのかと、内心焦り始めたが、ローグマンは苦笑しながらボクの杞憂を否定した。
「ごめんごめん、君が悪いわけじゃないんだよ。ただ、私の娘、ローザのことで頼みたいことがあるんだよ」
ローグマンはボクから窓の向こう側、氷点下の白銀の世界へと視線を向けた。
「私の妻、つまりローザの母はね、あまり体が強くなかったんだよ。――もう、十年も前になるんだね。流行り病で命を落としてしまったんだよ」
「母親を……」
相手に何を言えばいいのか、自分は何を言いたいのか、とっさにボクは思いつかなかった。ただ、幼いローザが母の死を悲しむ姿をぼんやりと想像して、黙り込むしかなかった。
「あの子はね……、私の後に村長としての責務を負うことになることも……、それがどれだけ重いものかも理解しているんだよ。……『民政主義』もまだまだ完全には根付いていないからね」
村長としてではなく一人の父親として、ローグマンはそう言うと視線をボクの方に戻し、ぎゅっと口を真一文字にして瞳を彷徨わせた。その姿を見てボクは、やはり親子なのだなと感じた。
「大丈夫ですよ、ローグマンさん。あくまで出来る範囲でですが、ボクもローザの力になりたいと思っていますから」
この世界での生活に慣れるまで、随分と彼女の世話になった。これからは対等な仲間として、彼女に恩返しをしたい。そんな思いが、自然とボクを突き動かした。
「そうか、ありがとう」
ローグマンは微笑みながら、何かを噛みしめるように感謝の言葉を口にした。
次回は4月25日に公開する予定です。
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