第18話 初めての戦い(6)
『光』と『毒』、二つの奇襲を立て続けに受けたゴブリンの群れは、完全に統制を失ってパニック状態に陥っていた。大きな被害を免れたゴブリンリーダーのみが、かろうじて状況を理解し、森の出口に向かって走るボク達を、怒りを露わにしながら追ってきていた。
(ここまでは順調。後は――)
「ムラカミ、出口だ!」
レンの指さす方向には、一点の黒い点――森の出口があり、森の緑色の中にはっきりと見える大きさになるまで近づいていた。
イチノセの森を抜けると、すぐ目の前に年季の入った吊り橋がかかっていた。一昨日、花野とレン達と共に渡った橋だ。この先はやや開けた野原になっていて、イチノセ村が遠目に小さく見える。
「もうすぐだ!」
追いつかれたら作戦はその時点で失敗だ。激しく揺れるのにも構わず、ボクとレンは駆け抜けるように吊り橋を渡りきった。その直後に、ゴブリンリーダーが森を抜け出し、吊り橋を渡り始めた。背丈はボク達とそれほど変わらないというのに、吊り橋はボク達の時より大きく揺れた。強靱な足腰で強引に渡っているため、吊り橋はギシギシと大きな悲鳴を上げている。
そして、遂にゴブリンリーダーも吊り橋を渡りきった時、吊り橋の近く――ゴブリンリーダーの背後に数人の人間の姿が出現した。
「ギギィ!?」
ゴブリンリーダーが突然現れた背後の気配に驚いて振り向くと、そこでは、四人の人間の男――ローグマンとイチノセ村の農夫が、斧や鎌で吊り橋を壊し始めていた。実は最初の奇襲を仕掛ける前に、ローザの魔法で姿と気配を隠していてもらっていたのだ。
ボク達の今までの行動の意図に、遅まきながらようやく気がついたらしく、ゴブリンリーダーは吊り橋の破壊を阻止しようと、棍棒を振り上げながらローグマン達に襲いかかろうとした。
しかし、ボクとレンは向けられた背に向かって容赦なく矢を放った。ゴブリンリーダーの右足と背中に矢が突き刺さり、そのまま前に転倒した。同時に、吊り橋が破壊されて、川に大きな水しぶきが上がった。
ゴブリンリーダーが呆然と破壊された吊り橋の残骸を目にしていると、突如として、黄金色の光の粒子が辺り一帯を満たした。
「終わりよ」
ローザが口にした、身も心も凍りつきそうな宣告と共に、光の粒子がゴブリンリーダーの周囲に集まり――、
黄金色の火柱が、大地もろとも敵を焼き尽くした。
あまりの光と爆音に、森中の鳥獣が目を覚まし、散り散りになって逃げていった。
火柱が敵を焼き尽くす直前、偶然にも、ゴブリンリーダーと目があった。……多分、ボクはその目を一生忘れることはないと思う。
(悪いね。ボクもまだ、死にたくはないんだ)
次回は3月7日に公開予定です。
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