第13話 初めての戦い(1)
月明かりが照らす村の中を、ボク達は息を切らしながら疾走していた。先頭を走るレンはそれでもなお、時々もどかしそうに振り返っていた。
「急げ! 奴らが村の中に入ってくるかもしれねぇんだぞ!」
「分かってるわよ!」
苛立たしげに叫んだレンに対して、ローザも鬼気迫る声で返した。
ボクはといえば、『加護』とやらのおかげで体の方はついていけているのだが、状況を未だにしっかり理解しきれず、頭の中は置いてけぼりをくらってしまっていた。
村長の家を飛び出して数分後、村の北部の畑に到着した。畑には、いくつもの足跡や野菜を掘り返した跡が残っている。畑を守る柵は強引かつ無残に壊されていて、木片が辺りに散らばっていた。
「くそっ、大分やられているな」
矢筒から矢を引き抜いて、レンは周囲を警戒し始めた。ボクも壊れた柵の向こう側にある森に、何か潜んでいないか目を凝らす。
森の奥には、見つめていると吸い込まれそうな深い闇が、ただじっとこちらを見つめ返してくるだけだった。
「気配と足跡から推測するに、村の中に入られた心配はなさそうだな」
「ええ。でも、味を占めたゴブリン共は、また来るでしょうね。しかも、もっと大勢で」
二人の間に深刻な空気が滲み出てきた。ここにきてようやく理解が追いついてきたボクは、ローザにこれからどうするべきなのかを聞いた。
「ゴブリンの群れの規模にもよるけど、最悪の場合、村を放棄するしかないわね」
村を放棄する――。この村に滞在して日の浅いボクでさえ、受け入れ難い選択肢であるのに、二人や村人たちにとって、どれだけ苦渋の決断になるかは想像に難くない。
「もしも、逃げ切れそうにない場合は……。後のことは頼むわよ、レン」
「ああ、分かった」
ローザが柵の壊された部分を見ながらそう指示すると、レンは絞り出すように応え、口を真一文字に結んだ。
「ローザ、君はどうするつもりなんだい?」
ボクの言葉にローザはぴくっと反応した。嫌な予感を覚えつつ、ボクはローザの答えを待った。ほんの少しの間、夜風が草木を揺らす音だけが聞こえた。
「私とお父さん――村長だけ残って、少しでも時間を稼ぐわ」
その行為が最終的に彼女と村長に、どんなに恐ろしい結末をもたらすか、これも想像に難くなかった。だが、ローザはボクの反論を封じ込めるかのように、こう続けた。
「私が、私達一族がやらなけらばならないの。この村で初めて『召還魔法』を使って、現在の状況を招いてしまった、私達一族が――」
次回の投稿は12月7日の予定です。
ツイッターもやってますんで、良かったらフォローお願いします。https://twitter.com/nakamurayuta26?lang=ja