第12話 女神と二つの世界(2)
『魔王ベルフェゴール』――。旧世界暦1189年、今からおよそ100年前に『ヴァルキア・ソフィア』に大軍を率いて異界から侵攻し、全世界を恐怖と混乱に陥れた。
各国の王族は高名な魔法使いたちに、『召還魔法』によって異界から数多の勇者たちを召還させた。
『召還魔法』を通じて、勇の女神ヴァルキアの加護を得た勇者たちは、世界各地で魔王軍を相手に奮闘した。
しかし、元々一つの世界から二つに分かれた『ヴァルキア・ソフィア』は、その影響で非常に弱体化しており、魔王軍との戦争は長期化の一途を辿った。
十数年に及んだ戦争は、『ヴァルキア・ソフィア』と勇者たちの勝利で終わった。だが、勇者たちが『帰還魔法』で元の世界に帰還した後、予期していなかった悲劇が訪れた。
『召還魔法』と対となる『帰還魔法』を一斉に発動した日から、『召還魔法』が制御できなくなり、異界からあらゆる生物や事象などが、術者の想定していない形で召還されるようになってしまった。
後世の『召還魔法』と『帰還魔法』に関する研究によって、世界と世界を隔てる『世界の狭間』が、『召還魔法』と『帰還魔法』の乱用によって、大きな歪みが生じたことが原因だと判明した。
それ以来、『召還魔法』と『帰還魔法』の研究は安全のため、『国際召還・帰還魔法規制条約』により、世界中で原則として禁止された。
しかし、各地の廃棄された魔法研究所の跡地で、解除できなかった『召還魔法』が暴発する事故が度々発生し、誰も望んでいなかった召還による犠牲者、異界からの難民――『異界難民』が国際的な問題となってしまった――。
「――とまあ、これがこの世界を取り巻く現状なわけなんだよ」
ローグマンとローザから語られた、この世界の成り立ちから現在までの歴史は、日本から召還されたボク達が、極めて難しい立場に立たされていることに、否応なく気づかされるものだった。
(日本に帰ることは事実上不可能な上、この世界での身分も不安定、か)
だったら尚更、目の前の二人を利用するほかない。何故ここまで好意的に受け入れてくれているのかは分からないが、この二人との関係は良好かつ好都合だ。
ボクが胸の内で、そんな自己嫌悪に陥りそうな打算を働かせていると、急に外がにわかに騒がしくなり始めた。
書斎の会話を中断し、外に向けて耳を澄ましていると、玄関の方からレンの叫び声が聞こえてきた。それは、この世界に来て初めて経験する、村の存亡をかけた戦いの始まりでもあった。
「村長、ローザ、大変だ! ゴブリン共が畑を荒らしやがった!」
次回の投稿は11月16日の予定です。
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