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彼の名はウィリアム・リウィロ。名門公爵家の御曹司で、私と同い年の少年だ。
「………………」
「………………」
…………ずっと無言だ。そして私も無言。私から話すべきなのか。というより、偉そうな態度の割には、何も話さないのか。もしかしたら、話せないのかもしれないが。
「………おい」
とりあえず、話せるらしい。
「何故お前は留学するのだ。わが国の方が優れているというのに」
「本当にそうお考えですか?」
私は信じられない思いでもう一度聞いた。
「当たり前だろう」
………馬鹿だ。私はそう思わざるを得ない。確かに殆どの学問はシェニーパ王国での研究がこの大陸で盛んだ。しかし、それは昔からある学問において、である。伝統を重きにおくこの国は新しい学問をなかなか受容しようとしないので、新しい学問においては他国の方が勝っているのである。そのことをこのお坊ちゃんは知らないのだろうか。
「ですが、市民階級の方々によってつくられた新しい学問はその理論から外れることはご存じですか?」
「………お前は、そんな学問を学びたいのか」
と私を馬鹿にしたように言う。なんだか、しゃくに障る。
「ええ。あなたも私についてきたということなら、そういうことなのではございませんの?」
私の言葉で彼は顔を歪めた。………なんて分かりやすい。
「そんなわけ無いだろう!俺は仕方なく同行しているだけだ!一緒にするな!」
………感情が面に出過ぎだ。本当に貴族か………?いや、まあ愚かな貴族には違いない。
「はあ、では何故仕方なく同行することに?」
「………リウィロ家のためだ。それ以上でもそれ以下でもない」
………まあ、気軽に教える馬鹿ではない………か。リウィロ家が私の我が儘即ち王の我が儘を受け入れた取り引き条件を言うほどには。いや、知らない可能性の方が高い…………か?
「そうですか。まあ、ご存じとは思いますが、今回の留学について補足説明いたしますね」
「しなくて結構だ」
「今回はあちらの学校には下流貴族として入学しますので、ご了承ください」
「はあ!?」
「ですので、召使いは一切いませんから」
「…………何でまた自分から面倒な方に行くんだ………?」
私は少し微笑むと彼はぎょっとした顔になった。
「ご自分でお考えくださいませ」
「………………」
それ以上話すと恥だと思ったのか、彼はそれ以上話しかけてこなかった。私は、この人と仲良くするつもりは毛等もなかったので、計画通りに事が運んでいることにほくそ笑んだ。