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9、町長エルフとイベントの話(オリジン・エルフ)

 ギリシャ神殿のような、白い石造りの建物から外に出る。

 神殿の周りは深い森に囲まれており、町へ続く道はどこにも見えない。神殿の前の広場にある小さな噴水には、青い光がいくつか飛び回っている。一樹いつきがそれをじっと見ると、目の前に浮かび上がる半透明のウィンドウ。


【水の下級精霊……オリジン・エルフに懐いている】


 思った通りの情報に一樹は「基本的に精霊はエルフに懐くものなんだな」という結論に至る。しかしそれは大きな間違いで、エルフの中にも精霊が見えない者もいれば、見えても懐かれない者もいる。

 一樹の何かに惹かれているのは確かではあるのだが、それは彼だけではなく運営側も認識していない状況にあった。不具合が起きていないため、この不思議な状況はだいぶ先になって騒がれることとなる。


「水の精霊にも懐かれてらっしゃいますね」


「さすがオリジン様」


 プラノとルトの言葉に笑顔で返し、さてどうやって町へ行くのか一樹は思っていたところルトが噴水の後ろに淡く光る魔法陣を指差す。

 直接地面に描かれた魔法陣は、よく見ると円の中に幾何学模様が隙間なく入っている。さすがファンタジーの世界だと感動する一樹。そんな彼の様子に気づくことなくルトが説明に入る。


「プラノと自分が一緒に魔法陣で町に向かいます。我ら三人で行動しますが、何かあるかもしれないので町にもエルフ兵たちを配置しております。お許しを」


「ありがとうルト。大人数で動くのはどうかと思っていたところです」


 運営NPCの権限でエルフ兵の配置をオートにしているためか、ルトが自ら考えて行動してくれているらしい。『CLAUS社』がNPC全てに高度な人工知能を入れていることを、一樹は改めて実感する。


「この魔法陣は、神殿の関係者しか使えません。それで町の人たちはオリジン様に会いたくても会えないのです」


「そうですか……」


 これも権限で変更できるのだろうかと考えたが特にアナウンスは起きない。システムで止めているのかもしれないと一樹は考え、またログアウトした時にでも聞いてみようと心にメモをする。

 魔法陣に乗った三人は光に包まれ、数秒後に無事エルフの町にある魔法陣へと移動した。

 そこは町の中心らしく、小さな塔があり上には鐘が吊るされている。これは『時計の鐘』と呼ばれ、朝昼晩と鐘が自動で鳴る神の国からの贈り物だとプラノは説明した。世界各国に置いてあると言っている。確かに同じ時間で鳴らないとこの世界の住民のみならず、プレイヤーたちも困るだろう。


「ところで……町の人たちの姿が見えないですね」


「そう、ですね」


「町長が来るはず……む?」


 ルトが何かに気づく。その視線の先には露店がいくつかあり、どうやら人が隠れているようだ。

 町にいるエルフたちは戸惑っていた。神殿からきたエルフ兵たちが「オリジン様が町に来る」ということを声高らかに伝えていたが、そこから現れたエルフの神である『オリジン・エルフ』に皆が畏怖したのだ。

 男性でもここまで美しく逞しい筋肉を持つエルフはいない。エルフ兵も基本は後衛タイプがほとんどなのだ。

 その彼らの中で一際目立つエルフの神である一樹は、町のエルフたちの目から見ても美しく、さらには周囲に飛び交う風の精霊が集まることで輝きが増している。


「なんと、神々しい……」

「神殿の者たちが町に出さなかったのは、この美しさのせいなのか……」

「あの逞しさ、ああ、言葉にできないとはこの事か……」


 ヒソヒソと交わされる言葉は、運営NPCである一樹に全て届いていた。彼が知ろうと思えば、ウィンドウが現れ全て表示されるのだ。

 そして、彼らの会話を読むことで羞恥に悶えたいのを必死に堪え、努めて冷静にNPCとしての穏やかな表情をキープする。ただしシラユキを抱く手は微かに震えており、主人を心配した子犬は指先を舐めてやっていた。優しい子である。


「町のエルフたちよ、オリジン様が参られた。こちらに集まるのだ」


「オリジン様は優しいお方です。皆様どうかこちらで挨拶を」


 ルトとプラノが何度か交互に呼びかけると、町の住人たちは恐る恐る一樹たちの周りに集まって来た。

 集まった人の中から壮年の美形エルフが前に進み出て、一樹に向かって深々と一礼する。

 気づかれないように一樹は彼を観察する。


【エルフの町の長……ノール、500歳(50歳)、オリジン・エルフの相談役(75/100)】


 相談役と出ているということは、町で何かあった時は彼に相談しろということだろうかと一樹は考える。信奉者である神殿の者たちとは違い好感度は低めだ。それでも初期値としてはかなり高いというのを彼は知らない。


「お初にお目にかかります。この町の長を担っておりますノールです。お見知り置きを」


「こちらこそよろしく。目覚めて間もないため色々と迷惑をかけるかもしれないけど、私を助けてくれたら嬉しいです」


 一樹は抱いているシラユキを足元に降ろすと、ノールに向かって頭を下げようとして何とか我慢する。エルフの神である自分が頭を下げるというのは、それを演じるにあたって正しくない気がしたのだ。代わりに彼は、笑顔で小さく頷いてみせた。

 それだけで目の前の壮年のエルフは涙目で「生涯尽くします!!」と叫び、周りにいた町のエルフたちも歓声を上げて喜んでいる。プラノもルトも「さもありなん」と頷いており、一樹はただただ困惑していた。







 それから二週間ほど一樹は『エターナル・ワールド』に慣れるために、休まずNPCとして演じていった。エルフの国の住民たちとも交流を深め、好感度を上げたりシラユキをモフったりと忙しい日々を過ごした。

 ゲーム内に入らないチームリーダーの相良や他数人と、ログを確認したり不具合を報告したりすることはあるが、他のNPCを演じる人間と会うことはなかった。


「もしどこかで会った時に、ボロが出てプレイヤーに気づかれたら大変でしょ」


「確かに……ということは、今回エルフの国で運営NPCが入っているのは知られてないんですか?」


「どこの運営チームがやるのかは私と直属の部下しか知らないわ。他の運営チームは知らないから森野君も気をつけてよ」


「分かりました……というよりもですね、俺が新規イベントのNPCって大丈夫なんですかね?」


「大丈夫もなにも、もうポスターも出来ているんだから、後戻りはできないわよ?」


「へ? ポスター?」


 作業部屋の真ん中にあるテーブルに、無造作に置いてある数枚のポスター。

 そこには青い瞳に美しい銀髪を腰まで垂らし、薄手の白い貫頭衣を身にまとってはいるものの鍛え抜かれた筋肉は隠しきれていない。そんなやけにガタイの良いエルフが描かれている。その腕には真っ白な子犬が抱かれていた。


「企画が持ってきたんだけど、一樹君、格好良く描かれて良かったわね!」


「は? え? 俺?」


「そう、俺よ、俺」


「おぅれぇえええええあああっ!?」





お読みいただき、ありがとうございます!


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