81、精霊王たちとお茶会(オリジン・エルフ)
オリジンの姿で遠出をすることはシステム上可能である。しかしオリジンとして初めて国外へ出る一樹は、神官長プラノに許可を得ようと神殿に戻ることにした。
実際、この世界で『神』であるオリジンが人間の許可を得る必要はない。しかしエルフにはエルフの事情があるだろうからと、オリジンとしてではなく一樹として気遣ったのだ。
歩くオリジンの後ろを、なぜか風、闇、水の精霊王が顕現したままついて来ている。
「あの……精霊王達は、このままエルフの神殿まで来るのですか?」
『うむ。何やら楽しそうな予感がするからのう』
『風の予感、当たる』
『この世界に来るのは久しぶり』
水の精霊王が涼しげな霧を振り撒けば、それを風の精霊王が陽の光の下に流して虹を作っている。闇の精霊王はオリジンの影の上に座りこみ、ゆったりと寛いでいる状態だ。なかなか器用な影の使い方をしていると一樹が感心していると、森の出口付近で待っていたエルフ兵長ルトが駆け寄ってきた。
「オリジン様! おかえりなさいませ!」
「ただいまルト。お客様を神殿に案内したいのですが」
「は、お客様、で、ありますか」
多少精霊を視ることができてもプラノほど親和性が高くないルトは、突如現れた力のある精霊たちの姿に戸惑う。
オリジンがいるのだから大丈夫だと分かってはいても、人型の精霊が姿を現わすことは精霊使い相手でも滅多にないことだからだ。
「オリジン様、すぐにプラノを呼びます」
ルトは口元に緑の光を灯し、何事かを早口で囁く。
そんな彼の様子を見ていた風の精霊王は感心したように声をあげた。
『ほう! なかなかよい風の使い方をしておるのう!』
「高位の精霊様、ありがとうございます。神官長のプラノが伝令用として兵士一人一人に備えているものなのです」
誇らしげにルトが説明していると、神殿からプラノが慌てて出ていた。精霊王が集まっていることに驚いた彼の上気した頬が、美少年っぷりをさらに際立たせているようだ。
「オリジン様、お戻り感謝いたします。そして精霊王の方々もお目にかかれて光栄でございます」
優雅に一礼するするプラノを見て、ルトは膝をつき顔を伏せる。
「二人ともかしこまることはないですよ。精霊王たちは気まぐれに来ただけですから」
「そ、そうは仰いましても……」
「プラノはいつもと同じ、美味しいお茶をお願いします。四人分で」
「は、はい」
戸惑うプラノは他の神官達に指示をして庭に椅子とテーブルを用意する。自然を象徴する精霊だから、室内よりも外の方が良いだろうと思ったのだ。
そこに異論はないようで、精霊王達はそれぞれ座って寛いでいる。ただ一人、闇の精霊王はオリジンの膝の上にいた。
「お茶が飲みにくいです」
『こっちはちょうどいい』
やれやれと息を吐くオリジン一樹を、プラノは不思議そうに見る。
「オリジン様はずいぶんと闇の精霊王様に好かれてますね」
「これは、好かれているんですかね」
もしや嫌がらせでは?と思わなくもない。初めて会ったのはギルマスモードであったが、なぜあの時お姫様抱っこをされなければならなかったのか一樹は未だに解せない。
「それはそうとプラノ、近々南の方にある火山へ向かおうと思うのですが」
「火山ですか? 火の精霊様とお会いに?」
さすが、オリジンの側仕えをしているプラノである。彼のやろうとしていることを素早く理解していた。
「精霊王の協力を得るかどうかで、大きく状況が変わりますからね」
「強き魔獣の時も、オリジン様が大きな術を使われてましたよね」
「ええ、それも精霊王のおかげです」
あの時、一樹は精霊よりも運営の権限を使いまくっていたのだが、それは言わなくてもいいことだろうとオリジンとして笑顔を浮かべ肯定する。
プラノは仄かに頬を染めつつ、香り高いハーブ入りの茶をティーカップに注いだ。
「オリジン様、エルフの国を出られるのであれば、その……神気を外に出さないようにされた方がよろしいかと」
「神気、ですか?」
一樹は精霊王達を見るが、彼らは首を傾げている。どうやら精霊達には関係ないようだ。
「なんと申しますか……尊い存在であるオリジン様の美しさは、我らのように修行をつんだ者でさえも虜になってしまう魅力に溢れておりますから」
「魅力? ですか?」
よく分からないまま一樹は、以前「気配を隠せ」と父親に言われた時と同じように意識して気配を消してみる。すると精霊王達が『おおー、すごい』と楽しげだ。
『すごい。魂、見えなくなった』
『不思議よのう。ここにおるはずなのに、気配がないとはのう』
『ふふ、今代のエルフの神は多才で面白いね』
プラノとルトも驚いたように一樹を見ている。どうやら気配を消すことは一般的ではないらしい。
「きゅーーーん!!」
大きな鳴き声と共に神殿から出てきた白い毛玉が、オリジン一樹に向かって転がるように駆けてくる。
「シラユキ!!」
跳ね上がったシラユキが闇の精霊王に体当たりすると、ゴスロリ美少女はオリジンの膝からあっさり転げ落ちる。小さな仔犬ほどの大きさとは思えない力強さだ。
「きゅん! きゅきゅん!」
『ずるい、闇も、抱っこ』
「きゅん!!」
オリジンの膝の上でふんすと「おすわり」しているシラユキに、言葉が通じるのか闇の精霊王はタジタジだ。もしやオリジンの眷属であるシラユキは精霊王よりも立場が上なのだろうかと、一樹は白い毛並みをモフりながら考える。
「シラユキのヤキモチは可愛いですね」
「きゅん!」
撫でられて目を細めるシラユキを羨ましげに見た闇の精霊王は、一樹に向かって上目遣いでねだる。
『エルフの神、闇も撫でる』
「闇の精霊王はモフモフしていないので」
『毛玉に……敗北……』
申し訳なさそうなオリジン一樹の言葉に、黒髪の美少女はガックリうなだれて落ち込むのだった。
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