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76、久しぶりの冷え美人と金色のたわわ(赤毛のギルドマスター)


 次回のイベントは聖王国の王都で行われるだろうというのは誰もが予想しており、今現在多くのプレイヤーが王都を拠点としている。

 通常よりも人口が集中している王都のハンターギルドでは、ハンター達による討伐依頼などの取り合いが問題となっていた。


「あー、はいはい。それで俺にどうしろっていうんだ」


「何をするべきか、ギルマスには分かっておられるかと」


 ステラのいない時間帯を狙って、ギルドの執務室に忍び込み小言を回避していた一樹だが、とうとう捕獲されてしまった。どこか冷んやりとした空気の執務室にて、ステラとギルマス一樹は「話し合い」をしている。

 氷の魔法に長けているステラの表情は読めない。しかしポニーテールにした水色の髪をサラリと揺らす度に冷気を放つのが見えるため、何かしら彼女の中で感情が動いているのだろう。

 ちなみにギルマスモードの一樹が怒りの感情を昂らせると炎が出たりする。夏場は熱いし迷惑である。


「まずは……そうだな、ちょっと城に行ってくる」


「お供いたします」


「それは困る」


「さすがに今の状態でギルマスに逃げられると困るのはこちらです」


 仏頂面のままギルマス一樹はステラの無表情をジッと見る。次第に鋭くなるひとつの眼光に怯むことなく、彼女は悠然とした態度のままであった。


「分かった。分かっていると思うが、死んでも城での会話は表に出すなよ」


「承知いたしました」


 ステラが一礼すると、下がっていた室内の温度が和らぐのを一樹は感じる。どうやら逃げないということが分かり、ステラの機嫌が直ったらしい。

 それでもギルドにばかり居るわけにはいかないため、また逃げ出してステラに怒られることになるのだろうが、今はとにかく出歩けるようになることが大事なのだ。


「ところでエルフの国からの要請で、護衛対象だった治療師のミユ様と剣士のアイリ様ですが……」


「護衛は引き続き頼む。少人数でいい」


「よろしいのですか?」


「俺の使役獣を出している。多少の荒事なら問題ないだろう」


 使役獣を出すほどの大ごとなのかと、内心驚いているステラは一樹に問う。


「ミユ様を……なぜ、そこまで……」


 ステラの目の前に座る赤毛の男には、特に変わった様子は見受けられない。しかし、眼帯に覆われていない片方の目はどこか遠くを見るようで、なぜか彼女の心を波立たせていた。


(なぜか運営権限で見れるログに残らない情報が多すぎるんだよな。オリジンの加護があっても通知が遅かったりするし……)


 謎の黒い物体から攻撃を受けたという報告があったのは、プレイヤーの中でミユとアイリだけだ。他にもいるかもしれないが、プレイヤーから報告が上がらないと黒い物体の動きが把握できないのが現状である。

 運営として後手に回ってしまうことを一樹は腹立たしく感じていた。


「ん? そうか。そうすればいいのか」


「ギルマス?」


「いや、ちょっと思いついたことがあった。今すぐ城に行く」


「え? 今からですか? さすがに先触れを出さないと……」


「必要とする仲じゃねぇよ」


「そ、そそそれはつまり、あの王子とギルマスが深い仲だというううううう噂はっ!?」


「そういう仲じゃねぇよっ!」


 誰がその噂を流したんだと一樹は「ぐぬぬ」と呻く。よくあるNPC同士の噂が面白おかしく出回っているだけで、目くじらをたてるほどのことではない。しかし、相手とされる王子の中身は自分の父親であるから、どうしても強く否定したくなるのだ。


「ギルマス……私が言うのもなんですが、そこまで強く否定されると逆に疑わしいと申しますか……」


 ステラのなんともいえない表情を見て、なんともいえない気分になる一樹だった。







 城の敷地内にあるギルド本部へと向かう一樹は、門番に二言三言話すと通用口を開けてもらい中へと入る。ステラはギルド員の腕章を見せ、ギルドマスターの補佐であることを証明してから入ることとなった。


「お手数をおかけします」


「まぁ、逃げ回っていた俺が悪いからなぁ……」


 強引についてきたと自覚のあるステラは申し訳なさそうに言う。手続きをしながら気にするなと一樹が手をひらひらさせると、彼女はホッとしたように小さく息を吐いた。


 門から城までの距離は馬車などを使わないとかなり歩くことになるが、ハンターギルドの本部は比較的門から近い場所にある。勝手知ったるとばかりに歩いて行く一樹の後ろを、ステラはぴたりとついて歩く。

 すでに運営が使用しているメッセージボックスに知らせを入れていた一樹は、上司の相良にも同時に提案をしていた。その許可を得られれば運営としてだけではなく、NPCとしても今の現状を打破できるかもしれない。


 すると、建物の前で一人佇む男性の姿が見えた。肩ほどまである金色の髪をなびかせ、やけに体格の良い美丈夫が仁王立ちしている。事前に連絡していたからか、ハンターギルド職員の制服姿だ。

 なぜ仁王立ちしているのか……やや遠い目をしながら一樹は男の元へと向かう。


「久しいな。後ろの美しいお嬢さんが補佐の方か?」


「補佐のステラだ。氷の魔法に長けている」


「へぇ……お前とは真逆の属性で、しかも美女とは羨ましいことだ。ちゃんと捕まえとけよ」


「そういうんじゃねぇよ」


「初めましてお嬢さん、こんな可愛げのない男だが、末永く補佐してやってくれ」


「す、すえ……よろしくお願いいたします。殿下」


 なぜか頬を染めるステラに対し敬称はいらないと王子は返すが、そうはいかないだろうと一樹は苦笑する。確かステラは平民の出のはずだ。


「何をわけわからんこと言ってやがる。早く帰りたいからさっさと承認しろ」


「まったく冷たい男だなぁ。誰に似たんだか」


 本当に誰に似たんだかと、一樹はニヤつく金髪男を睨みつけるのだった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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