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70、黒の考察と美少女たちと合流(旅の薬師)


 いつもは数人いる作業部屋に、珍しく相良が一人デスクワークをしている。


「相良さん、お疲れ様です」


「森野君も私の留守中に色々とお疲れ様だったみたいね」


「黒服でゲーム内を見回るのは、なかなか新鮮でしたよ」


「たまにやってくれって、上が言ってたからこれからもよろしくね」


「……マジすか」


 運営モードでバグの処理や違反プレイヤーを取り締まるのは良いのだが、多くの一般プレイヤーに話しかけられるので一樹の時間がとられてしまうのだ。

 相良が戻ったからといって、運営モードの仕事が減らないのはキツい。


「イベントの仕事もあるだろうし、たまにでいいわよ。それよりもあの話のことなんだけど……あの子のお兄さんのことを調べてみたんだけど、何も出てこないのよ」


「相良さん、個人情報とかは一般人には見れないですよね?」


「友達がそういう系列の仕事をしているのよ。見れないことはないんだけど、何も出てこないっていうのはおかしいじゃない?」


「それってまさか、犯罪じゃないですよね……? 何も出てこないっておかしいんですか?」


「当たり前じゃない。だって戸籍くらいは出てくるでしょう、普通」


「え? 戸籍も出てこないんですか?」


「ねぇ、彼女のお兄さんって、本当に存在しているのよね? 嘘とかじゃないわよね?」


「俺も話しか聞いてないので……実際会ったことはないから分からないです」


「そう……」


 タイトスカートからスラリと伸ばした足を組んだ相良は、悩ましげに息を吐く。一樹はあの時の美優を思い出し、彼女の真剣な表情から嘘だとは思えなかった。しかし、彼女の兄が行方不明になったという事実どころか、彼の存在自体が出てこない以上、一樹は何も言えなくなってしまう。


「この『エターナル・ワールド』がきっかけだったとして、それが彼女のお兄さんとどう関係しているのか……分からないことが多すぎるわね。情報が足りない」


 眉間にシワを寄せて黙り込む相良に、ふと一樹は思い出す。


「そういえば、父が来てましたよね。何かあったんですか?」


「そうそう、森野君のお父さんって王城にいるじゃない? そこの書庫に黒いドロドロしたのが出たって大騒ぎになったらしいわ」


「城に!?」


「調べてくれって言われたんだけど、ログを見てもバグが検出されないのよね。その黒いのはシステムの一部と認識されているみたい」


 そう言いながら相良は一樹に印刷した紙を数枚手渡す。そこには異常なしという文字で埋め尽くされていた。その紙をくしゃりと握る一樹。


「アレに触れた神官長のプラノが何日も睡眠状態になってしまったんです。システムだとしてもタチが悪い」


「私は実際それを見てないから分からないけど、どういうものなの?」


「プラノが言うには、何か強いマイナスの念を感じたみたいです」


「神官の感知スキルかしら……その黒いものは取ってこれないの?」


「光の属性に当たると消えるし、溶けていくみたいに土とかに染み込んで逃げるんですよ」


「何よそれ!! んもーっ!! なんっかイライラするわね!!」


 ムキーッと髪をかき乱した相良は、デスクを両手で叩いて立ち上がる。


「ちょっと上に掛け合ってくる!! そろそろ今のイベントもクライマックスになるから、なるべく薬師のNPCに入っておいてね!!」


「あ、はい……」


 ハイヒールのかかとを高らかに鳴らし相良は作業部屋から出て行くのを、一樹は直立不動で見送る。


「相良さん、まさか上の人に喧嘩とか売らないよな」


 まさかと思いながらも不安がよぎる一樹だった。







 王都周辺の草原には、イベントに必要な素材を落とす魔獣が多く生息している。その中をNPCたちは器用に動き回っては、プレイヤーから素材を買ったり手持ちのアイテムを売ったりしている。

 怒れる上司・相良の指示に従った一樹は『オリジン・エルフ』でプラノを見舞った後、薬師モードで王都へと移動した。

 途中、プレイヤーから素材を買い取ったり薬草を売ったりしていた一樹だが、草原の中で目を惹く美少女二人が人型の魔獣と戦っているのを見かけて足を止める。

 魔獣はそれほど強くないようだが、数が多いため少しだけ苦戦しているようだ。


「アイリとミユちゃんか……どうする? ハリズリ」


「クゥーン」


「そうか。お前、ミユちゃんを気に入ってるもんなぁ」


 茶色の柴犬のような精霊獣のハリズリは、悲しげに鼻をピスピスさせている。しょうがないなぁと一樹はその頭を撫でてやると、軽い足取りで戦う彼女たちの後ろへと回る。


「そこの人!! 危ないよ!!」


「えーっと、手を貸しますかー?」


「アイリ、この人NPCだよ!」


 双剣を使って戦うアイリは振り向きもせずに警告しているが、後衛で精霊魔法を使うミユは一樹を見て笑顔になる。ゲーム内でNPCが仲間になり一緒に戦うと、ラッキーイベントが起きたり経験値やアイテムが多くもらえたりするからだ。


「じゃあ、よろしく!」


「すみません、助けてください!」


「りょうかーい」


 薬師の一樹は弓を取り出すと、後ろから矢を射って魔獣の足止めをする。その隙にアイリは剣で斬っていく。ミユは治癒に専念してアイリの体力を回復させていく。


「ワゥン!」


 ハリズリが吠えれば大地の精霊が呼応し魔獣の足元に穴をあけていく。体勢を崩したところをすかさずアイリは斬り倒し、一樹も弓で仕留めていった。


「一気に楽になったね!」


「もう大丈夫かな? ありがとうございます、えーと……」


「見てのとおり、旅の薬師だよ。素材とかあれば売ってくれると嬉しいな」


 茶色の髪は、前髪を長く伸ばしているため目元は見えない。それでもミユはどこか親近感がわく風貌だと思った。

 NPCとはいえ『オリジン・エルフ』だけではなく、他にも何人か気になる男性がいることにミユは内心複雑な気持ちになる。


(私、浮気性とかじゃない……と思うんだけど)


 さっそくアイリと素材の売り買いをしている薬師を見ながらミユの足元に、モフモフな茶色の獣がすり寄ってくる。


「ワゥーン」


「ふぁぁ、かわいいワンコだぁ……」


 しゃがんだミユがハリズリの柔らかな茶色の毛並みを撫でていると、お礼とばかりに頬を舐められてくすぐったさに笑い声をあげる。

 そんな一人と一匹の、ほのぼのとした光景を見守るアイリと薬師の一樹。


「ミユが可愛すぎてつらい」


「わかる。なんか浄化されそう」


「な、なに? なんの話?」


 やけに慈愛に満ちた目で見られたミユは、居心地悪そうにしながらもハリズリをモフる手は止めることはなかった。





お読みいただき、ありがとうございます。

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