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40、黒と黒の疑惑(赤毛のギルドマスター)


 黒づくめを追うクレナイは、その素晴らしい脚力を生かして林の中を駆けていく。赤い毛並みから時折赤い小さな光が火花のようにキラリと輝く。

 ギルドマスターとなった一樹と同じく、クレナイの属性も変わっていた。火と闇の精霊との親和性が高く、黒づくめが発動する闇の力の宿った黒い雷で、クレナイにダメージを与えることはできなかった。


「ちっ……厄介な……!!」


 木の枝から枝へ飛び移りつつ、高速移動する黒づくめの人間は焦ったように舌打ちする。その者とは対象に落ち着いた様子で付かず離れず追っていくクレナイは、次の瞬間大きくジャンプして回り込み対象の行く手を塞ぐ。


「どけ!! 獣!!」


「ガウオオオウッ!!」


 それに応えるように吠えたクレナイの影が大きくなり、そこから出てきたのは黒いドレスを身にまとった美少女と、赤い髪の眼帯をした美丈夫だ。

 真っ直ぐの長い黒髪の少女は、黒いレースのリボンを耳元でひとつずつ両わきに付けている。同じく黒のレースがふんだんに使われたドレスは黒のエプロンドレスで、たっぷりとしたペチコートを使ってスカートをふわりと浮かせていた。白いタイツにぽっくりした黒のエナメルの靴が可愛らしい。

 美しいが無表情な彼女の「胸元」には、なぜかそのガタイの良い体を縮こませた赤毛の男が横抱きにされている。いわゆる「お姫様抱っこ」というやつである。

 赤毛の狼の影から現れた二人を見て、黒づくめは身構えたまま声を発する。その声は低く男性のように思えるが、顔は黒い布で巻かれていて分からない。


「なんだ……お前たちは……」


「それはこっちのセリフだ! と言いたいところだが、今は正直スマンとしか言いようがない」


「……仲良し?」


「いや、そうじゃねぇだろ……まぁいい。おい黒づくめ! お前の目的はなんだ!」


 黒の少女が降ろしてくれないため、そのまま赤毛の男……ギルマス一樹は黒づくめに向かって呼びかける。さすがに恥ずかしいのか頬を赤らめており、そんな彼に「どうしたの?」という様子でクレナイが尻尾を振りながらもオロオロと少女の周りを歩き回る。


「目的……さぁ、な」


 再び手を振り上げ黒の雷を落とすが、それは少女に吸収される。


「お前は精霊の……目的は達したから引くか」


「逃がさねぇよ!」


 少女からやっと抜け出した一樹はそのまま地面に落下するかに思われたが、自らの影に身を沈めると黒づくめの側にある木の影から飛び出して仕掛ける。


「ぐっ!?」


「よく受けたな! 師匠でも三回に一回は受け損ねるぜ!」


 ショットガンのような造りのそれを槍のように変化させ、突きの動作で向かっていく一樹。妹と一緒に通った近所の道場での日々が、こんなに役に立つとは思ってなかったと一樹はニヤリと笑う。

 その姿が余裕があると思った黒づくめは、とにかく逃げようと必死に一樹の攻撃を避ける。。


「ガウッ!!」


「なっ!?」


 いつのまにかクレナイが黒づくめの後ろから飛びかかり、男がそれを避けようと注意を一樹から外した瞬間に強い突きを再度一樹は繰り出す。鳩尾辺りを狙ったその攻撃は上手く当たり、痛みを感じたのかうめき声をあげて地面を転がりのたうち回る。

 そのまま地面に転がされた黒づくめは、自分の体が動かせないことに気づく。手と足に黒い枷のようなもので地面に縫い付けられているからなのだが、それをしたのは黒いドレスの美少女である。攻撃補助として割とえげつない。


「おい、目的ってなんだ。お前の目的か? それとも誰かに命令されたのか?」


「…………」


 一樹は黒づくめをジッと見るが、そこには何も情報が出てこない。薄いガラスのようなウィンドウ画面が出ているのだが、何も表示されていないのだ。


「おい、お前一体……」


「ちっ……今日はついてないな」


 そう呟いた黒づくめは、体を地面に押し付けるとドロリと「溶けた」。こうなると黒い枷も役立たない。


「お、おい! お前溶けて……」


「ガウゥ……」


「……人じゃないモノだったかな」


 溶けた黒づくめは、そのまま土に吸い込まれて消えてしまった。影に入ったとか逃げたというわけでもなく「存在自体を消した」ような感じだ。ログを見ても何ひとつ残っておらず、あるのは「魔法陣が闇の魔法で壊された」という一文だけだ。


「あとで映像を見るか……」


「……目的は一つしか分からなかった」


 表情はないが、どこか悔しそうな美少女の言葉に一樹は首をひねる。


「ん? 目的……ああ、魔法陣を壊していたな。それが目的っつーのもなぁ」


「……悔しいから契約する」


 外見は美少女でも、彼女は闇の精霊王である。契約というのはギルマスである自分に出来るのだろうかと一樹は戸惑っていると、足元にいたクレナイが「グルル」と唸る。


「ギルマス!!」


「ん? ステラか……むぐっ!?」


 空色のポニーテールを揺らし、駆け寄ってきたハンターギルドマスターの補佐であるステラが見たものは……黒いドレスの少女が赤毛の男の首にしがみつき、お互いの顔を合わせている衝撃的なシーン。


「痛って……おい、思いっきりぶつかってきやがって。唇切っただろが……って、ステラ。どうした?」


「ぎ……ぎ……」


「ぎ?」


「ぎるますがろりこんぎるますがろりこん」


「ス、ステラ? なんの呪文を……」


「ぎるますがろりこんぎるますがろりこんろりろりこん」


「ステラさーん!?」


「ガウッ! ガウガウッ!」


 この後ステラは、一樹が闇の精霊王に頭突きをくらうという「強制デコチュー」だった事実を知るまでの小一時間、謎の呪文を繰り返すロボットのようになっていたという。


「ぎるてぃなろりこんぎるますがろりこん」


「ロリコンじゃねぇっつの!!」




お読みいただき、ありがとうございます。

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