1話
また同じ夢だ。
ここにきてから前よりも見る頻度が増えた気がする。
汗で張り付いた服に嫌悪感を覚えながら時計を見た。
針は六時を少し過ぎたくらいだった。
耳を澄ますと、寝息が聞こえてきた。
オレはちらっと目の前を見つめた。
すると、普段いるはずの人影はなかった。
朝早くから任務に出ているのだろう。
日の出前の暗い中、服を着替えながら今日の日程を思い出していた。
今日の任務まで時間はたくさんある。
しかし、こんな目覚めでは寝るにも寝れない。
横目にある人にお勧めだと渡された本が目に入った。
昨日のオレは栞を挟んだまま続きを読むのを忘れていたらしい。
任務時間までそれを読み進めることにした。
本を読むとそのまま物語に吸い寄せられ、周りの音や今抱えている自分の気持ちなど忘れて集中できる。
だからこそ、本は楽しい。
というよりは本を読んでいる間はとても楽だ。
しかし今日はその集中が遮られた。
ガタンッ
「へぇ~監獄ってこんな感じになってるのね」
聞いたことがない声に、オレは一気に物語から現実へ戻された。
新人の看守だろうか。
すると、もう一人いたのか別の声が聞こえた。
「ここの囚人は任務の時に借りることができる。ただし報酬金は払わなければいけない」
会話を聞くにここの監獄案内をしているようだ。
そう、このギルティ監獄のことを。
このギルティ監獄は普通の監獄ではない。
不定期に監獄にいる看守に任務が与えられ、それを達成するために囚人を金で雇うという特殊な制度がある。
オレはこの監獄の囚人側だ。
ここに来たのは、いつのことだったか。
あの頃のことは、よく覚えていない。
ふいに足音が近づいてきた。
多分、どんな囚人がいるのか見て回ってるのだろう。
何気なく本から顔を上げると、たまたま檻の前を通った新人であろう看守と目が合った。
オレンジよりの金髪に緑の瞳。
同じ年か年上か、同年代だと思う。
そのとき、彼女の口が動いた。
「みかげ」
声は聞こえなかった。
見間違いかとも思った。
それでもオレはその口の動きに動揺が隠せず、体中から冷や汗が出た。
堪えきれず、さっと顔をふせた。
「新人、そろそろ次に行くぞ」
もう一人の看守の声が響き、少しの沈黙の後、「はい!」と言った彼女の足音は、オレの檻の前から遠ざかっていった。
彼女がオレの前からいなくなった後も、冷や汗は止まらなかった。
なぜなら、オレはこの監獄でサイス(大鎌)と呼ばれている。
それは、本名ではなく囚人の使う武器をコードネームとして。
大抵の看守がサイスと呼ぶが、彼女は「みかげ」と言った。
別に看守が本名を知っていてもなんらおかしいことではない。
ないのだが。
「みかげ」
漢字で書けば「御影」
これは本名とは別の名前。
そう、殺し屋時代の名前だ。