表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

何も見えない月夜の理由

作者: Hag

*この作品は『何も見えない月夜に』の前の時代を描いたスピンオフ作品です。


 昔々のそのまた昔、まだ地球が丸くなかったころ。まだ神さまが王さまをしていたころ。


 神さまの国には春・夏・秋・冬の4人の女王さまがいらっしゃいました。


 何百年もの間、4人の女王さまは順番に森の塔に住み、みんなに鮮やかな季節を届けていました。





 ところがある年から、いつまでたっても春がやって来ないようになりました。

冬の女王さまが塔に入ったままなのです。


 あたたかな春がくる頃になっても、国は雪に覆われ、このままではいずれ食べる物もなくなってしまいます。



 困った神さまは大臣たちにこう言いました。


『春の女王を見つけ出し、この国に廻る季節を取り戻してくれる者を探せ。探し出した者にはどんな願いも叶える"魔法の杖"を与えよう。』と…。



 私欲の為、国の為に考えつく全ての手を尽くした大臣達さえも、ついに(さじ)を投げ出した。彼が四季の塔に訪れたのは、それから数年ほど経ったある日のことであったー。




「ハア…ハア…。もう…追っかけて来ない、よなっ!」


 今年の戦士試験にも落ちて、朝食の一斤のパンにありつくことさえもできていない駆けだしの盗賊が赤くなった手を擦りながら恐る恐る木の陰から出てきた。


「ガッチガチに鎧着て、なんであんなに走れるかな…。まあ警備がいるってことは豪邸のひとつやふたつあるに違いないよなっ!そういうことなら、いっちょ頑張っちゃおっ!」


 気持ち悪いセリフとニヤニヤ顔をした盗賊が頑張る事と言えばたった一つ、今日も今日とて生きるために白銀に輝く森の中、盗みに行くのである。



「っておかしいな…いい装備の警備もいたしあんなに良い柵があったんだからてっきり豪邸でもあるのかと思ったのによ……本気(マジ)で木ばっかじゃねえかっ!ふざけるなよっ!」


 国中に降りしきる雪より、彼の始まったばかりの短い盗賊人生も彼の産まれる前から期待をしていた故郷も、戦士になれる最後の機会を逃した彼には厳しかった。



 でも理由はある。

 王国が疲弊し戦士を雇えない状況になって試験の倍率が上がったから。食料難で戦いどころではなくなったから。人口の減少で犯罪者も減り、治安が安定してきているから。などなど…


 まあ、幼馴染の生真面目でうざったいあいつは戦士になったけど…。


「違う!違う!全部この冬が悪いんだよっ」


 故郷の王都から遠く離れたこの地でも思い出すのは憧れだった兄貴や支えてくれた母、父、幼馴染…そして自分の夢。全てを捨てた今でもいつの間にか大きくなった身体に過去が纏わりついてくる。



「おおっ!大発見っ!」


 彼の前に現れたのは人が住んでなさそうで、しかもお宝の匂いがする古びた塔、盗賊心をくすぐる優良物件にうつむき気味の彼の心に新たな炎が灯る。


「ここじゃあ戦士なんてもう関係ないっ!さあ夢の扉を開こうっ」


 踊る胸を抑えつつ彼は眠れる金銀財宝が待つ荘厳(そうごん)な扉を勢いよく開…けたかったのだが、そうは問屋が(おろ)さない。扉は開くことなく、彼は勢いそのままに体当(たいあ)たってしまい森中の鳥が逃げるほどの大きな音が響き渡る。


「何だっ?!この野郎っ!」


 全身全霊の全力で全身を扉にぶつけてしまった痛みは想像以上。効果はバツグンだ。その痛みは自分が悪くても誰だって怒りたくなるほどのようだが、柵を越えたこんな森の中に怒る相手がいる訳がない。彼はもっと赤くなった鼻を押さえながらのっそりと立ち上がる。



「ったく……しょうがないっ。他の侵入方法を探すか…」


「待ってくれ。今出る。」

「⁈」


 無人だと思っていた塔の中から声が聞こえた。やばい、これはやばい、捕まってしまうっ。しかし、逃げ出そうとした彼に無情にも扉への情熱的体当たりの時の激痛が襲う。どんなに力を入れても全身の筋肉達はただ悲鳴をあげるだけで動くことができない。どんなに願っても時間は止まらない。厚く積もった雪の上に倒れた彼が聞いたのはすぐそこまで迫った階段を下りる音。


「(逃げられないっ!!)」


「どちら様でsyっドンッ‼︎


 再び森に響くダイナミックな体当たりの音。彼が感じたのは場違いな親近感。鳴り始めた開幕を知らせるブザー音。


 まず、渦中のヒロインが口を開く。



「春の女王か。」

「は、はいっその通り!春の女王だ」

「声が汚くなったな。男みたいに。」

「違いますっ女王様の使者でありますっ」

「知らないな。」

「いやっ!新入りなもんで…」

「通りで。言葉も汚い。」

「田舎者でっすいません」

「身なりも。随分と。」

「下っ端ですから!」

「侵入。と言ったな。」

「盗賊ですっ!こんにちはっ!」

「やはりか。」

「気付いてたのかよっ⁈」

「まあな。しかし。久し振りのお客だ。ゆっくりしていけ。」

「はぁっ?」



 変な奴に出会ってしまった。彼にとって4人の女王は雲の上の存在、高嶺の花、いや、存在するかも怪しいUFOのようなもので"四季の塔"と呼ばれるこの古びた塔もただの伝説、サンタクロースと空飛ぶソリなどと同じようなものだと思いながら生きてきた。しかし、それらは実在し、たった今厚いドア越しに合コンに近いノリで話しかけてきている。


「盗賊の年収。いくらか。」

「完全歩合制だから、運が悪かったら0の時もあるけど、運のいい日だと…」

「いい日だと。」

「ウン百万!」

「ほぉ。すごいな。」

「だろだろっ!」


 噂によると、召喚術や念話術・念力など神から与えられた特別な力と何も口にしなくても生き続けられるなど、どんな環境でも死なない奇跡の体を持ち、塔に入っていない時は王と共に国政を行うとされている4人の女王。その重要さ(ゆえ)に王宮に軟禁され 存在を秘匿(ひとく)され続けた彼女達にも乙女心は備わっているらしい。


「子供は何人欲しいか。」

「…グイグイくるなっ。まあ兄弟は多い方がいいからなっ!4~5人ってとこかな」

「多い。」

「そうか?俺の故郷じゃこんくらい普通だぞっ」

「そうなのか。興味があるな。君の故郷。」

「…あぁ…俺の故郷か……」

「地雷。分かりやすいな。」

「フッ そんなもんじゃないっ。塔から出たらいつでも来てくれっ!歓迎してやるよっ」

「残念。まだ出れないんだ。」

「あ!それがお前の地雷だなっ」

「フッ。そんなもんじゃない。」

「まっ そのうち出れるさ」

「そのうちか。」

「そう。いつか どっかの 偉い大臣様が…なっ」





「君が。いい。」


「え?」



「盗賊。なんだろ。」

「…っははは 冗談が過ぎるなっ そんなロマンチックなこと言われても無理なものは無理だ」

「お願いだ。ルパン。」

「何世だよっ!ってか俺はただの駆けだしの盗賊……警備が厳重な王宮に忍び込むなんてできやしない」

「王宮か。王宮に行ければいいのか。」

「まぁもし行けたら、何かできるかもな」


большой(大いなる) природа(自然よ) …」


「いやっ!でも、それこそ無理な話だっ!大人しく白馬に乗った大臣様を待つんだな」


надежда(乞う) мне(我に) блатадать(恩恵を)...」


「それじゃあ、財宝もないし俺はそろそろ…」


「陽に陰る魔よ。顕現せよ。」


 突如目の前に今流行りの塩顔のムキムキが現れる。


「Hello」


「はえ?」


「紹介しよう。ボブだ。」

「Nice to meet you.」

「待って、何言ってるか分かんない」

「じゃあ。頼んだ。」


「何か知らないが 任s「マカッセテクダサーイ」」


「お前じゃないっ!って、ちゃんと喋ったっっっ?!」


 白い煙に包まれた駆け出しの盗賊は日本人顔のマッチョと共に扉の前から消えてしまった。薄暗い塔の中で微笑む1人の少女を残して。









「ドロリンチョ」


「何なんだよその変な効果音、と言うか………ココどこだよっ!」


~in王宮~


「アトハガンバレ サル」

「悪口じゃないかっ………クッソ、消えやがった、俺にどうしろって言うんだよっ!」



 セリフばっかりで地の文泣かせな場面だったが決してサボっていたわけではないので安心して欲しい。そのお詫びの気持ちも兼ねて少し話をまとめよう。


 冬の女王に召喚された謎のマッスルガイ ボブに光速で冬以外の女王と王様がいるであろう王宮に連れてこられた哀れな若者、不思議な縁で仲良くなった冬の女王の為の彼の奮闘記が始まったり始まらなかったり…そしてこの後は小説名物のご都合主義によるキーパーソンとの出会いが予定されています。



「ちょっと!ちょっと!そこのお兄さ〜ん目の前に困ってるカワイイ女の子がいるんだけどな〜」

「? どこだよっ」

「ちゃんと見て〜下だよ〜下〜」

「おおっ すまない」


 遠くから見たら書類の山が自分で歩いてるように見えないこともないが、この方こそ、今回のキーパーソン。王や女王達と並び国政も担う若きカリスマ アレー戦士長である。身長146cmという小柄で幼いとも言える体型で"カワイイ女の子"や"若き"などと呼ばれてはいるが「役職や人の器という観点からだと若いのだが…」と言わざるを得ない年齢と言わざるを得ない。しかし彼は気付いておらず、全力で鼻の下をのばしている。


「手伝いますよっお嬢さん」

「そう?いや〜悪いね〜」


 彼が自分の正体に気付いていないこと知りつつも敢えて何も言わず、「悪い」と言いつつもためらいなく書類を渡す。さすが、できる女性は恐ろしい。


「よ〜く見ると、君の格好ヒドイね〜盗賊みたいだよ」

「アハハハよく言われマッスル」

「新しい戦士君だろ〜こんな大変な時に悪いね〜」

「恐縮ですっ」

「あ〜そこ右ね〜 ……ここ!ここ!到着〜書類は中までお願いできるかな」


「もちろんっ」




 そこには塔の厳かな扉とは違った、上品な豪華さを持つ大きな扉があった。先程の二の舞になることは許されない、今度は戦士長が扉を開けてくれるので心配いらないとは思うが開く扉に当たらないよう念のため、最高の自然体を装い数歩だけ後ろに下がる。

「(まさに俺こそっ同じ失敗を繰り返さない男!!!これでお嬢さんにカッコ悪いところを見せることはないっ!!!!)」


"ドヤ顔や 鼻下のばす イケメンの 全てを挫け 神の戸よ"

 短歌に挑戦。


「この扉は〜内開きなんだけど〜。君〜用心深いね〜」

「(クソッはめられたっ!!)当然ですっ」


 これまでの対戦成績は0勝2敗、我々の期待に応え扉の圧勝であります。



「ゴホッ‼︎ゴホッ‼︎」

「お待たせしました〜今年度のナンチャラ調査の結果資料をお持ちしましたよ〜」

「ご苦労だったな ゴホッ‼︎ゴホッ‼︎」

「大丈夫ですか〜今日は一段と具合が悪そうですよ〜」

「ゴホッ‼︎大丈夫だ」

「そう〜?本当に無理しないでよ〜」


「ん?そこのお主は見たことない顔だなゴホッ‼︎」

「あ〜、身なりはアレだけど一応新入りの戦士君だよ、荷物運びを手伝ってくれたんだけど………そういえば、ここで油売っててもいいの?」

「冬の女王に頼まれごとされただけで特に急いでないので大丈夫ですっ」


「「?!」」


「ち〜なみになんだけど〜何を頼まれたのか教えてくれる??」

「彼女を塔から連れ出すよう頼まれましたっ」

「そうか‼︎冬の女王から直々(じきじき)にか‼︎」

「はい。まあそうなんですけど、何からすればいいのかサッパリで」

「そうね〜例えば王様に会って話を聞く何てど〜?」

「いいアイデアだっ、でも王様はそんなすぐに会ってくれないでしょう」

「ゴホッ‼︎普通ならそうであろうな」

「すぐに会えたらラッキーだけど、まあ、頑張ってみるよっ」

「それじゃあ、頑張った甲斐があったみたいだね〜」

「えっ?」



「初めまして‼︎私がこの世界の神であり この国の王だ‼︎よろしく頼むぞ、ラッキーボーイ‼︎」


「ええええっ?!」


 ご都合主義もここまでくれば面白い、と感じていただければ幸いだが、今 彼の出会った無駄に熱そうな2人目のキーパーソンこそが伝説の"創界神"。昔は雄弁で名を馳せた建国の英雄が、顔のシワも白髪の数も増えた今は、背中も曲がりただの老人になってしまった。いたずらっ子のような笑みを浮かべる2人だが、咳をする王の背中を戦士長が撫でるこの光景はおじいちゃんとおじいちゃんをいたわる孫娘にしか見えなくて彼がホッコリしたのは内緒。



「どの大臣もなし得なかった深刻な現状の打開‼︎ゴホッ‼︎私は新しい挑戦者に期待している‼︎ ゴホッ‼︎ゴホッ‼︎ゴホッ‼︎」

「興奮し過ぎ〜ほ〜ら落ち着いて」


「…それでっ私は何をすればよろしいのでしょうかっ」

「今確実に会えるのは〜夏の女王か秋の女王だけど〜」

「秋の女王がいいだろう‼︎」

「そ〜、じゃあ城の1番東の秋の女王の部屋に行ってみたらいいよ〜」

「彼だけでは何かと不便だ‼︎君が案内してあげなさゴホッ‼︎ゴホッ‼︎ゴホッ‼︎………なんじゃこりゃあ‼︎」


 某刑事ドラマの自分の出血で驚くという、現実的ではないが人生に一度は言ってみたい有名なセリフを叫んだ王…………しかし吐血した訳ではない。


「鼻水が‼︎めっちゃ鼻水が‼︎あああああ‼︎」


「も〜王様は休みなよ〜」

「分かった‼︎では 自室で休むことにしよう、何かあればいつでも尋ねなさいゴホッ‼︎ゴホッ‼︎」

「ああ〜危なっかしいな〜私も手伝うよ。新入り君〜ごめんけど、先に行ってて〜」

「君に神のご加護を‼︎」「すぐ追いつくからね〜」


「は、はーい。お大事に」




 怒涛(どとう)の展開にあまりついていけてないが自分のやるべき事は理解した。まだ整理しきれていない頭の中を片付けながら彼は王の間を後にする。


「ひぃ」


 2回目のご都合主義ハプニング…美少女と出会い頭にぶつかるのは主人公の宿命なのかもしれない。


「すいません、急いでたものでっ…」


 玄関開けたらサトウのごh…なんとやら、急いでいたから少し勢いよく扉を開けた。そうしたら、いきなりビックリされた。この状況では彼に謝るところは一切ある訳がないのだが、彼の謝罪の言葉も聞かずそのまま走り去って行った紅葉のように鮮やかな彼女を彼は無視する事はできなかった。



「ちょっとっお嬢さん!」

「わ、私は、な、何も知らない、知、ら、ないから」

「驚かせてしまってすいません、ちょっと秋の女王に会うために急いでいたんですっ」

「ひぃぃぃぃ!」

「ちょっとっ!お嬢さんっ!落ち着いてっお嬢さんっ!」

「私は、な、何も知、らない!な、夏、の女王の話も、知らない!」

「深呼吸っお嬢さんっほら、フ フ ヒー」

「お、嬢さんじゃない!秋の、女王!」

「本当にっ?!」

「え?な、何も知らない、のに、冬、の女王を助、助けるつもり、だったの?」

「あっ確かに…」

「何、も知らない、く、くせに!く、首をつっこ、まないで!」

「っ………!」

「は、話に、ならない!」


 歩き出した秋の女王がすれ違いざまに彼を睨んだ。自分だってやりたくてやってるんじゃない、来たくてここに来たんじゃない、言い訳なら何個でも用意できている。そうさ、こんな重要で繊細な問題は大臣達に任せればいいんだ。


『君が。いい。』


 だけど、そんな言い訳だらけの俺でいいのか。何度も何度も勉強した戦士の心得は"強くあれ"……たったそれだけ、弱い自分を隠すために言い訳を着込んで諦めた自分に戦士の素質があるのか。どこにもない、素質がなかったんだ。


『頼んだ。』


 でも、女王に頼まれたら仕方ないんじゃないかなって思った。





「待ってくれっ!話をしなくてもいい、ちょっとだけ聞いてくれっ」

「な、何?」


「俺は昨日まで女王様達の事、信じてなかったし知ろうともしていなかった。何年冬が続こうと俺には関係ないことだと思ってたんだっ。今日、冬の女王に頼まれた時もこんな通りすがりの男に頼むってどういう事だよっ、誰でもいいんじゃないかっ…なんて思った。


でも違うんだろ、君達は真剣に悩んでるんだろっ!通りすがりの男に女王様が頭下げてもいいってぐらい真剣にさっ!


君の怒りもそうだっ!だからっ、俺は誰のためでもない女王様のためにっ!どうにかしたいんだっ!」


「……私達、の…た、ために…」

「協力してくれないかっ!」


 すかさず手を握る色男、これが狙ってやっているのではなく素でやっているので最悪にタチが悪い。


「ば、バカじゃないの、何も、知らない、く、くせに」

「ああっ俺は何も知らない!だからこそ君に助けてほしいんだっ!」

「っ……//」


「可愛い坊やがこう言ってるんだよ。協力してあげたら?」

「し、知らない!」


「書類の人?色々大きくなったなっ?!」

「どこ見て言ってるの?私はアリーじゃないわ 夏の女王よ。あなたの事を王様から聞いたの。微力ながら協力するわ」

「?! ど、どういう風、の、吹きまわしよ!」

「国のために新しい英雄の坊やに協力するだけじゃない、他に何かある?」

「あ、るわよ!」

「お嬢さんっ!落ち着いてっ!ほらっ深呼吸!」

「きょ、協力はする!から、あなたは、だ、黙ってて!」

「ありがとう。でっ、次は何をすればいいと思う?」

「知らないわよ!」

「王様にもう一度会ってみるのはどう?案内するわ」

「本当かっ?」

「ええ、もちろんよ」


「待ちな、さい!」

「何だよっ」

「あなたじゃ、ない!な、夏の、女王よ!」

「…フゥー、少しだけよ」

「あ、あな、たは早く、行きなさい!」

「あ?何で俺はいらないんだよっ」

「黙って、去り、な、さい!」



 いきなりビックリされて、いきなり怒られて、いきなり夏の女王が出てきて、次はいきなり仲間外れにされた。運がいいのか悪いのか、彼の運命の1日は更に白熱した後半戦に突入する。





「ふぅっ着いた」



 道を尋ねた全ての人から盗賊"みたい"だと言われながらも丁寧に道を教えてもらい、複雑な心境で王の寝室にたどり着いた彼には、そう扉だ。


「(まずは考えろっ!この扉は外開きかっ!いやっ経験から言ってここも内開きっ!)」


 落ち着けと何度も心の中で繰り返す。そして、雪辱戦(リベンジマッチ)に燃える彼がゆっくりとドアノブに手を置く。深く深呼吸。世界の鼓動(リズム)と自分の脈動(リズム)が重なる、今この瞬間に扉を押し開け……開かないっ!


ドンッ「外開きっ!!!」

「え??」


 この時、扉がリズムを重ねたのは彼ではなかったようだ。

 0勝3敗 扉の快勝劇が止まりません。



「あ〜ごめ〜ん、気付かなかった〜新入り君 大丈夫??」

「なんて事ないさっ…」


「そ〜だ、君〜王様知らな〜い??」

「え?いないのかっ?」

「うん、夏の女王に教えてもらった"いい物"見つけたのにさ〜あの人無駄〜に元気なんだよね〜」

「その"いい物"って?」

「コンスェルの〜…手記ってやつ?あいつの遺品はぜ〜んぶ確認したと思ってたんだけど〜今になって一枚だけ出てきたんだよね〜」

「コンスェルってっ!!もしかしてコンスェルさんっ?!」

「そりゃ〜コンスェルに"さん"つけたらコンスェルさんだけど〜、知ってるの〜??」

「同郷の兄貴分だっ、でもっ遺品って?」

「あ〜王様からも信頼されてて、今回み〜大臣達の中で〜ただ一人最後まで諦めなかった優秀な奴だったんだけどね〜…気苦労が多くてね〜ある日突然ポックリ、てな訳さ〜」


「そんなことがっ…すいませんっ」

「いいよ〜いいよ〜あいつは優秀だった。それだけで十分さ〜」

「今いてくれれば心強い味方になるのにっ…」


「いいや〜この手記を見てごら〜ん、この世にいようが、あの世に行こうが、あいつが優秀ってことは変わらないよ〜」


「これはっ?!……いい紙だなっ」


「確かに〜こんなに上質な紙は見たことないけど〜今は紙じゃなくて中身を見てね〜」




「……サイクル・プラネット・プロジェクトっ!?」

「そ〜、略してCPP 巡る星の計画…そのままよね〜。でも〜名前のわりには面白いからさ〜ちょ〜っと読んでみてよ」





「……これは?!王の(とばり)の任を完全に否定しているっ!」

「おぉ〜君でも(とばり)のことは知っているんだね〜」

「兄貴に教えてもらったんだっ!王が世界のリズムを分かりやすくする為に目覚めの刻には明るい"朝の帳"を、眠りの刻には"夜の帳"を下ろす事だろっ」

「しかもしかも〜それに加えて〜、その計画では四季の女王の存在でさえ否定しちゃってるのさ〜」

「星……かっ!」

「そ〜、あいつはただの(とばり)の汚れに名前をあげて〜王様達の全てを託そうとしたのさ〜………あの"魔法の杖"を使ってね」


「その杖を手に入れる為に大臣コンスェルは行方不明の春の女王を最後まで探していたわ」

「で、でも春の女王、は、見つからなかった」


「夏の女王と秋の女王っ!いつの間にっ!」

(とばり)、し、知って、たんだ」

「まさかよね」

「やっぱり〜」

「皆酷くないっ?!」


「ま〜ぶっちゃけ見た目、身寄りがなくて教育もろくに受けてないって感じがすご〜いもんね〜」

本当(マジ)でっ?!」

「まあまあ、そう興奮しないで王様に会いに行きましょ」

「え?ま、まだ会ってな、いの?」

「そ〜王様がいないんだよ〜」

「春の女王のところよ、きっと」

「?!あ、あなた!」

「ほほ〜その心は」

「私には分かるのよ」

「長年の信頼と経験ってことかっ!」

「まあ、そういうことね」

「それにしてもね〜春の女王どこにいるか分からないよ〜」


「見当はついてるわ。アリー、この頃王様からの命令でおかしな人事しなかった?」

「え〜最近の人事で王様が口を挟んだとこって言ったら〜………警備の増員くらいだよ〜」

「その警備員におかしなところがない?」

「ん〜……そ〜言われれば〜あの子の仕事している姿を見たことないよ〜な、あるよ〜な、ないよ〜な、ないよ〜な、ないよ〜な」「ーないのね」

「テヘッ」

「そ、それで、いいの?戦、士長様」

「だって〜ジュト君苦手なんだも〜ん」

「戦士長?!ジュトだってっ?!」

「み、み耳もとで、う、うるさい!」

「そ〜あのコンスェル大臣の弟君だよ〜」

「幼馴染ですっ」

「じゃ〜ジュト君は君に任せるよ〜で、ジュト君のとこに春の女王がいるんだね〜??」

「ええ察しがいいわね」

「お褒めに預かり光栄です〜。で〜はでは夏の女王様!よろしく〜」

「顕現せよ」

「マカッセテクダサーイ」

「っ?!」


 誰も期待していなかったデジャビュ。






「ドロリンチョ」

「ご苦労様、マイケル」

「ボブじゃないのかよっ!」

「おお〜君は冬の女王の召喚も見たのか〜冬の女王の召喚術は無詠唱で素晴らしいらしいからね〜羨ましいな〜」

「それより ここどこなんだよっ!」

「あなたも来たことあるでしょ、"四季の塔"よ」

「えっ?!じゃあ春の女王は最初から塔の中にいたのかっ?」

「やっぱり、な、何も、知、らないのね」

「絵本からでいいからさ〜何かしら〜読んだ方がいいと思うよ〜」

「何で(とばり)は知ってたのか不思議で仕方ないわ」


「最後のは褒めてるよなっ?」

「いいえ」

「ま、まったく」

微塵(みじん)も〜」

「コレッポッチーモ」

「やっぱり皆酷いって!」


「塔の扉は外からだけ、しかも王か女王、いわゆる神格にしか開けられない。そして塔の中には王と女王しか入れないの、しかも1人ずつしか中には入れない」

「へ〜っ」

「知らな〜いって、冗談じゃなかったんだね〜」

「まあなっ!」ドヤァ

「褒めて、ない!」

「も〜勉強不足なのは仕方ないから〜早く行ってきてよ」

「? どこにっ?」

「ほら〜アレだよ、ア〜レ〜」

「うげっ相変わらず勉強してやがる……「君とは違ってね〜」……うるさい………というか、実のところ自分あんまりジュトとは話したことないってゆーかっ、仲良くなかったってゆーか、嫌いなん「はいは〜い、任せたからな〜」はーいっ…」




「まぁた来たんか、卑しい盗賊がぁ」

「おいおいっ落ち着けってジュト、俺だよ俺」

「あぁん?......うげぇまさかお前ぁ」

「そうだよっ、昔は一緒に風呂に入ってた仲だろっ話を聞いてくれよっ」

「同郷、しかも幼馴染が盗賊になるたぁ......これ以上の恥はねぇ......仕方なぁのぉ、せめて わしの手で(ほおむ)ったるけぇのぉ!」

「うぇっ⁉︎やっぱ無理っ!女王様達ヘルプっ!」



「本当に殺しにかかるなんてね〜」

「だから言ったんだよっ!」

「女王様の使者とはつゆ知らず、大変失礼いたしました!」

「面白かったし大丈夫よ、気にしないで」

「はっ有難いお言葉!まったく気にしません」

「いや気にしろっ!死ぬまで気にしろっ!」

「それより、本題なんだけど…春の女王のとこまで連れてってくれないかしら」

「……分かりました。ご案内致します」



 傾いた西からの陽を浴び輝く雪の中、一行は静かにそびえる四季の塔の近くの大きな木の下に案内された。いつ枯れ始めてもおかしくない貫禄ある大きな木のなんの変哲もない枝を案内役がゆっくり押し込むと音を立てながら幹が割れ、中には木の太さから考えてあり得ない程広い部屋があった。


「えええぇぇぇええっ?!」

「こちらです」

「こ、こんな近、くにあったなん、て」

「驚くとこそこっ?!なんか広くないっ?!」


 振り返れば冬の女王がいる塔が見える、距離にしたら100mも離れていない位置にあるハイレベルな隠れ家。そこには王の特殊能力でできている以上に不思議な暖かさがあった。


「見つかったようですね、王様」

「ああ、そのようだな。御機嫌よう諸君‼︎よくぞここに辿り着いたな‼︎」


 分かりやすい空元気(からげんき)で重たく笑う王様とベッドに横たわる不思議な暖かさを持つご婦人。彼女こそが春の女王なのだろう。


「ちょっと待ってくれっ春の女王は行方不明で、冬の女王が塔から出れなくて、春の女王が王様といて…よく分からないんだがっ」

「まずは春の女王を見つけだした勇者に事情を説明しよう‼︎歩きながらでもよいか?」

「ああ、構わない」



 春の女王の手をとりながら歩きだした王に従い全員で四季の塔へと向かいながら王が女王達と結んだ秘密の約束の話を聞いた。何百年もの間、王として女王として生きてきた疲れを知った。


 春の女王は老いた見た目に、冬の女王は無詠唱ができなくなったことに、その他の女王も王でさえも何らかの形で力の減衰を感じていたそうだ。そんなある日、春の女王が塔に入る前に倒れた。原因は不明、その後体調は回復し、万全ではないもののその年はいつものように塔へ入った。そこまでは例年通りだったのだが、春の女王が塔に入った後に秋の女王がある提案をした。その提案は春の女王を隠して季節を止め、国を滅ぼしてしまおうというものだった。信じられない提案だがそれは現実になってしまった、もう四季の女王として生き続けた女王達は限界だったのだ。


「しかし‼︎私はそれに条件を加えた‼︎春の女王を誰かが見つけたら、また300年待とう‼︎と」

「前にもやったのかよっ‼︎」

「ええ、少し趣向が違ったけどね」


 そして、その計画が実行された。しかし、今回は例年と違い、段々と女王達の願いが現実味を帯びてきた。そう、最後の希望の星コンスェルの訃報によって。


「あ、あの、時は嬉し、かった」

「不謹慎だけどね」

「だが、俺が出てきたっ」

「正直に言うと、今すぐにでも殺してやりたいわ」

「ええっ…」

「冗談よ。約束だもの、もうちょっと頑張ってみるわ」


 会話が途切れた。ただでさえ仕事をしていない地の文があの盗賊に盗まれた時は本当に驚いたが無事戻ってきて良かった。こっちの話の間に冬の女王も含めた一行は塔の扉の前に無事集まったようだ。そして、扉は開く。




「見つかったか。」

「すいません、冬の女王…」

「いや。いいんだ。」



「それで、勇者よ‼︎君は"魔法の杖"を使う権利を持っているのだが…」

「もちろんっ、使うっ!」

「そ、そうか‼︎…まあ、その前に説明を聞いてくれ‼︎


まず"魔法の杖"というものはこの世界には存在しない‼︎」

「ーはあっ⁈それ本気で言ってんのか‼︎」

「そう興奮するな‼︎正確に言うと杖ではないというだけだ‼︎」

「は?じゃあ何なんだよっ?」



「この塔だ‼︎」


「えっ?!」「え〜?!」「wow」

「しかもこの塔は私の分身で神格なのだ‼︎この塔に同じ神格の力を注ぎこむことで自然の法則に干渉することができる‼︎」

「それはすごいなっ!」

「しかし、その力も有限で今はかなり衰えている‼︎だから世界を全部お菓子にするとか、全ての人間をドラゴンにするとかはできない、最悪私が力を使い果たして死んでしまい世界が滅ぶ‼︎」

「お菓子って…」

「実際にいたんですよ、全力で止めましたけど」

「あっ、はい……」

「ここまで聞いて‼︎どんな願いをするか決められたか?」

「ああっ最初から変わっていないっこれを見てくれっ」

「これはコンスェルの⁈なになに……」

「女王様達も見てくれっ」




「滅茶、苦茶……でも、す、すごい」

「素晴らしいわ!これで決まりね」

「ああ‼︎斬新だ‼︎これなら君はもう無理をしなくていい‼︎」

「そうですね」

「なかなかだ。」


「こりゃすごいのぉ」



「だが、こんなに深く法則に干渉するとなると‼︎……私の命一つじゃ全く足りない………」




「………」

「………」

「私も手伝うわ、私だって神格よ」

「私の命もお使いください」

「わ、私も」


「女王様達〜………」

「でもっ危険過ぎないかっ!もうちょっと待ってもいいんじゃないかっ!」





「君に分かるのか。」

「えっ」


「毎年、あの何もない塔の中で繰り返される。冷たさ。孤独。闇。虚無。沈黙。恐怖。喪失。無限。空虚。永遠。無価値。無能感。人生に終わりを待つ私達の心が。」

「でもなっ……」


「あなたもやるわよね」

「無論。」

「っ………!」





「大地に刺さる我が分身よ。舌眼も持たざる無垢なる神よ。汝に伝心の術を望む。"願いの書"よ‼︎ここに顕現せよ‼︎」


「ジュト、お前はこれでいいのかっ」

「うむ、王達ぁもう十分やったけぇのぉ」

「そうかっ…………やるしかないのかっ」








「さあ勇者よ‼︎この書に願いを書き、塔に捧げれば願いは届く‼︎今回の願いは今までと規模が違う、何かしら起きるかもしれないが私達が神格の名にかけて君の安全を保証しよう‼︎」

「さ〜、早く書いて〜」




「えっと、誠に言いづらいんだがっ…」

「どうした?間違えたのか⁈」



「そうじゃなくてっ……俺は字が書けないぞっ」

「「「「えっ?」」」」




「まったく締まりがないな〜」

「ああ。君らしい。」

「おかげで緊張がほぐれたわ‼︎」


「書はわしがー」

「私が書くわ」

「わしにお任せください。女王様がわざわざ書くようなもんではございません」

「いえ、書きたいの。貸してちょうだい」

「いいえ、そうはいきません」


「まあまあっ、どっちでもいいけど夏の女王が書きたいなら書けばいいんじゃないかっ」

「ありがとう」


 皆の願いをのせた書を受け取った夏の女王は、緊張した面持ちで見つめる全員の前で想いを込めて文字を刻む。




「…できたわ、じゃあ捧げてくるわね」



「待ってください。夏の女王、その書に何と書いたのですか?」

「もちろんCPPよ、それ以外あるかしら」

「それ以外の文字が見えたから聞いているのです」

「何のことかしら…」


「ちょ〜っと よろしいですか??」


 塔と夏の女王の間、敵の退路を断つかのようにアリー戦士長が野心を持つ者の活路を遮った。


「早いわね」

「お褒めに預かり光栄です〜これでも戦士長ですから〜…………理想郷(ユートピア)ですか」

「説明してもらえるでしょうか」

「……文字の通りよ」

「人間のいない〜自分のためだけに存在する世界〜ですか」

「まさか‼︎お前、最初からそのために‼︎」

「そう、結構頑張ってたのよ」

「だ、だから、あ、んな不可思議な、行動を!」

「何だ、バレバレだったのね」

「あなたは自分のしようとしている事の愚かさが分からないのですか?」

「死んでも許されることではないぞ‼︎」


 強い意志を持った神格達が戦闘態勢に入った、次の瞬間彼らの時間が止まった。人ならざる神達が一瞬にしてもの言わぬ石となってしまった。


「高い志を持った私の力だけが衰えないことに気付かないなんて…どっちが愚かなのかしらね」


「もしかして〜コンスェルに何かした?」

「さあ、私は何もしてないわ。ただ、ありふれた言葉で言うと勘のいい坊やは嫌いなのよね」

「!!」

「もう、いい?どうせいつかは滅びるんだからその後はどうなったっていいわよね。早く終わりにしましょう」


「それでも…お前は間違っているっ!」


 一足遅れて夏の女王の前に立った青年。彼には女王達の気持ちが分からない、何が間違っているかも分からない。

 動かなくなった者達の代わりに動くことは生きている者の使命だなんてカッコつけるつもりもなかった。ただ同じ時を過ごした者の為だけに彼は立ちはだかる。


「よく分からないけどっあいつが許さなかったことは俺も許さないっ!」

「これだから頭が悪い人って苦手なのよね、何でこの状況が分からないのか理解に苦しむわ」

「確かにのぉ」

「何だよジュトっ!」

「願いの結末は同じやし、王がさっき出した"誓いの書"もあっちにある…なら分かるやろ」

「お前っそれ本気で言ってるのかっ!」

「よぉ考ぇこれが事実じゃ」

「ふざけるなっ!」


 胸ぐらを掴んだ青年の腹部に鍛え抜かれた拳が当たる。


「クッ、ジュトぉ...本当にそれでいいのかよっ!」

「騒いでもどぉにもならんやろが」

「フフッ話が分かる人がいて良かったわ、あの最後の大臣もこんな風に賢かったら死ななくても済んだのにね」


「「「!!!!」」」


「……よくも〜〜!!!」

「あなたも愚かね」


 ひたすら猪突猛進に、溢れる激情に任せ短剣で襲いかかったアリー戦士長の時間もまた、無慈悲に空中で止まる。


「本当にうるさいわね、何をやっても無駄って分からないのかしら」


 冬の氷より冷たい笑みを浮かべ歩を進める夏の女王。その背にアリー戦士長の手から(こぼ)れ落ちた遺志と短剣が突き刺さる。


「ウッ!いちいち、(しゃく)に触る生意気な小娘ね!!ジュト!この先はあなたに任せるわ」



「おいっ!ジュトっ!待てよっ!」

「待たぬ!わしに創界神のご加護を‼︎」


 右手に夏の女王の"願いの書"を持ち、左手で塔の中に"願いの書"を投げ入れる。




「…ジュト!!何を入れるの!!!」

「尊敬する我が兄の遺言でございます。」


 塔が輝き、願いを叶えるための唸りをあげる。


「いやああああああああああああ!!!」





 役者(英雄)達に贈られる万雷の拍手は降り止むことはなく、終幕のブザーは静かに彼らを包みこんだ。















「あれっ?俺生きてるっ」

『おい。逃げろ。今なら間に合う。』

「冬の女王っ?!」

『塔の光には神の力がある。この中でなら。君に別れを告げられる。』


『ありがとう。』



「……嫌だっ」


『駄目だ。君には家族がいる。帰るべき場所がある。呪文は知っているだろう。』

「だからっ嫌だって」

『言わないのなら。私が言うぞ。』

「言わなくていい。元々俺の帰る場所はここにはない、もしあるとするならお前のそばじゃないと嫌だっ」




『………"お前"は嫌いだ。私の名は。ヴィーナスだ。』

「これから、よろしくなヴィーナス」

『よろしくだな。ルパン。』

「フッ、何世だよっまったく」


グオオオオオオオオオオ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎






〈人は、いや人以外も生きとし生けるもの全ては、神のいなくなった、まるで何も見えない夜の中を生きている。灯の一つも持たないで、ただ、ただ悩み生きているのだ。〉新訳聖典 前文より




 雪解けを始めた国から英雄達が消えた後、国は混乱の中で、たった数人を残して滅んでしまった。

 それから長く永い時間が経ち、人間達は再び国を作り、お互いに支え合って生きている。文字通り星になった英雄とあの"塔"に見守られながら……。


「(アレ?僕忘レラレテル?)」


次作 きっと私は神になる!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ