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今日から学校と仕事、始まります。①莞

ふーん、へぇへぇ

作者: 孤独

昔々の事。


四角いテーブルにケーキが2つ置かれていた。

テーブルを囲って置かれた椅子に座る男が4人。甘美な食べ物を前に、したたかな舌戦と拳闘を始めようとしていた。


北方向。

獅子の刺青を両手の甲に入れる若き男、山寺光一やまでらこういち


「これは慈我流の戦闘作法だな」


東方向。

老体で弱り切っているような肉体となりながらも、百戦錬磨の風格が顔に現れている、鮫川隆三さめがわりゅうぞう


「かはっ、男4人。誰かが喰らうのじゃ」


南方向。

サラリーマン風の七三分けにスーツという、見た目完全なサラリーマンだが、ヤクザの組合の知能を任された、伊賀吉峰いがよしみね


「ケーキやコーヒーはゆっくり味わいたいですが、戦地のケーキもまた格別でしょうに」


西方向。

背は4人の中で最も高く、体格もがっちりとした男。長髪を縛る男は、天草試練あまくさしれん


「大人が、それもヤクザの俺達が二つのケーキを食い合えってか」


4者共に傑物。ここから2つのケーキを均等に割ろうなどという輩はいなかった。

話し合う、殴り合う、そして、ケーキを喰らう。

手段はこの4人が決め、この内の2人が食べる。


「伊賀、テメェが1つ食べろよ。食わなきゃ、身体がデカくなんねぇぞ」


先制攻撃ならぬ、先制口撃をしたのは光一からであった。

正直なところ。


『虫歯できてるから、ケーキが食えねぇ』


光一はテーブルに肘を付けながら、虫歯ができている個所に手を当てていた。


「いやいや、私のような軟弱者にケーキはねぇー。ここは鮫川組長が二つ頂くのはどうです?」


話を振られ、伊賀は何気なく。そして、当然の如く。この鵜飼組のトップを務める鮫川が食べるように促すのであった。これに異論はないし、伊賀自身は


『間食は健康に響きますし、ウエストが気になってます。スーツもきつくなったような』


お腹に手を当てながら、鮫川に譲るのであった。


「ワシか。確かに納得できるがのぅ、血糖値を上げて殺す気か?」

「私、そこまでの事を言ってませんが?」

「冗談じゃわい。じゃが、ワシはケーキが嫌いじゃ」


鮫川はその振りに納得しながら、サラリと流す。その理由に


『健康が何よりも大事じゃから。ケーキで血糖値を上げる気がない』


言葉通り、正直なことを思っていた鮫川。老年となっても、その生きるしぶとさは日常から培われている。


「天草は?」

「俺、ケーキは好きだが」


じゃあ、テメェが食えよって3人は思ったが、


「明日、人間ドッグに行くからな。食べたらさすがにマズイじゃねぇか!」


こいつあんまり頭が良くねぇくせに、一番食えない理由を持ってるのかよ!!


ちなみに今、鵜飼組は構成員などの健康診断をやっている最中でもあった。光一、鮫川、伊賀は終わらせており、天草は明日受診する予定であった。ケーキを食べると、血糖値や体重なども上がって、お医者さんから指摘をされる。


「ちょっと待て、光一は食わないのか?」

「あ?」

「さっきから人に勧めてばかりですよ、嫌いだったんですか」


いや、そんなわけねぇけど、虫歯だしな。歯の痛みを感じて食っても旨くねぇじゃん。


「いやいや。そもそも、考えてみろ!なんで、テーブルにケーキが置かれてる?置いた奴、誰?」

「うむ。確かにのぅ」


っていうか、仲が悪いのが揃って同じテーブルの椅子に座る事すら不思議だ。奇妙な偶然だ。


「俺がこの2つのケーキを大野鳥からもらったぞ。労いだってよ」

「天草さん、健康診断あるのになんでケーキをもらうんですか!?」

「買い過ぎたとかで二つ渡された。俺、人間ドッグあるの忘れててよー」


ふざけんなよ、天草!つーか、この皿とスプーンまで用意したのお前かよ!ホントの直前で思い出したのかよ!?


「だったら、天草が責任持って食え。俺、席を外すわ」

「待てよ、光一。俺も困ってるんだぞ」

「なんだよ!」

「ケーキを冷蔵庫に入れたら誰かに食われるかもしれねぇじゃん」


少なくとも、この3人が食う事はねぇよ!


「な、なるほどのぅ。じゃったら、ラップして名刺を張り付けておけ。さすれば、食われんじゃろう」

「それでも鮮度も悪くなるし、誰かが食べてくれるのがいいけどな」

「では、大野鳥さん達に食べてもらえばいいですね」

「大野鳥は俺達の部下なわけだし、労いって事だろう。俺以外で食べてくれよ」


天草テメェ、空気読め。お前以外、ケーキを食う奴がいねぇんだよ。

気まずい空気。ケーキを争奪する話ではなく、ケーキを誰が食うかの話。光一は一番に殺気立って、両手をグーパーし始めた。力技をすると、鮫川にも、伊賀にも悟れた。しかしながら、


「食べ物如きで騒ぐとはのぅ」


鮫川が最も平和的に、そして、惨くアッサリと結末を見せる。


「まだ貴様等はガキじゃい」


片手でテーブルをひっくり返し、皿に乗ったケーキを床に落としてみせた。皿は割れると危険なため、光一が床に落ちる前に、二つそれぞれを掴んでいた。


「あー、いいのかよ?」


天草はスプーンを2つ掴んでいた。お前、一番どーでもいい物を掴んでいるんじゃねぇよ。


「仕方ないのぅ、大野鳥にはケーキを落としてしまったと言ってくれ」

「ありがとうございます、鮫川組長」


伊賀は鮫川に一礼。頭を下げた時、見えたケーキのクリームの中から見える赤い粒


「おや?」


それは唐辛子のように赤い。もしやと思った。

食べたくない理由は色々とあったわけと、自分で納得してしまった。


◇     ◇



「刺激MAXの激辛ケーキを天草さんや光一さんが食べたらどうなるかな?」

「激しい怒りで襲い掛かってくる気がする」



悪戯好きな10人の大野鳥おおのとり夜枝やえ達が、10人分のケーキを円卓テーブル上で食べていた。その1人の大野鳥が口を抑えながら、水を要求する


「み、水~~」

「やっぱり、一つにして正解だったね」



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