追想 下
「望、ありがとな」
「??」
「お前がいなければ、俺はこうはなれなかったよ」
独り言を言うように破宮は話す。
「ふーん。パワーアップでもしたって言いたい訳?」
「さぁ?俺にも分からないんだ」
「不明確で自信を取り戻しても良い事はないよ」
余裕を持って、ニヤリと望は笑う。
「そうだな。お前の身で証明してみよう」
その声はとにかく冷たい。心の温もりなどは欠片も感じられないほどに冷めている。
「うん、そうだね!」
望は地面を蹴り、破宮との距離を詰める。そして、剣を振り落とす。
ギィィイン!
それを受け止める。先程とは変わらず傷だらけのはずの体で。
「望、上だ。こんなのにも気づかないのに本気か?馬鹿野郎が!!」
「え?」
破宮の言葉を聞いた望は、鍔迫り合いを継続させながら上を確認する。
「何も……」
その隙を下から造り出された剣に襲われた。
「下からなんて……グフッ!嘘つきだね」
「お前を見習っただけだ」
鍔迫り合いを力任せで終わらせ、怯んで愚痴っている望の顔を破宮は躊躇わずに蹴り飛ばす。足が鼻を砕いてさらにめり込み、吹き飛ぶ。
「ぶはっ……!」
かなりの速度を持って吹き飛ぶそれを見てから破宮は走る。
そしてしっかりと転がる望の頭を手で鷲掴みにして地面に叩き込む。
ゴッ、ゴッツ、ゴガァッ、ガッァンッ!!
一回、二回、三回。トドメの四回目。
そして持つ部分を首に変え、力任せに握り潰した。
「ふぎゃっ」
無様な鳴き声を上げて望の首は千切れ飛び、頭と胴は離れる。
「アバッババッッバダぁだだ!!」
異常とも言える声が吹き飛んだ頭の方から聞こえた。
「ちっ」
不協和音を奏でる迷惑なラジカセを思いきり蹴り飛ばす。
(何か来る)
そう判断した破宮は鉄の盾を造り出した。
「破宮、それは何??」
「し、時雨?」
遠くから聞こえた時雨の声でふと自分の造り出した鉄の盾を見る。
それは今まで造り出していた銀色に輝く鉄の盾ではなかった。ひたすら流れ続け、時間を得ることで自然と固まっていったドス黒く呻くような深紅で混じり合った色をした鉄の盾がそこにはあった。
(俺にぴったりじゃないか)
自然とショックはなかった。
変貌を遂げた鉄の盾を眺め、破宮は客観的な感想を浮かべる。それと同時に望の胴体が破裂した。
「やはりか」
その爆風を鉄の盾で防ぎ、破宮は望の頭が転がった方を見る。
「くぅ!!」
見つけた瞬間には距離が詰められ、破宮の首を刈り取らんばかりに剣を大振りに振るう。
(もう再生しているか)
それを躊躇わずに鉄の盾で防ぎ、そのまま剣を望の心臓部分へ突き刺す。
そして悲鳴を聞くよりも早く引き抜き、地面に叩きつける。
「あばっ!」
血が溢れ出す心臓や身体何度も何度も蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴り続けた。
「あぶぅ、あぶっ、あびゃ、あばっ、あばぁ!!」
苦しみ喘ぐ望を冷めた目で見つめながら破宮は蹴り続ける。しかしそれは突然止まる。
「はっ?」
それどころか破宮は望から距離も取った。
「舐めてっいるの?」
その隙を見逃す望ではない。
「燃え滾るっ……理想を胸に抱き!身へ戻ろうともがく魂っ!!」
痛みに呻きながらも望は叫ぶ。
「それを晴らさんと言わんばかりの力を見せろ!!」
望は完全詠唱を行い、爆発を起こそうとする。しかしそれは起きない。
「え?どうして??」
望の脳内には疑問が生じ、強く焦る。今まではこれで爆発魔法は好きなように使えていた。さらに魔法が使えないのであれば、自分の能力はほぼ無意味なものになってしまうのだ。
「そう焦るな。望、上だ。こんなのにも気づかないのに本気か?馬鹿野郎」
「うえ?」
その言葉を聞いた瞬間に望は上を向こうとした。しかしそれをやめる。破宮の言った言葉は先程自分を騙した時の言葉と同じなのだ。
「騙さ……れないよ!この身体をさいせ……」「終わりだよ」
踊りを奏でて舞い続けるダンスステージにも幕を閉じなければいけない。その幕を閉じるのは、滴り零れる剣の雨。
「ああぁあああああぁつぅぅぅああぁああぁつぅぁあぁあぁ!!!」
腕を捥ぎ、足を剥ぎ、胸を穿ち、頭を砕く。何度も何度も再生し、何度も何度も殺される。
「どういうこと?」
「お前が爆発魔法を使う上での媒体として使う血をすべて剣に変えた」
「ふぅ……ん」
「気分はどうだ?」
「さ……いあっくだよっ」
「そうか。ならばもっと苦しめ。それが死ぬって事だ。再生し続ける身体を嬲られ続けろ」
破宮は言い捨てる。それと同時に雨足は更に強くなっていく。
傘を差す事も出来ないずに濡れていく望を破宮は、眉一つ動かさずにただ眺めていた。
「ね、ねぇ!!」
「なんだ?」
「も、もういいんじゃないの?」
「まだだ。まだ足りない」
「で、でも!さ……」
張り詰めて自分を止めようとする音は仕切り無く怨嗟の声で掻き消せる。
しかし視覚はどうする事も出来ない。勝つ為にはどうしても失えないものだ。
冷え切った心を太陽で溶かすような目に責められるのは嫌だった。
(時雨……責めないでくれ)
無視し続けていた破宮が時雨の方を振り向くと時雨の姿はもう見えなくなっていた。その代わり、どこまでも厚い雲がその明かりを遮っていた。
(そういうことか。ありがとう、陽炎)
「破宮っ!!」
「どうした?」
「今のっ……君は最高だぁ……よ!」
「急にどうした?」
「そのままの君を保って……欲しいな。って優しいから無理だね……」
(何が言いたいんだ?)
「最期がっ君で良かった。僕は、僕は怖くないよ!!」
望は余裕を持つ訳ではないがニヤリと笑う。
「『同化』解除」
(死ぬ気か)
破宮は剣の雨を止め、望の元へ走る。
「求めた夢で安息を」
再生によってしっかり言葉が出せるようになった望はたった一言呟いた。それと共に望の足元が強い光を放っていく。
「破宮、時雨さんにごめんなさいって伝えといてよ」
「あぁ、分かった」
破宮はその言葉を聞いて、走るのをやめる。彼女の死の覚悟を強く感じたからだ。
(アレはあいつの最期の魔法。食らったら一溜まりも無いな)
「あと、この石を」
望は何かを投げる。それをきっちりと受け止める。
(赤い結晶だと?)
「何がしたい?」
「結晶化の研究は僕達の方が進んでいるんだよ。そこには僕の記憶がある。好きなように使って」
「そんな事してお前らに何のメリットが?」
「吸血鬼達が自由に安息をもって生きる世界を君達なら作ってくれると思えたから。もし希に勝ったら、勝てたなら君達の手で作って欲しいんだ」
「託すって事か」
「そういう事さ」
「そうか……期待はするな」
「それともう逃げた方が良い。ここが崩れる。後で戻って、絶対に僕の血を結晶化しろ!」
今までよりも力強い声。今の破宮さえも気迫負けしかける。
「勿論だ」
「じゃあ、また会う日まで」
訳の分からない言葉を最期に言い、望は強く輝く光に飲まれていく。
それを見届けて破宮は陽炎団と共にここから脱出する為に走り出した。
お久しぶりです!ヒグラシです!!
気づいたら七月になっており最終更新から四ヶ月ほど経っておりました。誠に申し訳ありませんでした。
次回の更新も不明ですが楽しみにしていただければ幸いです。




