追想 上
「っああ!!!」
斬られたところから血液が滴る。そして、それが地面に血溜まりを作り始める。
「ガハッ……ゴフッ……」
「もう終わりかい?」
「そんな訳が無いだろ」
「ハハハハッ!!!」
嫌な笑い声と共にそいつは消える。
(どこだっ?!)
ズザッ!!!
後ろから音がした。それに気づいた男は振り返り、剣を振る。
「後ろか!」
ギィィィォ!!
「よく気付いたね。少しは慣れちゃったのかな、破宮?」
「慣れてはいないさ。少しコツを掴んだだけだ、望!」
破宮は剣を受け止めながら、蹴りを放つ。それを上へ飛んで回避する望。そしてそのまま破宮の剣に斬り落とされる危険性を恐れるどころか、気にも留めずに蹴りを胸に食らわせる。
「っっ!!」
それを受けて、後退した破宮に剣が迫る。
(左、右、上、左下!!!)
三度目までは対応する事ができた。しかし、四度目の攻撃を刀身で受けきる事も避けきる事も出来ず、破宮は剣を鞘の部分で受けてしまった。
「うがっ!!」
それと同時に薬指と小指が落ちる。
破宮の脳内を駆け巡るのは「痛い」という感覚だけ。だが、悲鳴を上げる事はできない。望を前にしてそんな余裕などはない。
「っああ!!」
破宮は剣を下に振り落とす。しかし、それは空を斬った。
(早い。早すぎる!また消えた!!どこだ……いや、一度集中しろ。集中するんだ!)
破宮は一度構えを解き、目を閉じる。
サッ!
「右だぁぁ!!!」
渾身の力を込めて剣を右へ振り払う。
「アハハハ!!」
それさえも空を斬る。
「やっぱり手掛かりは音だったようだね……君は凄いよ」
カチャッ……パンパンパンッ!!
(あっ……!!)
振り抜いてしまった破宮が避ける事は完全に出来ない。そのまま三発の銃弾が頭に撃ち込まれ、地面に倒れる。
(ギリギリで鉄の盾は投影できて、頭を吹っ飛ばされるのは止められた。だが、衝撃は抑えられなかった……)
「がひゅ……あぅ」
「強かったよ、君は。でも、ぼくのほう……」
望は何かを言っている。だが、今の破宮にそんなのは聞こえてはいない。
(まだだ……)
望へ伸ばす手も空を掴み、破宮は意識を手放した。
「は…………て。はみ……きて。破宮、起きて!!」
「えっ……」
「良かった。良かったよ!!」
声の主は時雨だった。時雨は破宮が目を覚ました事に喜び、抱きしめた。
「痛い……」
「もう……無理はしないでよ!」
「浜風は、大丈夫なのか?」
「今、谷風が守っているわ」
「来たのは」
「私と陽炎団長、雪風、磯風よ」
「磯風にここは危険すぎる」
「彼女が行くって決めたのよ。『私と相性が良い』って、言って聞かないから」
「そうか……ああなったあいつを説得するのは確かに難しいな。それで今の状況は?」
「そんなに掠れた声で焦って聞かないで……辛くなるよ」
「なんでだ?」
「大切な人が傷付いて、苦しんでいる姿を見て、辛くならない人が居るの?!!」
時雨は涙を流しながら、怒鳴る。
「ごめん。さっきの発言は配慮不足だったな」
その流れる涙を手で拭い取り、破宮は立ち上がる。
「それで状況は?」
「それでも戦うんだね」
「それが俺の役目だ」
(今ここにいる無価値な俺の唯一の証明。そして破壊を語って、この名を継いだ意味だから)
「分かったよ。今、陽炎団長が『蜃気楼』発動の条件を満たそうとしているわ」
「雪風と磯風は援護か?」
「そうね」
「時雨、援護をよろしくな」
「勿論!護ってあげるよ!」
「そこまではしなくて良い」
破宮の声に力が戻り始める。そして二人は望との距離を詰め始めた。
キィンキィン!!ギィッ!ギギギァ!
二人と望の距離が百メートルを切る。
キィ!ギィィ!ッッ!ッ……ヂバッ!
そこでようやく、望の剣撃をしっかりと受け止めて弾き飛ばす陽炎の姿が見えた。
(「蜃気楼」発動の一歩手前だ!)
「雪風、今だ!」
「分かった。『破弾』!」
ザザザササッッササザザザ!!
空気を切り裂いて弾は進み、嫌な音が響き渡る。
「くっ!」
望は余裕で避ける。
そして、その行動を予想して振るい落とされた陽炎の剣を受け止め、その反動を利用して望は後ろへ後退を済ます。
(この距離なら!)
そう判断した破宮は強く地面を蹴り飛ばして、距離を凄い速さで詰める。
「もう復活か。やはり防がれていたみたいだね」
吞気な事を言いながら、破宮に向けて左手に持った銃を向ける望。
「ダァァ!!」
それを気にせず、再度加速する破宮。
パンッ!パンッ!!
二発の発砲。破宮の実力ならば、二発の内の一発は簡単に「壊」で真っ二つにできる。
「行くわよ、鎌鼬!」
そこに時雨の記録紋章が発動。一発目の銃弾は、多方面に動き、最終的に上へ跳ね上がった。
「流石だ!」
そして予定通り、加速しながら破宮は二発目の銃弾を右に斬り払い、真っ二つにする。そして、手首を返し、あと少しで届く望に右下から斬り払おうとした。
「ぁぁぁ!!!」
破宮が自分に近づく距離を理解していた望は、先に剣を振り落とす。
「破宮!一度避けろ!!あっちの方が先に届いて、首が飛ぶぞ!!!」
(左手に銃を持っているなら!)
陽炎の忠告が響く。しかし、それを聞かずに破宮は進む。
その途中で両手で持っていた剣から左手を離し、剣を振り落そうしたした望の右手を掴み、捻る。
「うっ……」
そして、すぐに「壊」を望の右脇腹から上へ斬り上げる。
ガギッィイィィ!!!ヌズビアアアァァアァア!!
剣は鎧を砕き、肉を深くまで裂く。
「ぃぁぁぁ!!」
さらに破宮は止まらない。捻って牽制した右手をさらに強く捻り、靭帯を痛めつける。そしてトドメの蹴りを放つ。
「ガハッ!!」
望の裂けた部分の傷口はさらに広がり、蹴られた衝撃で地面に倒れこんだ。
(やったか……?)
「ハハハハハははははははは〜!!」
破宮の予想とは反し、血を口から吐き出しなしながらも望は笑う。
(何かが来る!)
倒したのこちらのはずなのに。破宮の身体を得体の知れない恐怖が包みこむ。
「皆、下が……」「雨の名を引き連れて、我が血を元に落ちてこい!」
(雨?落ちる?まさか上から水系統の攻撃魔法か?!)
破宮は対策をするべく、素早く上を向いて盾を造り出した。しかし、何かが落ちて来る気配はない。
(じゃあどこから?)
破宮が目線を戻した瞬間、世界は真っ赤に染まった。
「爆発だっ……とっ!!」
咄嗟に回避行動を取ったお陰で、爆発をもろに受けずには済んだ。しかし、爆心地から逃げられた訳では無い。その勢いを受け、吹き飛ばされた。
(嵌められた。言葉に気を取られた!皆は?!)
破宮は痛む身体を気にせずに立ち上がり、周りを見渡す。
(陽炎のお陰で二人は大丈夫だ。時雨は?居ない!)
「時雨ッ!!!!!」
ガダッン!
叫びながら立った瞬間、後ろの瓦礫が崩れた。
(爆発でここにガタが来たか。このままじゃ崩れ落ちて、下敷きだ)
「破宮、終了したぞ!」
その思考を変える言葉が陽炎から伝えられる。
(「蜃気楼」の完成か。ならばここで終わらせる!)
短期決戦にする。そんな事を考えて、破宮は地面を蹴り飛ばした。
読んでいただきありがとうございます!
お久し振りです。今回から破宮と望との戦いを書く、追想編に入ります。
現在「一日一設定」は更新停止しています。三月中には復帰しようと思っています。




