四十七話 信頼
破宮から放たれた剣は正確に敵へ向かっている。だがそれに怯えずに前に出てくる男がいた。
「躊躇うな!矢を放ち続けろ!」
「アビネス様!!」
その声の主であり、この隊の隊長であるアビネスだ。声を出しながら、隊員達の先頭に出てくる。
「あ、あぶな……」
キィイイィイィンンン!!
その言葉が届く前にアビネスは剣を抜き出し、軽々と破宮の剣を吹き飛ばす。
「俺が居る!だから剣を恐れるな!!」
言った言葉はたったそれだけ。その言葉で向かってくる剣の脅威が消えることは無い。
しかし隊員にとってそれは、絶対的な安心感を湧かせるものだった。
「俺を信じろ!!」
「「はい!!!」」
飛ばした剣はアビネスの手で全て弾き飛ばされ、不発に終わってしまった。
「ちっ……来やがる!」
第三射を予想した破宮はそれを迎撃しようとする。
ドサッ……
「はっ?」
しかし、その意志とは裏腹に、破宮の身体から力は失われていった。
(どうしたんだ、俺の身体は?)
さっきの「投影」で最期の力を振り絞ってしまった破宮にそれに抗う力は無く、なすすべなく地面に倒れ込んでしまった。
(おい……立てよ!俺……早く!!!!)
「あぁあああああああああ!!!」
その叫び声と共に破宮は腕に力を入れ、身体を起こし始める。
“破宮!無理を……”
「がっ……」
獄の忠告も虚しく、破宮は血でぬかるんだ土に手を取られて倒れ落ちる。
びちゃ……
そして血で作られた泥に飲み込まれると同時に集中力が切れ、今まで保っていた意識が朦朧とし始めた
(こんなんじゃ駄目だ……もう終わりか?せめてこの意識だけは手放すな)
“心臓から矢を引き抜けないのか??!”
(手が少し動くだけだ。矢を引き抜く力さえ無い。それに声を出す力も湧いてこないんだ。すまないな)
“どうすれば……この状況を!”
(もしだ……もし俺が暴走してしまっても構わないなら方法があるんだ)
“その結晶化した奴を使うって事か”
(そういう事だ。本当はクラベス戦が終わってからに取っておきたかったんだけどな)
“もしかしてお前があの時心臓を貫かれなかったのは……”
そうだ。だが貫かれなかっただけだ。守ってくれはしなかったがな。
「ごふっ……」
(今の俺には力がない。もし暴走したらお前の「同化」で一度殺してくれ)
“知っていたのか?
(望が使ったやつだろ。あいつと戦った時と同じ感覚がした)
“俺は「シンクロ」と呼んでいるけどな”
(「同化」の方がカッコいいだろ)
“絶対に「シンクロ」だ”
(それは無い。「同化」だ)
“って、おい!!こんなことしている場合じゃない第三射が来ている!!”
(こうなったら仕方無い。俺の命を託す!)
“任せておけ”
血が抜けきって震える腕を無理矢理動かし、破宮は鉄の箱を取り出す。
「がふっ……」
“焦るな。焦らなくていい。落ち着いて言うんだ”
獄は優しい口調で破宮に呼びかける。
「散!!!」
その微かな声と共に鉄の箱は空気に消え、中から赤色の結晶が出てきた。
そしてそれを破宮は躊躇う事などはせずに飲み込んだ。
お久しぶりです!
今回は反撃に失敗し、惨めに倒れ込んだ破宮の話です。
次回からは、少し過去に戻り、望との戦いを書いていきます。
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