四十五話 同化
分かった事ってなんだ?
“二射から三射が、あいつが俺達に射つ事の出来る限界だ。そして、あいつの能力は恐らく衝撃を増幅させている系統のだな”
やはりそうだったか……となると「咎」と同じ原理って事だな。
“そういう事になるな”
三年前の奇襲の時、破宮は鮮に対して「結晶化」を行い、赤色の結晶にしてから喰った際に力を得た感覚を確かに感じていた。
その後、謎の違和感を持ちながらも戦い続けている途中で、理由は明確に分からないものの、突発的に「咎」を無自覚で使用することに成功した。そして血の滲むような努力を繰り返し、「咎」の能力を完璧に操る事が出来るようになっていた。
今回の戦いの中で破宮は、「投影」で造り出した剣を「龍飛」で飛ばし、その飛ばした際に起こした衝撃を「咎」で増幅するという、三つの能力を組み合わせる事で、剣の雨を降らしたり、剣を造り出してから飛ばしていたりという様々な行動を可能にしていた。
これが「同族喰い」の効果でもある。しかし弱点も勿論ある。
破宮の能力である「投影」は、空間にある血を利用し、血に含まれる鉄分などを利用して造り出すものである。剣を造り出す時は、一瞬の間に血を集め、固め、具現化するという三動作を行なっているのだ。そのため、能力の限界が他の者よりかなり早く迎えてしまう。
さらにその三動作を終えて造り出した後に「龍飛」と「咎」を利用する為、異常なまでの集中力を必要とする。そのため能力の使用中に攻撃をされた事に気づかず、完全に避けられない位置に来てから気づく事や、そのまま受けてしまう事になってしまうのである。
ならば「鏃」は、目がけて射った地点から曲げる事は不可能だ。それよりもどうやって測った?
“ただ単にお前に向かってくる迄の時間を見て、あと何回射ってくるか考えただけだ”
そういう方法があるのか……
“二射目、来るぞ!”
分かっている!!
破宮はまず鉄の盾を造り出した。
そしてそのまま二本の剣を造り始めた。
「壊」を造った時みたいに……周りからの憎悪を全身で受けるようなあの感覚を体に無理矢理でも思いだすんだ!!
破宮は周りの血を圧縮し、剣の硬度を上げていった。
ビィンッ!
剣を造り出すまでにかかる時間を稼ぐために造り出した鉄の盾は紙を通過するかのように簡単に破られた。
「行けっ!」
破宮は剣を勢いよく投げ飛ばした。
ビュンッゥン
その瞬間、圧縮して造り出した一本目の剣が「鏃」で加速している矢と衝突した。
キィィイギィィィ!!!!
一本目の剣は少しの時間だけは稼ぐことは出来たものの、最終的には破られてしまった。
“狙い通りって、言ったところか?”
そうだな。勢いが無くなった今なら!
ビュンッギィイィ!
そして二本目の剣が放たれて、勢いが弱った矢を違う方向へ吹き飛ばした。
“やったな”
まだだ…次で!
破宮は鉄の盾を空中に造り出して体勢を一度変え、着地の事は考えずに頭を地面に向けてから、もう一度鉄の盾を造り出して蹴り飛ばした。
“おい!いきなり勝負を急ぐな!”
二射や三射だとか言ったが、次の一射で終わりにさせてやる。
“そうとはいかないだろ!”
「またも退けるか……流が負けただけあるな」
「満、更に速度を上げた。残り五百メートルも無いよ!」
「恵音、今のうちに逃げろ。ここから離れろ!」
「い、いやよ!」
「命令だ」
「いや!」
「ちっ……おい、連れて行け」
「は、はい!」
満の周りにいた男二人が抵抗する恵音の片腕ずつを掴み、無理矢理この場から連れだした。
「離してよ!いやよ!!満と離れたく無い!死ぬなら一緒に」
「すまないな、恵音」
「良かったんですか?」
「あぁ、そんな事よりも先に終わらせるぞ」
この一矢で、すべて終わりになるように願いながら矢を番えようとした。
恵音、お前は俺と流に着いて来ただけだ。ここでお前が死ぬ必要はない。
離れた?
弓から矢を放つ音、矢が風を切る音、指示、罵声などなどが溢れるこの戦場で、破宮は満と恵音の話をしっかりと聞いていた。
しかし破宮は止まらずに加速し続けた。
今が好機と見るべきだ!
これから放たれる狂気の矢を恐れもせずに。その身に何十本の矢を受けながらも。
今から上半身に刺さった矢を全部抜く。来るまで俺の代わりに矢を確認しといてくれ。その指示で避けるから。
“そんなの無理に決まっているだろ!!”
え?
“俺はお前の目で見たものを認識しているだけだ。別にそれ以外は……一応、一応だがやる方法ならある”
どうするんだ?!
“お前の聴力を利用する”
そんな事が出来るのか?
“勿論代償はあるはずだ”
そんな事は構わない。ここで勝たないと前へ進めないんだしな
“ならば集中しろ”
そんな事が可能ならなんで言わなかったんだよ?
“疲れるからやりたくないだけだ”
本当は少しだけあいつに与えた制限を自分の能力で解除するんだけなんだけどな。それは破宮に教えなくても良い事だ……
獄、やるぞ!
破宮は目を閉じ、耳から聞こえる音に集中した。
“もういいぞ”
早いな。
“一分程度で良いか?”
これ以上同化するとこいつの封印が完全に解けちまうしな。
それだけあれば充分だ!
破宮は矢を引き抜き始めた。
来るか。これが届かなければ俺は死ぬのか。死にたくはないな。
満は次の動作に移ろうとしたてはいた。しかし移ることは出来ていなかった。
手の震えが抑まらない。怖い。だが、流はもっと苦しい思いをして死んだ筈だ。その分を俺がっ!!
自分の震える手に戒めをかけ、自分へ勇気を注ぐ事に必死になっている満に恵音は叫んだ。
「満!!なんでっ!!!」
あっ……
「お前は黙って逃げろ!お前はこの戦場に勝ち負けに関わる大事な能力者だ!」
「死にたいの……私は満と一緒に!流に逝かれて、満にも逝かれたら私は……私は!!!」
「ダメだ!!行け!」
俺が死んだらあいつは一人になるんだな……
「必ず帰るから待っていろ!!!」
こいつの為にも俺は死ねないな。
そう思うと同時に彼の不安で曇っていた心は晴れていった。
「本当?」
「本当だ!」
「じ、じゃあ……待っているからね。待ってい来るから絶対に来てね!」
「あぁ!!」
そして自然と手の震えは抑まっていた。
現状報告
柊隊 死者数 約千二十人 備考 綾波千人将死亡
クラベス隊 死者数 約五千百九十人 投降者 約六百人
遂に五十部達成致しました。ありがとうございます!
今回は破宮の能力の解説と満の最終意思を書きました。
twitterにて、この作品の新規設定(とてもくだらないような情報からこの後の話に関わってくる情報までたくさんあります)を公開しています!
URL:twitter.com/higu_kaiを入力する。
もしくは@higu_kaiで検索して頂ければ多分出ます。
見て頂ければ幸いです!




