四十四話 加速
「右脇腹に命中したわ。それで満、残り九百八十メートルしか無い。早く倒して」
「難しいことを言うな」
「難しいかしら?満になら簡単に出来るでしょ」
獄が立てた予想は当たり、満の隣には、破宮の位置を完全に把握できる能力者がいた。そして逐一、満に位置を教えていた。
「勿論だ」
その言葉を流し聞きしながらも、明確な自信を持って満は、矢を弓に番えながら言った。
一キロを切ったか。ならばここからとするか。まずは一射!これで殺せなくてもいい。更に命中させる!!
「『鏃』!!頼んだぞ。そしてお前らも続け!!」
「おうぅら!!」
ビュゥゥイィィィィン…………ヒュヒュユフウユ!!
「隊長に続け!!」
そして満が放った矢で出来た一本道に付き従うように多数の矢が放たれた。
“破宮、今はあの矢にだけ、あの矢だけを見ておけ。それ以外は当たってもすぐに再生をすれば、次に間に合わせられる”
了解!あいつだけを仕留めればいいって事だな!
獄の指示を受ける前に破宮は、既に右手に剣を造り出していた。
そして迫り来る矢達の中で唯一点々ではなく、その形を目視できるほど目立ち、先頭を切って飛ぶ悍ましい矢にめがけて、造り出した剣を準備万端の状態で投げ飛ばした。
キイィィパッツァ!
これでズレた…いや剣がへし折られたか!
そう判断した破宮は両手を重ね、谷風への対策の時に行ったように鉄の盾を何層にも重ね合わせながら造り出した。
こいつは手で触れていないと造り出せないのと造り出せる面積の大きさが小さいってとこが難点だな。
“だが、短時間に何枚も重ねて、それを圧縮して何層にもできるのは便利だと思うが”
その便利性の代償として、能力の使用限界が早まるからな。使いすぎ厳禁ってとこか。アレを把握する方法とかないのか…よし、出来た。十層しか造れなかったがそれで今は充分だ!
「おらぁあああ!!!!」
破宮は破られていくのをしっかり判断するために敢えて従来ならば五十センチ×五十センチの大きさで、持ち手を造り、使っている圧縮した鉄の盾を、持ち手無しの十センチ×十センチの大きさで造り出していた。そしてそれをしっかりと右手で握り、突き出して矢の先に当てて食い込ませた。
キィキィキィキィギギィギギギギンンンッ!
来た!!一…二!!
それに対し矢は、無情にも十層にまで圧縮して造り出した鉄の盾をいともたやすく貫いていった
ガギィイィィィイィィイィィイィィイ!!
七…八ィいぃい!!今だ!!
八層目まで貫かれたことを判断した破宮は、鉄の盾を右側に投げ飛ばした。
投げ飛ばされた鉄の盾は、投げられた力と矢の威力で吹き飛び、森の中へ消えていった。
これで終わり?そんなんで終わってたまるか!
破宮は反撃の手を打とうとはせず、更に鉄の盾を蹴り飛ばし、加速していった。
もっと…もっとだ!!こんな皮膚が少し剥がれる位の加速じゃ足りない!!あいつを確実に仕留められるまで加速し続けろ!!!!!
破宮は、身体に突き刺さる矢などの痛みを気にもせず、自分の脳味噌にただ一つ、「加速」という指示だけを伝え続けた。
「満、駄目だったみたい。それよりも更に加速したわ!」
「チッ!!」
届かなかったか…今の分だとあと三射が限界か。それまでにあのクソ野郎の脳味噌ぶち撒けないとな。
「ならば二射目に」
「ちょっと待って。移動を確認。右に十い…二メートル移動」
十二メートル?わざわざそんな大きい移動をするか?まさか…
「分かった。『鏃』、行くぞ」
満は一射目と同じように綺麗な姿勢で矢を弓に番え、放った。
“上手くいったな”
上手くいって良かったな。もっと加速して近づいてやる!だがもう次が来るか…
加速しながらも破宮は、鉄の盾を時間稼ぎの為に造り出した。
取り敢えず今の状況を整理しとこう。本来の矢であれば、この血が充満した戦場で俺が造り出した鉄の盾に当たった時点で、弾き飛ばされたり、折られたりしてそのまま落ちていく。その為、矢が俺の身に届くことは確実に無い。そうなると原理はやはりアレと同じか…
“「確実に」と言って何度失敗しているのか…そして状況を整理しているところ悪いが、今からこっちで分かった事を伝える”
現状報告
柊隊 死者数 約九百九十人 備考 綾波千人将死亡
クラベス隊 死者数 約五千百二十人 投降者 約六百人
読んで頂きありがとうございます!
今回の話も前回の引継ぎになりそうです。
※谷風への対策を行ったのは、十七話「暗鬼」にてです。
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