三十九話 兄弟
「満、何故矢を射った!」
「それはその…いやっ…も、申し訳ありません!!あの男が弟を殺した人間かと思った瞬間に憎悪に囚われ、無意識に…」
「ここまで隠密行動を取りながら来たのがお前のせいで…これあるまじき行為だ。お前は今自分がしてしまった事の重大さが分かっているのか?」
「勿論分かっています…ですが」
「ならば良い。過去は変えられないんだからな。その代わり言い訳はするな!この戦いであの調子に乗った馬鹿を殺せ!それでお前の反省は認め、この行動は不問にする」
「あ、ありがとうございます…アビネス様!必ず俺の『鏃』で奴の命を刈り取って見せます!」
「頑張るんだぞ」
アビネスは満面の笑みで満に告げた。
この時、満が矢を射った事で破宮と五月雨隊に存在を気付かれてしまった。しかし、この矢が破宮の右肩を貫いた事でブイングの命は救われていた。
確かに人数が少ないとは思ったが、あと一万か……多くて面倒だな。右の方向を破宮が見て俺達に言ったということは右側から来るか!!
「今更の事だが、ここで逃げるか?」
「えっ?」
五月雨はふざけたことを言った。この場の空気を一度変える為にも。
「冗談だ。皆、戻るぞ!!!」
「冗談キツイですよ」
そして自分達のやる事を再度理解させる為に。
五月雨は、別れたもう一つの隊に合流するように指示を出した。
「させるかよ!!前、動けよ!止めろ!」
勿論、それをぬけぬけと見逃すブイング隊ではなかった。
「じゃ…じゃあ!お前がこの死体を片付けろよ!!」
「この隙間を通ってか?俺は嫌だぞ!!」
この時、中央にいた者が前の者に前に進むように無茶苦茶なことを言ってきていた。増援が来た事を利用して、少しでも今の状況を改善し、勝ちに行く為に。
そのため、今の状況を少し忘れていた。
目の前に仲間の肉柵が築かれ、今も突き刺さった剣にもがき苦しむ者がいる事を。
「な、なら……」
そんな事をしている間に五月雨隊は、左の隊と合流してしまった。
破宮とブイングとの距離はもう十五メートルもなかった。
破宮は一度ここで剣を造り出し、その剣がブイングとその周りの者達を襲った。
あいつにとっては誘導程度にしかならないだろうな…
“ここからは集中力が一番必要だ。ギリギリまで剣を出すなよ”
分かった。それとだが右肩がもう上がらない。再生するのは可能だが痛みが…時間も足りないか。
“中々の弓使いだ。こうなったら左腕だけでやらないとな”
仕方無いか…いや、ただの慢心だった。またやらかしたか…癖か。
ギィンッギキキィ!
ブイングを狙って造り出された剣達は、ブイングの攻撃によって見事に弾き飛ばされた。しかし曖昧に造られた剣達は、ブイングの周りにいた隊員も襲った。
「がびゃんっ!」
「よけっずっばぁあ」
大抵の隊員は即死だった。しかしその隊員達の中では剣に身体を貫いてもらえず、腕や足を飛ばされただけ者もいた。
「ブ……イング…たいち…ょう!たすけ…」
もがき苦しむ隊員達は、ブイングに救いを求める為に声をかけた。
そしてそれを応じるように隊員達の周りに「這蛇」が現れた。
「これ…たす……かる」
ヌチャァン!
そして遂に破宮とブイングの距離は五メートルを切った。
現状報告
柊隊 死者数 約八百六十人 備考 綾波千人将死亡
クラベス隊 死者数 約四千七百人 投降者 約六百人
読んで頂きありがとうございます!
今回の話で遂に破宮の歯車が。あぁ…慢心して何度目の窮地なのやら。
次回、ブイングと一騎打ち。それも破宮は空、迎撃するブイングは地、互いに策を考えながら戦います!
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