三十二話 確任
「水無月隊が第一次警戒線を突破した模様!」
「すげぇ!!」
「やっぱり水無月五千人将は強いな」
「流石だ!!」
「次は俺達だ。俺達の手で戦果を挙げるぞ」
「……はい」
綾波は水無月隊の活躍には興味を示さず、ただ冷酷と告げた。
「お前ら、他の隊が戦果を挙げた話をするのであれば、自分がどうやってこの隊に貢献することができるかでも考えていたらどうだ?」
「そんな言い方…」
「間違えているか?」
「それは…」
綾波隊は二度戦いに参戦しているが、未だに戦果を挙げたことは無かった。
今度こそ…今度こそ戦果を挙げて見せる。この俺の力で…
「水無月隊がやってくれたみたいだぞ!」
「うぉぉぉー!!!!」
「ならば俺達の役目を再確認するぞ!俺達はあいつらが確実に先に進めるように戦うんだ!逃げるんじゃねぇぞ!」
「「勿論だぁ!!」」
水無月隊の成功は明らかに戦意の向上に繋がり、全体に伝染していった。
そしてそれは次に活躍する役目を持つ五月雨隊に最も伝染することになった。
「そろそろ第二次警戒線に突入します!」
「お前ら、覚悟しろよ!さっきは一人の犠牲も無しで進むことができた!次からは確実に仲間が死ぬ。その覚悟を決めろ!その数を減らす為に考えて行動しろ!」
「「了解!!」」
最初の作戦を成功させた自信がつき、戦意も士気も最高潮の水無月隊だった。
「目標捕捉!」
「突破されたか。ならばおおよそ七百人は減りましたな」
「なぁ〜に、俺達の手でそれ以上葬り去ればいいでしょう」
「殺したい放題やり尽くしましょう!」
「そうだな!!」
「ブイング隊、出撃だ!!!」
「はい!!」
水無月隊を補足したブイング隊は、馬を走らせた。
勿論水無月隊も前から迫ってくるブイング隊の事は気づいていた。
「ブイング隊か……来たな」
あの後ろで偉そうな態度をとって指示を飛ばしているのがブイングか。あの野郎が五月雨の心に未だに傷を残しているのか…五月雨の剣で死ね。
水無月はあの夜の話を酔いながらも盗み聞きしていた。
「よし!!けち…」
「隊長!下がってください!馬と馬の衝突で傷つくのは私達の仕事です」
「おい!それはお前らの死の確率が上がるんだぞ!俺が先頭を切り開いてあいつらの先頭を斬り飛ばすこ……」
「それはダメです。ブイング隊は強いです。あの隊だけで戦況をひっくり返された『天道』という悲惨な戦場があったということを、柊将軍に俺達は聞かされましたよね」
「それは…」
「一筋縄ではいきません。もしいきなり貴方が死んだらこの隊は誰が仕切るんですか?」
「それなら副長の……」
「無理です。俺は貴方みたいに戦意を上げられません」
「そんな……」
水無月の冷酷に慣れない部分の弱さが現れ始めた。
「隊長、任せてくださいよ」
しかし、彼はもう五千人将になった男だ。どんなに苦しい思いをしたとしてもその選択を取れるようにはなっていた。
「分かった。俺は一時的に後ろに下がる。だが命令だ!死ぬなよ!」
何が命令だ…前に行かせれば死を決意させるものと同じじゃないか!!
「はい!」
俺に能力があれば……もっと犠牲を減らせたのに!!!
水無月は自分の弱さに惨めさを感じつつ、馬の速度を一度弱め、後ろへ後退した。
「さぁ、やるぞ!水無月隊の根性見せつけてやる!」
「遂に水無月隊とブイング隊が衝突するぞ!」
遠くからでも砂煙と小さい人影が確認できた。
「俺達は水無月隊とブイング隊が衝突次第、突っ走って横を襲うぞ!誰一人諦めるな!死ぬ時まで剣を握って振り続けろ」
「分かっていますよ!そうやって俺達は戦死者から受け継いで来たんですから!」
「そうだな。俺達は一人じゃない。死んだ分のやつらの想いも背負っている。蹴散らすぞ!」
「「了解!!!」」
銃とかを用意できなかったのはキツイな。だが……この士気なら!
五月雨隊は水無月隊を遠くから見送った。
遂に始まるな。
“あぁ、そうだな"
破宮達は右の森に隠れ、敵の動きを見ていた。
第一次警戒線は容易に突破できたが、第二次警戒線を突破するには、水無月達よりも五月雨さん達にかかっている。
“残念だが、綾波にもだ”
なんであんな奴を……
“仕方無いことだろ。諦めるしかないって前に言っただろ”
分かっているけどさ…
“それよりも何処で突入するのかは決まっているのか?”
俺の自由選択だ。だから俺は五月雨さんがブイング隊を右に完全に寄せてから突入するつもりだ。
“本当に実行するのか?”
そうするしかない。五月雨さん達の為にもな…
“もう少し自分を大切にするべきだぞ…”
心配してくれてありがとな!でも俺は葉宮を救えなかった時点で人としての価値を失ったって自分で思っているんだよ。人でも無い俺の身を大切にする必要は無い。それならば誰か他の人の為に使いたいんだ。吸血鬼としてな…
“その優しさを利用されないようにな”
「うぉぉぉー!!!!!!」
「らぁ!!!!」
両隊の叫び声が響き渡った。
耳が痛いな。凄い声だ…
“大丈夫なのか?”
あぁ、これから皆は自分の命を懸けて戦うんだ。俺みたいに何度も再生できないのに…それを恐れずに…
“やけに今日は冷めたことを言っているな”
時雨にも言われた。これから人を殺し続けると思うと少しな…
“それも受け入れて成長するしかないだろう”
なんか最近お前、父親みたいだな。
“ち、父親?”
父親っていうのが本当はどんなものかなんて勿論分からないけどな…
“変なこと言うなよ”
本の中では…主人公の父親がそんな奴だったんだ。
“本と現実は違うぞ。現実はもっと汚いさ…穢れている”
そうだな。獄のおかげで少し落ち着いた。ごめんな、覚悟を決めたはずなのに…
“すぐ意志なんてぶれるものさ…それを保てることができるやつなんて”
自分のやることをもう一度確認できた。俺は一人じゃない。陽炎団や柊さん達が付いているんだ…自分の与えられた任務を確認出来たんだ。俺はそれを冷淡に実行するだけだ…
破宮は自分に暗示をかけ、自分を再構築していった。
水無月隊とブイング隊は遂に衝突した。
「うおっ!!」
「がぁああああ!!」
水無月達の予想通り、互いに速度を緩めなかった両隊の先頭を走る騎馬隊は衝突の衝撃で吹き飛んだ。
その際にも止まらずに突き進んだ両隊は、吹き飛ばされて地面に叩きつけられた者達を踏み潰していった。
ガキゴキガキキ
骨が馬に踏み潰される音が響き渡っていった。
だから…だから!!
「死ぬなって言っただろうが!!!」
水無月は怒りに身を任せ、前へ向かった。
「隊長が通るぞ!!」
「分かっている!!道を開けるんだ!」
「一時的に開いた空間は俺が補う!
水無月の指示を聞かずとも隊員達は道を開け、その援護も行った。
そしてそこを水無月は駆け抜けた。
「あいつを狙うぞ!!!」
「おう!」
「ちっ!!抜けられたか。隊長、そっちに来ますよ!」
「……」
水無月は下を向いていた。そこには自分に下がるように進言した男達の踏み潰されてしんでいる姿があった。
普通ならこれが無謀に散った愚か者に見えるんだろうな…だけど俺にはお前らほどの英雄は知らない!!お前ら…力を貸せよ!!!!お前らの分まで俺が戦って、俺が殺してやるよ。
「うあぁっあぁ!!!!」
水無月は考えもせず、ただ感情を露わにして矛を振るった。
「がひゅっ!」
「ごっ!!」
自分を狙ってきた二人の身体を真っ二つにして、水無月は更に前へ突き進んだ。
「隊長が前に居るんだ…俺達も奮起しろ!」
そしてその姿を見て奮起した隊員達は、水無月の背を追った。
現状報告
柊隊 死者数 約三十人
クラベス隊 死者数 約百五十人 投降者 約六百人
読んで頂きありがとうございます!
今回の話で遂に水無月隊とブイング隊が衝突しました。長かったの一言に尽きます!
作者でもこんな状況ですから、読者の皆様には想像するのが困難な場面があると思います。そんなことが無いように書くことができるように努力していきますので、これからもよろしくお願いします!
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