二十九話 改竄
五月雨の名前が一番になっています。
仮面の男は剣を引き抜き、一番の喉元に押し付けた。
こいつさっきブイングって言われていたよな…今そんなこと確認しても遅いけどな。
「皆殺しにしろ」
「嫌だよ!」
「なら死ね」
ブイングは喉元に押し付けた剣を握る手に力を入れた。
死にたく無い。でも皆殺しをするくらいなら……死にたい。
一番は自分の死を覚悟した。
「あぁぁぁぁぁ!!!」
「チッ!まだ生きていたか」
しかし十番の剣を防ぐためにブイングは一番の首から剣を離し、
「十番!動けるなら逃げろ!!俺なんて良いから」
「良いの!だって貴方は賢の弟でしょう?貴方を守れるなら私は…それで充分!!!」
「そんな……」
「早く行って!!」
一番は、逃げるかここで共に戦うか決められなかった。
「二対一を望むのか。随分と舐められましたね、クラベス様」
「……」
「十番良くやった。時間稼ぎご苦労さま!間に合ったな、五番」
「そうだな」
「四番、五番!」
「お前は早く逃げろ。そして残りの奴らを守ってやってくれ」
「わ、分かった!!必ず戻れよ!」
「あぁ!さっさと終わらせるから飯用意しとけ」
大丈夫だ!これで皆助かる。
一番はその言葉を聞き、走り出した。
「なぁ五番」
「ん?」
「巻き込んですまねぇな」
「構わないさ。死ぬ時は一緒って『義兄弟の契り』を交わしただろ?」
「こんなところで死ぬことになるとはな」
四番は笑った。
「笑い事じゃ無いだろ。まぁ、賢を救えれば良い」
「それができれば最高だ!!」
一番は拠点としている家に飛び込んだ。
「二番、三番!」
「三番はさっき七番を呼びに行った!それよりも六番と八番と九番が何処にいるか分からない!」
「皆……」
「私達には信じる事しかできないさ」
「そうだな。俺!一応の為に武器を用意してくるよ!二番のも用意するよ!」
「ありがとう、一番。私も用意するよ」
一番は、家を飛び出し自分のテントへ向かった。
「貴方だけは生き残らせてみせる。賢の弟なんだから…」
「弓に大蛇の毒塗りの矢と!これで準備バッチリだ!」
ドカッ!
「帰ってきた!賢、四番、五番、十番!!」
五月雨はテントを飛び出した。
「残念でした」
「え……嘘だ」
そこに立っていたのはクラベスとブイングだった。
「信じられないか?一番。信じられないよな?ならよ!」
ブイングは何かを投げ飛ばしてきた。
「え……?」
一番は理解するのに時間がかかった。その事実は変わらないのに。
「あぁぁぁぁぁ!!!なんでっ!なんでなんでなんでっ!!!!!」
投げ飛ばしてきたのは四番と五番の頭だった。
「サッカーボールみたいに扱おうと思ったんだけどな。くら…」
「あぁあ!!!!」
嘘だ。嘘、嘘、嘘に決まっている。嘘じゃなきゃいけないんだ。嘘だ。
でもじゃなんでこれはこんなに重いんだ?ナンデこれはこんなに温もりが残っているんだ?ナンデコレハこんなに知った顔なんだ?ナンデコレハコンナニ…
「ぐっ…うえっ……」
そうだ。これは事実なんだ。本当なんだ。嘘じゃないんだ。俺のせい…俺のせいだ!!俺があそこで戦わなかったから…
「吐き散らかすなよ!後なちゃんと十番は…」
「生きてるのか…」
「バラバラにしてきたぜ」
これも事実か…もうなんなんだぁ!!!!
「オメェラ……お前らぁ!!!!」
一番は剣を引き抜き、ブイングに向かって飛びかかった。
「死ねっ!死ね死ね死ねっ!お前なんか死ねっ!!」
ただ自分の中に溢れ出る憎しみと怒りを叩き込もうとした。しかしそれは叶わなかった。
クラベスが一番の剣を受け止めたのだ。
キィンッ!バキンッ!!
そしてそのまま一番の剣をへし折った。
「どう…やった?!!」
一番は剣を折られた事で前のめりに体勢を崩していた。
「こっちにも気づきやがれ!」
「あぶっ…」
一番はブイングの蹴りを食らい吹き飛んだ。
「がっ…」
今転がった時に紐が切れて、矢が転げ落ちた!来い!来いっ!!!!こいつだけは殺すんだ。殺すのが俺の生きる意味だ
「ねんごろする暇あったら賢についてでも聞きますかね」
ブイングは一番の頭を掴むため、右手を伸ばした。
今だっ!!
一番は隠し持った矢をブイングの右手に突き刺した。
「あががぁががごあっっ!!!」
「クソ食らえだ……がふっ!」
ブイングは即座に一番の足を蹴り飛ばし、倒れ込ませた。そしてそのままい踏んだ。
「調子に乗ってクソが!クソがっ!このゴミが!!賢に支えらればっかりの野郎が!調子に乗るな!!」
「お前……いったい誰なんだ」
「あ?」
一番はへし折れた剣をブイングの顔に叩き込んだ。
「その仮面の中身を見せろ!」
「そんな……!!」
毒がちょうど回って抵抗できないはずだ!
一番の予想は当たり、ブイングは動くことができずに一番の攻撃を食らった。
「がっ!」
「嘘だろ?また嘘だ!!全部これは嘘だよ!嘘嘘!!夢だ夢!!もうそれでいいよ!!」
五月雨は錯乱した。それも無理は無い。
仮面を剥いだブイングの正体は七番だったのだから。
「なんで、なんで?なな…がっ!」
「余計な事言うなよ」
ブイングは一番の耳元で囁いた。
この時一番は気づいていなかったが、ブイングに叩き込んだ剣はへし折れていたせいで、ブイングの仮面を叩き割ることしかできていなかった。
「クラベス様にはバレていないんだ。今バレたら面倒なんだよ!」
「嘘だよな?」
「本当だよ。ここにいても良いことはなかった。人生を無駄にした」
「あんなに皆優しかったのに……なんでだ……」
「うるせぇな。そろそろ死ね」
その言葉と同時にブイングは一番の腹に剣を突き刺した。
「あぁぁぁぁぁっうぁぁっぁ!」
それと同時にブイングは立ち上がり、一番から剣を引き抜き、投げ飛ばした。
あ……あの注射針は血清だ…そうか……大蛇退治のために仲間は、皆持ってなきゃいけないもんな。
ドサッ
感覚が薄れてくよ……兄貴……皆……
一番は涙を流していた。
皆ともっと居たかったよ。
「おい一番!!一番!!!」
「え……二番?」
「良かった!動くなよ!」
「まだ生きてたのか?じゃあもう一回俺が……」
「やめろ、ブイング。俺が行く」
「なん…分かりました、クラベス様」
ブイングは悔しそうに答えた。
「お前があの少年を殺したせいであの女から情報を得なければならなくなった。お前は隊に戻れ」
「はい」
「後、これ以上誰も殺すな」
「はい」
クラベスは二番の元へ向かった。
クラベスが二番の方へ行ったことを確認次第、ブイングは走り出した。
ちくしょう…七番のやろう…逃げていきやがった。何するんだ…
「おい、女」
「………」
何か言ってんのに何も聞こえない…どうしたんだ…いたい…な……
「どう思った?」
女は五月雨に問いかけていた。
「気絶していても声は聞こえるでしょ?私のお陰でね。惨めでしょう。人に助けられてばっかりで。そんなんで生き残って、恥ずかしく無いの?」
五月雨の身体が少しだけ動いた。
「恥ずかしいわよね。なら皆と一緒になりしょうね。死にましょう。貴方の様な無価値は死んでも」
「……う…っせ…え……んだよ!!」
五月雨は女に不意打ちで飛びかかり、首を絞めた。
「もう動けたのね。でも言ったわよね」
五月雨は再度心臓を鷲掴みされる感覚を味わり、首を絞める力が弱まっていった。
「お前が身体の指揮権……奪えても……ここは!俺の意識間だ!汚物が入り込んでんじゃねぇ!!!!」
五月雨は剣を引き抜いた。
「剣はさっきなかったはず…まさか貴方…」
そしてそれと同時に女の喉元に剣を刺した。
「がふっ…ごふぅ…」
その瞬間五月雨の心臓を鷲掴みにするような感覚が消え失せた。
「さっきは力入んなかったからな……苦しいよな?今楽にしてやるよ」
五月雨は喉元に刺していた剣をさらに強く押し込んだ。
その剣は喉元を引き裂き、脊椎を砕き、貫いた。
「確かにあの時から俺は負け犬だ。だが俺は柊や葉宮、水無月、破宮に出会って覚悟はできた。俺が今生きている理由は、あいつらの仇を討つ事だ。仇を討つまではどんなに惨めになろうとも死ねないんだ」
殺した女は、血を流すこともなく消滅した。
「お前みたいな奴が俺の思い出を改竄しようとするなよ。俺の大切な日々を」
痛いじゃないの…
「やはり初めての干渉じゃ相手を強く縛れないわね。自殺を私が操ってさせることができないから過去を利用して、精神を挫こうとしたのに!それをもろともせずに自分の意識間を利用して剣を召還するなんて、厄介な奴ね。まぁ、私の身体だったら強制的に自殺させられたのに!!やっぱり不便な身体!全くなんでなのかしら…ね」
そこでさっきまで続いていた悠長な独り言は突然途切れた。
「今回は……ここまでか。別個体に情報は渡せたから……充分ね」
次はいつかしらね…
読んで頂きありがとうございます!!
今回の話では、過去を乗り越え、覚悟を決めた五月雨の話を書いています!!そして覚悟決めた五月雨は…
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