二十八話 未熟
今回の話では、五月雨の記憶の中での会話には「」、五月雨が破宮達に話している言葉や破宮の言葉には「」を使わずに行っています。
また、このやり方は
「……」
今まで…の部分で終わりになります。
複雑ですが、ご了承ください。
「兄貴!昨日の行商が置いていった食料は?」
俺達は団を組んでいた。訳も分からず、団というものがなにかも知らずに。
「関門の警備は終わったのか?」
「あぁ、もう関門を閉めた。だから俺は帰ってきたんだ。で、食料は?」
俺達がやっていたことは、街の護衛と関門の警備だった。関門の警備をする事で、関門を通る行商達からその関門の通行費として、金では無く、食料を受け取っていた。そしてその関門の警備を街の人に認めて貰うための条件に街を襲う大蛇の撃退から殺害までを承り、街の護衛を行っていた。
「さっき十番が加工してくれたぞ」
「そうか、あいつの美味いからな!あとさ!まだ盗賊団とかバケモン出てない?」
「あぁ、出てないぞ。そしてお前…」
「ん?」
「アレは化物ではなく大蛇だっていつになったら覚えるんだ」
「タイジャって言いにくいんだよ」
俺達は奴隷だった。休みなど与えられる訳もなく、食料もろくに支給されない日々を過ごしていた。それどころか、俺達をストレスのはけ口として扱い、殴る蹴るの暴行を受けることもあった。もしかしたら二番とかは…いやこれはいいか。
「賢、帰ったぞ!」
「おかえり、七番」
「そろそろ晩飯にするよ」
「そうか、今日もありがとな二番」
「どういたしまして」
「おい皆!飯の時間だぞ」
「「はーい!!」」
しかし俺達を奴隷として買っていた男が殺された。そして俺達は縛り付けていた男から、その場所から逃げた。
誰が殺したんですか?
それは分からない。兄貴しか知らなかった。結局兄貴も教えてくれずに死んじまったしな。
「やっぱり早いな。飯だけには皆反応がいいんだよな」
「二番と三番、十番が作る飯が美味いからな。お前も好きだろ?」
「おう!」
皆別々なことをしていたけどな。夕飯になると集まって、馬鹿みたいにはしゃぎながら夕飯を食べていた。それだけで辛いことなんか吹き飛んでいった。
「お前らもしっかり名前を付けなきゃな。頑張って勉強するから待っていてくれよ!」
「いいよ別に」
「賢が無茶して考える位なら要らない」
「四番、五番、ありがとな」
夕飯のたびに兄貴は俺達に名前を付けようと考えていることを俺達に話していた。でも勉強なんてさせてもらえないで働き詰めだった俺達には文章の意味を理解するどころか、文字の書き方も読み方も分からなかった。
「早く考えないとな」
今考えればこの番号呼びは、奴隷時代の象徴だと兄貴は考えていたんだな。だから名を付けて、それを払拭しようと。
幸せだったんですね。
あぁ、お前達の陽炎団みたいにしっかりしたものでは無かったけれどな。
「寝付けない、一緒に寝て」
「またか二番」
「うん。また……」
「泣くな、泣くな。ほら落ち着け。一緒に寝ような!」
「うん」
兄貴は皆から好かれ、皆を好いていた。でも、そんな幸せは続く事なんてなかった。
「賢がぁっ!!!賢があっ!!」
「え?」
「私を……私を助けて……捕まったの」
「十番!あまり自分を責める……わっ!!」
「ごめんなさい……ごめんなさい」
「おい……お前血が、血が出てるじゃないか!」
「ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさい」
「もう喋んなよ!!誰か止血してくれ!!」
まず兄貴が十番を庇って捕まった。そしてここまで逃げてきた十番の腹にも剣を突き刺された跡があった。
「誰かっ!誰かぁっー!!」
「どうした……嘘…だろ?」
「嘘じゃ無いだろ!!」
「今、二番呼んでくる」
「あぁ」
「これ使え!」
「布?何で?今は…」
「まず涙を拭け!拭き終わったらすぐにその傷跡の部分を強く押さえとけ!」
「ぁぁ……ありがとう四番」
十番に止血を行うことができる二番を呼ぶ為に四番は駆け出していった。
「おい!見つけたぞ!!」
「え?」
「言った通りでしょう、クラベスさん」
「……」
「お前ら!そこに居るんだろ」
二人にここまで非道な事をしたのは、ブイングだった。
「おい!聞こえねぇのか?」
「俺が行く」
「いや!俺がやりますよ!」
「えっ?!うぁっ!!」
多分あれはブイングの召喚獣だったんだろう。俺達二人は急に正面に現れた水の蛇に襲われた。
「……」
今まで変わらずに話していた五月雨さんが急に黙り込んだ…?
“嫌な予感しないか”
あぁ!!!
「五月雨さん……五月雨さん!!」
「やはり駄目だったか…」
「え?」
「さっき俺は過去に囚われるなって言っただろ。これは五月雨がそうだからだ」
「そんな…あんなに強そうなのに?」
五月雨は立ち上がった。
「ただ強く振る舞っているだけだ。自分を否定するために。この時に五月雨は俺達に襲いかかってくる事は無い。だが、自分の命を絶とうとするぞ」
「柊さんは経験が?」
「あぁ、一度だけ。最初にあいつにこの話を聞いたときになった。そのときはあいつは自分の手で、喉を掻き毟ろうとしたり、自分の眼をつぶしたり、骨を砕こうとしだした」
「ならば俺は五月雨さんの動きを止めます!柊さんは『雹』で俺ごと…」
「将軍にもなった俺に命令か!面白い!」
「突発的に言いました。すいません……」
「いや構わないさ。上に言われる時に比べて、不快感が無い。それどころ嬉しさを感じるくらいだ!!!よし!やるぞ!」
「はいっ!!!」
あれっ…俺はさっきまで柊と破宮に俺の過去を話していたんじゃなかったっけ?まさか夢だったのかな。今でも覚えているよ……自分の弱さも未熟さも…
「やっぱりいたな」
「兄貴ッ!!」
賢は、仮面をつけた男に髪を掴まれ、引きずられていた。
なんだこの二人!片方は変な仮面つけやがって!どうする?どうすればこの状況を打破できる!!
「お前、こいつの弟か?」
「そうだよ!!何か文句でもあるか?!」
「兄の事を救いたいだろ?」
「当たり前だろ!」
「なら」
俺はこの時に答えを先に理解していたんだ。それを気付かないふりして、否定しようとしたんだ。逃げようとしたんだ。
「仲間を皆殺しにしろ」
「え?」
「分かってないみたいですね、仕方無いなぁ」
ブイングは五月雨の元へ近づいた。
「ここで、ここで腰に差している剣を手に取って斬れれば……動けよ!動いてくれよ俺の手!!!」
「貴方、何を考えてるの?」
なんだ!後ろか!剣、剣はどこだ!!無い、無いぞ!!
剣が無いことを判断した五月雨は、後ろを振り向いてから襲いかかろうとした。
「せっかく私が貴方のこの世界に入ったのよ。わざわざよ!」
誰だこの女……知り合いでは無い。それでもって今まで殺した敵の顔でもない。ならば怨念の類ではない。
「どういうことだ」
「少し静かにしていなさい」
「がはっ!なんだっ!」
五月雨の胃に激痛が走った。
胃らへんを破裂させられた感覚があった。なのになぜ吐血しない!吐血しないのに激痛が走る?!
「俺の過去を利用し、『世界に入った』って事は、がふっ……俺の世界、いや俺の意識間じゃ無いのか?!」
「単純な事よ。私が強いそれだけ。貴方が皆を救えなかったようにね」
「このクソ…野郎がっ!」
「もう忘れたの?」
更に五月雨は心臓を鷲掴みにされる感覚を味わった。
「がっ……ぐふっ」
「苦しいでしょう?でも殺せない。貴方には役割があるもの」
役……割?ダメだ…意識が……
「気絶したわね。ならこれから貴方の意識は過去に戻りまぁ~す!!ばいばい!!自殺の意思を強固たるものにしてね!ってダメじゃない意識も改竄して、選択しやすくしないとね!」
読んで頂きありがとうございます!
今回の話では、柊に出会う前の五月雨の過去に触れていきました。ここで出てきた謎の女の正体はこの後、話し合いになります。
次回は更に暗い話になりますが読んで頂ければ幸いです!!
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