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拒絶された世界の中で  作者: ヒグラシ
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二十七話 酒宴

 

 もう三十分は飲んでいるかな。

「はみやぁ!『とうえい』見せてくれよぉ〜」

「水無月はやっぱりそこまで酒に強くなってないだろ!!亮達と飲んでいた時と一緒で暴れるなよ」

「水無月、だらしないぞ」

「破宮、無視が一番だ」

 五月雨と修一の警告などは耳にも入らず、水無月は希少な能力である「投影」を見たがっていた。

「分かったよ。水無月、『投影』を見せてやる」

 柊さんと五月雨さんにも少し能力の解説もしたいしな。

「やったぜ!」

 破宮はそう言うとすぐに剣を自分の手元に造り出した。

「すげぇ!」

「血が無いと…駄目なんじゃないのか?」

「勿論そうです」

 修一の問いに答え、破宮は自分の指を噛んだ。

 そして噛んだことで微量に垂れた血を利用し、剣を造り出した。

「もういっかいみせてくれるのか?!」

 水無月は目を輝かせながら叫んだ

「二人共この剣の硬度を比べて下さい。叩きつけたりして」

「五月雨、そっちの剣を持て」

「おう」

 五月雨は、破宮が自分の血を用いて造り出した剣を手に取った。

「で、これを同時に」

「そうだ」

 修一の手にも破宮が何も無しに造り出した剣が握られていた。

「三、二、一…!!」

 そして合図と共に五月雨と修一は剣を互いにぶつけ合った。

 パキキキキッッツ!バキンッ!

 血を使わずに造り出した剣は、ぶつかり合って二秒ほどでへし折れて、剣の中央部分から剣先までが吹き飛んだ。

「血は使わないでも剣を造り出すことができても、硬度が足りないということか」

「その通りです」

 そして破宮は、自分の愛刀「壊」を取り出した。

「俺の能力『投影』は、集中力を保つ事ができる状態ならその空間の血を凝縮して、剣を造り出す事もできます。この剣は、千人程度を殺し終えた際に造り出しました」

 “お前も慣れてしまったな”

 そうだな。簡単に人を殺したことを話せるようになった。これからろくな死に方はしないだろうな。

「俺の『滋』と比べてもいいか」

「勿論ですよ。どうぞ」

 破宮は「壊」を五月雨に手渡した。

 それと同時に五月雨は三人から距離を取った。

「そしてこんなこともできますよ」

 破宮は一呼吸置き、呪言を唱えた。

「希望、絶望。歓喜、悲哀。支配、喪失。欲望渦巻き、敗れる世界の中。理想に生き、破れ散り逝ったものよ。拒絶された思い。我の手で解き放たれよ」

「呪言か。随分長いな」

「折れた剣を渡してもらってもいいですか」

「あぁ」

 修一は破宮にへし折れた剣を渡した。

「支配を解く。自由となれ」

 その瞬間、剣が消えた。

「どうやったんだ?」

「呪言を使った時のみ造り出した剣を消滅させることができます」

「呪言内での解除か。凄いな」

「柊さん、残った方を渡してもらってもいいですか?」

「これか」

 キュィィイイィイン!!

 なんだこの音。

 “さぁ、俺には聞こえないが”

 ならいいか。

「ありがとうございます。少し血の匂いしますけど大丈夫ですか?」

「勿論。もう呼吸する時には血の匂いが混じってるのが当たり前だからな」

「そうでしたね」

 破宮は笑った。

 確かに柊さんの言うとおりだな。

 “血みどろだもんな”

 仕方ないで済ませるしかない自分の力の無さに呆れるけどな。

さん

 そして再度、剣は消滅した。

「うん、確かに血の匂いがするな。剣を消すときにその際に使った血は空気中に分散するってわけか」

「よく分かりますね…その通りです。更にこの空気中に分散した血を利用すればさっきと同じ硬度の剣が造り出せます」

「面白いな。さっきの消すときの呼び方を変えたのは何故なんだ?」

「今から説明しようとしたんですけどね…」

「それはすまない」

「まぁ分かっているなら説明は楽です。『支配を解く。自由となれ』を使うと完全に剣は消滅します。しかし『散』を使えば、剣は消滅しますが、血が空気中に分散され、再度剣を造り出すことができます」

「血を使わずに造り出したら『支配を解く。自由となれ』、血を使ったら『散』ってところか」

「まぁ、そうですね。血で造り出した剣も完全の消滅させることもありますね」

「なんでだ?」

「以外と消滅させても空気中に残しているとかなり体力と精神面に負担が気付かずにかかるみたいです。この間そのせいで発動できなくなって苦戦を強いられました」

「そうなのか。ところで破宮は両刀持ちを辞めたのか?」

「はい、辞めましたよ」

「あの時以来か?」

「そうですね。あの時までは、手数が戦いで物を言うと思っていました。双刀で、馬鹿みたいに攻撃すれば勝てると思っていました。でもそれは違った。ただ単に相手に恵まれていたただけで、何にも知らなかったんです。それで慈飛に負けて、限界を感じました。まず双刀を扱う程両腕に筋力が無かったんですよ。それより前に気づいていたらな…」

「そうか……破宮」

「はい?」

「過去に拘るな、囚われるな。それは辛いだけだ。過去を変えることは絶対にできない。諦めろとは言わないから…」

「大丈夫ですよ、それは時雨にも言われました」

「そうか。優秀な妹を持てて嬉しいよ」

「本当に優秀ですね。能力も使いこなしていますしね。それに紋章関連や再生についてもいろいろ教えてもらっています」

「やはりあの紋章は『結晶化』のだったのか?」

「そうでした」

「そいつは良かった」

 そしてそれと同時に柊は盃に入っていた酒を飲み干した。

 時雨も幸せそうで何よりだなという気持ちが柊を喜ばしていた。

「そうだ破宮、お前時雨ともう付き合っているのか?」

「ゴフッ……いや付き合っていませんけど」

 やはり…聞かれるか。

 “そりゃあそうだな”

「はみやぁ!!」

 焦る破宮のもとに酒に酔っている水無月が飛びかかってきた。

「うおっ?!」

 “酒に酔った水無月が助け舟になるとはな”

 あぁ、そうだな。

「もう寝ろ」

 柊は水無月を掴み、言った。

「ねるぅぅー!」

「この様子なら五月雨さんもかなり疲れますね」

「まぁ俺も最近忙しくて一緒に飲めなかったから、五月雨も酒を一緒に飲む相手がいて喜んでいるからイーブンでいいだろ」

「破宮!この剣凄いな!!」

「え?」

「俺の『滋』と同じか、それ以上の硬度だ!」

「柊一族の造った剣を超えるか」

「どうやって調べたんですか?」

「反響音かな」

「なんですか?」

「俺達柊一族が開発したみたいでな。特殊な鉄片を剣にぶつけると異常な音がするんだ」

「さっきの音ですか?」

「お前、聞こえたのか?」

「一応」

「不快に思う人が多いから距離を取って調べたんだが聞こえてたか。それはすまなかったな」

「いや別に大丈夫ですよ。それよりさらに詳しく教えてください」

「そうか。普通剣と剣がぶつかり合った場合、へし折れるかキーンと音がして拮抗するよな」

「そうですね」

「だけどこの鉄片をぶつけた場合は、キュィインって音がする」

「ほう」

「それで硬度が高いなら大きな音が出る。小さいなら音などはならない」

「それでさっき大きな音がしたと」

「あぁ、その通りだ。最初から硬度はあると思って、一緒に確かめた時にお前の『壊』と俺の『滋』が同じほどの大きさが出たってわけだ」

「なるほど。その鉄片は一体なんですか」

「全くだよ。柊、本当にこれはなんなんだよ」

「分からない。俺だっていきなり渡されたんだからな」

「そうですか…」

「それにしても恐ろしい能力だな。Sランクの特殊能力としてふさわしいな」

「それは柊さんも一緒じゃないですか」

「あの能力は俺だけの力じゃ無い。『雷鳴』の命を使って生み出した」

「でも『雷鳴』と血印を結んで一体化するって言って、柊一族困らせていたんだよ。あの時俺にまで皆が責め立ててきたんだぜ…」

「五月雨、まだあれに根を持ってるのか?」

「まぁ、わざわざ三回しか結べない血印をこれから一体化するものに使うのには無駄だと思って、俺自身も驚いたよ。でもそれを俺は尊敬しているけどな」

「あいつらと意見が一致する事は無いな。俺はあいつらみたいに命を簡単に扱えない」

「それが柊さんのいいところだと思います」

「おい五月雨、いつまで話を逸らすつもりだ?さっきから露骨だったぞ。破宮の剣に急に興味を持ったフリしたり、わざわざげ……」

「バレていたか」

「あぁ、わざわざ水無月の事も酔わせて、潰したんだ。破宮に話すって言っただろ」

「じゃあその前にもう一回酒を飲まないか?酒を飲みながらじゃないと話すにも聞くにも耐えない話だからな」

「やはりお前、水無月の盃だけ大きいのをわざと用意したな」

「あいつに聞かせたら感情的に動いて、戦場で自分を危険にさらす事間違いないからな。逆に柊は、わざわざ強い酒を用意していたな」

「……似た者同士ですね」

 破宮がそう言うと二人は一緒に笑い出した。

「似た者同士か……」

「そうだな」

「違う世界で育ってきた俺達がか」

「戦争での唯一のいいところかな。 生きてきた世界が違っても似た者同士に出会うことができるというとのは」

「よし、じゃあもう一度飲み交わそう」

 三人は再度座り、盃に酒を加えた。

「では、乾杯」

 それと同時に三人は酒を口に含んだ。

「やっぱり美味いですね」

「酒を破宮がこんなに飲むとは思わなかった」

「柊さんこそ」

「じゃあ…聞いてもらうか」

「あぁ…」

「勿論」

「俺は、皆に出会う前は俺の兄と一緒に団を組んでいた。破宮……お前みたいにな。そしてそこで皆で貧しい中でも楽しく生きていた」


読んで頂きありがとうございます!


今回は、破宮達のつかの間の休憩の時間を書きました。破宮の「投影」の解説も少し追加しました。鉄片はこの後ほぼ出てきません。

次回は五月雨の悲しい過去を書くため、少し話が重くなりそうです。


感想、質問、誤字脱字などの指摘をお待ちしています!!


twitterにて、この作品の新規設定(とてもくだらないような情報からこの後の話に関わってくる情報までたくさんあります)を一日一個公開しています。見て頂ければ幸いです。

URL:twitter.com/higu_kaiを入力する。

もしくは@higu_kaiで検索して頂ければ多分出ます。

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