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拒絶された世界の中で  作者: ヒグラシ
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二十六話 会議

 

「相変わらず元気そうだな」

「そうだな」

 破宮と水無月は握手を交わした。

「二人共作戦会議を始める前にそういうのは避けてくれ。気が散る。早く入れ」

「誰だ?」

「この状況だからしっかりと隊を組める状態じゃなくてな…百人隊の隊長を変えずに隊を十隊集めて、千人隊にしているんだ。そこをまとめている千人将の綾波あやなみしょうだ」

「そうなのか。それよりも隊長の呼び方変わったのか」

「あぁ、○○人隊隊長っていうのを短縮するために将軍っていう階級を導入した際に○○人将って言うようになった」

「静かにしてくれって言っ…」

「分かったから」

 水無月は、綾波を止め、テントの中に入った。

「まぁ一族の力だけで千人隊の隊長に一応任命されている奴さ」

 そして水無月は誰にも聞こえないような小声で呟いた。

 やっぱり一族の力は強いのか。

 しかし破宮にははっきりと聞こえていた。

「今から『合同攻略作戦』の最終作戦会議を始める!」

挿絵(By みてみん)

 “俺達の前の机の上に置いてある紙は、補給部隊などの支援部隊の配置か。詳しく書かれているな。”

 そうだな。しかもあえて相手から見えにくい地形を利用している。そうじゃないとこんな大胆な配置はできないな。

 “やはりお前の言うように柊は凄いな”

 そうだろ!それより柊さんは凄い出世だな。今じゃ将軍か。雰囲気が違う。

「今回は最後の確認を行う」

「いきなりだがすまない、柊」

「陽炎、どうした?」

「少し地形を磯風に調べさせたんだ。その時に俺の『蜃気楼』が、最大限に生かせるのは左側より右側の方が良いことが分かった。雨が多いこの地域で、水たまりがあると効果をさらに強められる」

「なるほど。能力の効果を上げるのか。ならば右側に隊を固めて、なるべく右側に敵が寄れないようにしよう」

「助かる」

 右側自体を占領するのか。随分と大胆な作戦だな。こっちとあっちの人数差を先に陽炎に聞いとけば良かったな。

「じゃあ俺は左側に居ますね」

「またサボりですか?」

「綾波…それは酷いぞ?」

 綾波ってまさか本当にコネだけか?!五月雨さんはあえて左側に残るのにそれをサボり?“これは酷いな。五月雨の判断でこの戦況が大きく変わるというのにな”

「すまないな。五月雨は左側に移ってくれ。水無月隊、綾波隊の攻撃が止まった際に助攻に回ってくれ。水無月は変わらずに右側に隊を保っていてくれ」

「了解。あいつらの横っ腹に襲いかかればいいんだな」

「了解しました」

「後はなにかあるか?」

 修一は一度確認を取った。

「無いようだな…では最終確認だ。明日の朝から昼過ぎにかけ、陽炎の『蜃気楼』を発動させ、クラベス隊の行動を遅らせる。そしてその間に俺達は距離を詰める」

 今回クラベス隊は「希」の拠点と思われる地域の見張りを交代すると言われている。見張りの交代の隙を狙った機会を利用して襲いかかる以外に手段は無いな。

 これは破宮の独自の見解だった。

「夜は『蜃気楼』を止め、進軍させる。あいつらが隊に着くには、夜の進軍が不可避だ。そして明後日の早朝に再度『蜃気楼」の発動、ここで俺達の中で、水無月隊と綾波隊がクラベス隊を襲う」

 それと同時に柊は、もう一枚紙を机の上に広げた。

挿絵(By みてみん)

「その際に確実にクラベス隊副長のブイングの隊が迎撃に向かってくるだろう。そしてそこに破宮が乱入するわけだな」

「そうだ。破宮、お前の能力『投影』を戦いが過激化した時に使わせてもらう。まず『投影』で剣を造り出し、こちらの隊の剣の補充、そしてそれと同時に剣を飛ばし、敵の戦力を削ってもらう」

 そのために俺は呼ばれたのか。

「分かった。その後俺はどうすればいいんだ。残るべきか?」

「その後戦地を脱退してもらい、陽炎団を追ってもらう。陽炎団には先に『希』へ向かい、見張りを削っていく予定だ。だから破宮、お前もすぐに追いつけるはずだ」

「途中の道に一応百人隊と朝潮達が居るから森の中を迷うこともないだろう」

「そうだな。陽炎、朝潮達も参加させて大丈夫なんだな?」

「させたくはない。しかしあいつらの願いだ」

「そうか。分かった」

「その後、水無月隊の進行が止まったと判断して次第、五月雨隊を向かわせる」

「それは柊の指示でか?それとも俺に判断をゆだねるのか?」

「お前に任せる」

「分かった。なら俺はブイング隊を右側に押し込む。そうすれば右側を占領するつもりで動くのだから、綾波隊の力も借りて、ブイング隊を囲めるはずだ。更に裏は森だ。木々のせいで大勢の撤退はできない」

「その際に俺達は構わずに進軍するってことか」

「水無月隊の後を追うように俺達も隊を前に進軍させる」

「上手くいけば殺せるかもな」

「そいつを殺せればこれからの進行は楽になるな。もし五月雨隊が突破された際に後ろから狙われることは無くなるからな。そうすれば俺達の隊も消耗が無くて済む」

「主力を温存する形か」

「温存できればの話だ。ブイング隊には確実に苦戦をしいられる。水無月隊も五月雨隊も進行を止められる。そこで俺らがなるべく早く行動できれば、あっちの指揮系統に混乱をきたせるだろう」

「それなら柊将軍の隊は移動しなければいいのでは」

 “これは完全な無能だな”

「柊さんの隊が動かないとブイング隊と一時的に衝突し、確実に消耗してしまっている水無月隊がクラベス隊と衝突すれば、苦戦を強いられるのは確実だろ。その時に消耗せずに残っていた柊隊が切り替えとして、出る必要があるだろ」

「だからそれなら距離をつ…」

「そしたら即座の判断はできないだろう?あえて危険を冒すことで水無月隊、そして危険を冒しているはずの柊隊の死者数さえも減らすことができるってわけだ」

「何言ってるんだこいつ…」

 それはないだろ。

 “無能だ”

「まぁ吸血鬼風情が何を言おうが気にする必要はないな。柊将軍、僕は変わらずに水無月隊と共に前進するのを止めるように進言します。そもそも右側を占領する際につぶれ役を買うのは僕で、ブイングの手柄は五月雨五千人将に持っていかれるんでしょう?」

「綾波、今の発言を全て訂正しろ」

「何故ですか?柊将軍、僕が間違えた事でも言いましたか」

「あぁ、間違えた事しか言ってない」

「は?」

 これ本物の屑だな。一族の力で着いた役職に自分の実力で着いたと勘違いしてやがる。

 “小物以下ってところか。よく生き残ってこれたな。普通死んでいるぞ”

 悪運でも強いんじゃないのか。

「まずさっき破宮が言ったことは間違えていない。一人じゃ戦は勝てない。結局は数で戦いは決まる」

 やっぱりこっちの方が人数足りていないのか。

「この時に俺達や破宮の考え通り、なるべく戦える人数は減らさずに戦い抜く必要がある」

「そんなもんいくらでも補充が効くじゃないですか」

「お前は戦況が見えていないのか。今俺達の陣営は、あっちに押されているんだぞ。戦うたびにこっちの方が被害を受けて、状況は酷くなっている。戦える人数だって碌に確保できない。お前のとこに補充が効くのは、一つの隊ではなく、百人隊をひとくくりにせずに自由に行動させているからだ」

「チッ!!」

「次に五月雨の手柄の独占ということだ」

「実際にそうじゃないですか。手柄を独占しているから五千人将になれたんじゃないですか」

「それは違う。お前ちゃんと軍紀を読んでいるのか」

「勿論ですよ。戦う者として当たり前の事じゃないですか」

「じゃあなんでこの当たり前なことが分かっていないんだ」

「え…?」

「昔は手柄の独占があった。しかし今は、手柄を上げた隊が居た場合、その手柄はきちんと分散されている。しかも五月雨や水無月が上げた手柄の分け前を実際に倒していなくてもお前にも、そして俺にもその手柄は振り当てられる」

「しら…忘れていました」

 今更行動を振り返って評価を上げようとして失敗したか。

 “あんなにはなるなよ。なったら俺はお前の中でみじめな気分にならないといけなくなるからな”

 大丈夫だ、心配するな。

「そしてなにより吸血鬼を下に見たことを訂正し、謝罪しろ」

「それは断ります」

「何故だ」

「嫌だからです」

「じゃあ一つ質問させてくれ」

「構いませんよ」

「何をもって吸血鬼を下に見て、差別を行う」

「それは…」

「答えろ」

「その…」

「答えられないのか」

「はい…」

「吸血鬼が俺達より下の身分だとは俺は思わない。いや、思うことができない」

「あんな他者の血を得て、生きる意地汚い生物がですか?」

 あいつ…

 破宮は手元に剣を造り出そうとした。

 こんなやつ殺してしまえば…

 “やめておけ。ここであいつを殺したらお前が悪者になる。結局あいつは怖がっているんだ。お前や陽炎、時雨などの吸血鬼をな。分からない得体の知れない者だから恐れ、遠ざけている奴だ。あんな奴を殺すくらいならお前が活躍して、吸血鬼のイメージを変えろ”

 そうか…そうだな。すまない、助かった。

 “感情的に動くなよ。すぐ死ぬから”

「吸血鬼が他者の血を得て生きる意地汚い生物とするならば、俺達はなんだ?利己的な考えで争いを始め、未だその争いは終わりが見えない。その中で停戦などの考えは出ず、皆殺しを行い、利益の独占を考えている俺達は一体なんなんだ?本当に吸血鬼よりも身分が上だと言い切れるのか?」

「それは…」

「言い切れないだろ。それならあのような発言はするな」

「すみません!体調が悪くなったので、先に会議を抜けてもよろしいでしょうか?」

 逃げたか…

 “それがあいつの答えなんだ。構わないだろ”

「構わない。帰れ」

「はい、失礼します」

 綾波はそう言い残し、テントを出て行った。

「すまない、俺の部下が」

「気にするな。吸血鬼が下に見られていることは、吸血鬼を使って実験をしているということで分かっている」

「陽炎…本当に済まない」

「将軍が簡単にちっぽけな団の吸血鬼に頭を下げるな。俺達は、吸血鬼を人間と同等に見てくれる奴が居るってことだけで良いんだ」

「ありがとう…」

「柊がそんな調子なら俺が司会進行でもするかな」

「五月雨さんにはやらせたら駄目でしょ!!絶対にあいまいな表現を使って混乱させるじゃないですか!」

「確かにそうだな…」

「もう大丈夫だ。さて話を戻そう。俺と水無月達でクラベスを殺す。そしてこれにはあまり時間をかけることができない」

 今回は入れ替わりの隙を突くのが作戦だが、確かに敵の救援はめんどくさいな。

「今回衝突する場所の地形に二ヶ所の道がある。もし敵の救援が来るのならここの道が使われるだろう。しかも周りは森に囲まれ、即座に敵の発見はできない。もし敵の救援に間に合われてしまうと手薄な左側は、簡単に突破されるだろう。更に五月雨隊が右側の対応を行っている際に後ろから襲ってくるという危険性も含んでいる。そんなことになったら五月雨隊は、ブイング隊と敵の救援を一度に引き受けることになり、全滅するだろう」

「そして俺の隊が全滅したからは、さっき言ったように柊と水無月の隊に背後から襲いかかってくるわけだな」

「それは絶対に避けたい。この作戦の意味が無くなってしまう」

「だから俺達がいるんだろ」

「その通りだ。俺達が時間をかいでいる間に陽炎団には『希』の拠点内への侵入、希の殺害を行って欲しいんだ」

「殺害までにはいかずとも損傷はさせたいな」

「勿論俺達もブイング、そしてクラベスを殺せればそちらへ向かう。しかしそれは期待しないでくれ」

「分かっている」

「だとしたら以上だな。俺達は能力者が俺のみ。剣の能力持ちは、五月雨と水無月しかいない。それに比べて、クラベス隊は『希』からの兵も追加されているはずだ」

「能力者全員、田沼隊に根こそぎ取られましたもんね」

「それを言ったら始まらないだろう。上層部の一番偉いのが田沼の父だ。死なれたら困るんだろう」

「まぁそうですね。そうなるとやっぱり消耗戦ですね」

「その通りだ、五月雨」

 消耗戦……やっぱり一番聞きたくない言葉だ。柊さん、五月雨さん、水無月、死なないでくださいよ。

「これで作戦会議を終了する。集まってくれてありがとう。各々、明日の準備を行ってくれ」

「時雨、破宮、帰るとするか」

「陽炎、俺残ってもいいか?」

「……そうか。分かった」

「柊さん、五月雨さん、水無月、俺外で待っています」

「あぁ、隊に指示を出し次第行く」

 破宮は一人、テントの左口から出て行った。

 やっぱり会議は堅苦しかったな、獄。

 “そうだな。一応綾波のやつのこと警戒しておけ”

 いきなり死なれたら困るもんな。それよりさ…

 “やっぱり陽炎も気になっているんだな。五月雨の事が”

 あぁ、ブイングの話を聞いてからやけに殺気に溢れている。

 “何か因縁があるだろうな”

 やはり情報が足りないな。

 “三年前の流の情報と四ヶ月前の「バダジャキ」戦での「希」の幹部、ぼうから時雨の「一心」で情報を奪う事ができたこと以外に分からなかったもんな”

 そうだな。後はその場で考えての対応になるな。

 “クラベスの能力「吸収」と「希」の構成、見張り交代の日付と時間くらいしか分かっていないな”

 陽炎が最期に流に聞いた希の能力が知りたかったな。

 “それは仕方が無いだろう”

「待たせてすまないな」

 破宮と獄が情報を整理している間に三人は戻ってきた。

「大丈夫ですよ、柊さん」

「場所はここで良いか?」

「あ、俺良いところ知ってますよ」

「本当か!五月雨?早く連れて行けよ!」

「水無月は随分と陽気になったな」

「破宮もな」

 四人は再度集まり、酒を飲む約束をしていた。

「水無月は酒飲めるようになったのか?」

「毎日毎日五月雨さんに飲まされていたら慣れるよ」

「飲ませすぎだ」

「柊もそんな事言うなよ」

「まぁいい、五月雨の飲酒癖は昔からだからな」

「そろそろですよ」

「アレか?」

「そうですよ。あの折れた大木のところですよ」

「五月雨さん、俺と飲まない時ここで飲んでいたんですか?」

「そうだが?」

「隠していたんですね…酷いですね」

「三人とも一年半振りに会いましたけど変わりませんね」

「一年半あっても、ただ殺して、殺して、殺し続けて生き残るだけの日々だからな。淡々に過ぎていくさ」

「まぁそんな話は酒でも飲みながら」

「そうだな」

 破宮達は折れた大木の上を歩いていった。

「ここから飛び降りて下さい」

「登ることはできない高さだが、木の幹を歩いて行けば来れるのか…」

「水無月もここには気づいてたのか?」

「えぇ、大きすぎて登れなかったんで、忘れかけていましたけどね」

「酒は?」

「俺の中でも一番のお気に入り『陽隠ひがくれ』と『はく』を持ってきた」

「俺も柊一族の酒蔵から取ってきた酒を持ってきた」

「つまみは?」

「一応、兎の肉と牛の肉がある。陽炎に焼いてもらった」

「陽炎さんの事便利道具にしすぎだろ」

「仕方無いだろ、火を使えるのが陽炎だけなんだから」

「さて、酒宴でも始めるか。たったの四人だけどな」

「俺が酒注ぐよ」

「柊さんがそんなことしなくていいですよ!!」

「そうですよ!!」

 破宮と水無月は即座に止めようとした。

「いや、構わないんだ」

「じゃあ、ありがたく」

 柊は破宮の盃に酒を加えた。

「ほら、水無月お前もだ」

 あれ?今、柊さん酒を変えなかったか。

「ありがとうございます!疑問に思ったんですけれどこの杯、少し大きくないですが」

「気のせいだろ」

「そろそろ乾杯としようぜ!」

「焦るなよ、五月雨」

「まぁいいんじゃないですか」

「四人が死なずにまた集まれたことに喜び、乾杯!」

 “お前は何回も死んでいるけどな”

 それは言うな。

 “すまない”

 亮もここにいて欲しかったな。いや、そんなことを考える必要は無いな。

 そんな事を考えながら破宮は盃に入った酒を飲み干した。



読んで頂きありがとうございます!


今回は三年後の世界からの始まりでした。設定資料集の部分の引継ぎと共に新しい情報を詰め込んでいたら予想以上に時間がかかってしまいました。

今回は地形が複雑なので図にしてみました。これが少しでも地形や隊の配置などの想像の手助けになれば幸いです!!


感想、質問、誤字脱字などの指摘をお待ちしています!!


twitterにて、この作品の新規設定(とてもくだらないような情報からこの後の話に関わってくる情報までたくさんあります)を一日一個公開しています。見て頂ければ幸いです。

URL:twitter.com/higu_kaiを入力する。

もしくは@higu_kaiで検索して頂ければ多分出ます。

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