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拒絶された世界の中で  作者: ヒグラシ
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二十五話 時雨

 


「ありがとう。お前のおかげでこいつらを護れた。 一人じゃ無理だった」

「そんなことは気にしないで」

「あとひとつお願いがあるんだ」

「何?」

「今から人を喰うんだ」

 破宮は子供達に聞こえないように小さな声で言った。

「その間だけ子供達をもう一度任せてもいいか?」

「喰べる?」

「あぁ」

「貴方『結晶化』って知らないの?!」

 女はつい大きな声を出してしまった。

「大きい声を出すなよ。なんだそれは?」

「ごめんなさい。なら私をそこに連れて行って」

「でもこいつらを置いてはいけない」

「確かにそうわね…」

「陽炎を待つ事にする」

「陽炎?」

「俺達の団の隊長だ。俺は今日加入したばっかなんだけどな」

「そうなのね。貴方はとても不運なのね」

「その『貴方』って言いかたやめてくれ。さっきみたいに『破宮くん』って言うのもだ。『破宮』って呼んでくれ。気楽だ」

「分かったわ」

「それとお前の名前は?」

「そういえば名乗って無かったわね。私は(ひいらぎ)時雨(しぐれ)

「え?!」

「どうしたの?」

「お前が柊さんの…」

「貴方、兄の知り合い?」

「知り合いというより柊さんは恩人だな」

「あの兄がか…分からないものね」

「時雨、渡したいものがある。柊さんからの手紙だ」

「あの事かしら…」

 時雨は小声で呟いた。

 それも勿論聞こえていたが破宮はあえて無視をした。

 これは柊さんの一族の話だ。首をつっこむ必要はない。

 そして二分ほど経ってから、陽炎が破宮達の元へ着いた。

「すまない。遅れた」

「あの人達は大丈夫なのか?」

「敵は全員殺したから大丈夫だと思う。それより隣の女は?」

「俺が一度殺された際に時間を稼いでくれた」

「柊時雨です」

「そうか。それは助かった。ありがとう」

「それより陽炎、こいつらのこと預かってくれないか?」

「なんでだ?」

「さっき殺したやつを喰う。ついでに『結晶化』というのを教えてもらう」

「『結晶化』?なんだそれは」

「時雨が知ってるんだとよ」

「その男は鮮って言うのか?」

「なんで知ってるんだ?」

「さっきそいつの部下のはずの流を拷問をしてから殺した」

「殺したのか…」

 “甘ったれるなよ。陽炎が殺したのはお前達のためだろ?”

 え?

 “あいつの右頬見ろよ。涙の跡があるだろう?”

 本当だ。

 “あいつだって好きで殺したわけじゃないんだろ。お前らを守るために、その情報を得るために拷問をして、殺した”

 そうか。

「強かったか?」

 破宮は殺した理由を聞こうとしていた。

 それも無駄にだ。

 しかし獄によって答えを知り、話を繋いだ。

「混乱して逃げてきていたから強くは無かった。だが冷静な時に戦ってたらタチの悪い敵だった」

「そうか。じゃあ任せてもいいか?」

「あぁ、早く済ませてこいよ」

「分かった。時雨、なら行こうぜ」

「えぇ…ってちょっと!」

 破宮は時雨を抱き抱えて走り出した。

「そんなことしなくても私だって走れるから!降ろしなさい!」

「嫌だったか。早く着くと思ったんがな…」

「早く着くってたったの五百メートル位じゃない!」

「……」

 破宮は亮のことを思い出してしまった。

 あの時は百メートルも離れていなかったのに助けられなかったんだったな。

「……ごめんなさい」

「え?」

「急に黙り込むからまた心を覗いちゃったの。それで…」

「いや別にいいんだ。女々しい奴だよ俺は…未だに引きずっているしな」

「そんなことは…いやなんでもないわ」

「これから覗かないでくれればいいよ」

「……ごめんなさい」

 破宮は時雨を降ろし、言った。

「なら早く行こうぜ」

「そうね」

 そこから十秒足らずで鮮の元へ着いた。

「綺麗な死に顔ね」

「後悔はあっただろうけど受け入れて死ねたのか…亮、お前のおかげだ」

「亮さんって人はそんなに凄い人なのね」

「なんで分かるんだ?」

「私、さっき陽炎さんの心も覗いたけれどあの人の心の中にも亮さんがいた。そして一緒に流さんのことも」

「そうか。凄いやつだよ、あいつは。それよりも『結晶化』ってやつを教えてくれ」

「そうね。『結晶化』って言うのはこうやるのよ!」

 そう言うと同時に紋章を紙に描いた。

「これをこうしてこう描いて!」

「こんなに簡単なのか?」

「なんだか分からないのよね。普通紋章には創った人の自己主張が出てしまうの。なのにこれには特徴の一つも無いの」

「淡々としているな」

挿絵(By みてみん)

 そこに描かれた紋章は唯々簡単だった。

「こんなものでできるのか?」

「えぇ」

「大変なのはこれを描くときに死体をどけないといけないというところか。鮮、すまないな。少しどいてくれ」

 そう言うと同時に破宮は鮮を抱きかかえ、紋章を描いた。

「こんな感じか。丸を大きく描くのが大変だな」

「慣れれば楽よ」

「そうか」

 破宮は紋章を描き終えた。

「鮮、すまないな」

 破宮はその紋章の上に鮮を置いた。

「鮮、お前の分も俺は戦う。見ていろよ。で、どうやって行うんだ」

「そしたら自分の血を紋章内に落として」

「あぁ」

 破宮は自分の親指を噛み、血を出した。

 そしてその血が紋章内に落ちた瞬間に紋章内が赤く光りだした。

「まぶしいな」

「夜とかにむやみに使うのは駄目よ。居場所が分かっちゃうから」

「分かった」

 そんな会話をしている間にすぐさま「結晶化」の儀式は終わった。

 コロンッ

「早いんだな」

「今音がしたでしょう。ここ」

「この赤いのが『結晶化』で造られたのか」

「そうね。これが多ければ大きいほど『結晶化』を行った人物が強かったということになるわね」

「そうか」

 破宮は赤色の結晶を飲み込んだ。

 あいつらのもとには行けないと思っていたが、お前の中で漂流するとは。

 え?!鮮?

 そうだ。俺はお前の中でお前の戦いを見ていくからな。あとは任せたぞ。

 あぁ。

 じわりじわりと小さく霞んでいく声に破宮は大きな声で答えた。

 任せとけ!俺と獄、陽炎達で戦っていくさ。

「終わったのね」

「また心を覗いたのか?」

「覗いてないわ。表情が大きく変わったの。自信を持っているみたいにね」

「そうか。まぁ少し自信はついたかな。戻ろう」

「あの…」

「ん?」

「私戻っていいのかな?」

「俺から許可はできないが、お前は恩人だよ。今日くらい『陽炎団』のやつらと過ごしてくれないか。他の奴らにもお前のことを伝えないといけないからな」

「私…貴方たちの『陽炎団』に加わりたいの!」

「それは…陽炎に言ってくれ。じゃあ戻ろうか」

 帰りの際、時雨の顔には緊張が現れていた。

 そんなに緊張する必要あるかな…

「おい破宮!さっきの光なんだ?!」

「あれが『結晶化』ってやつだ」

「どういう原理なんだ?」

「それは時雨に聞いてくれ。それよりも先に時雨が言いたいことがあるんだとよ」

 破宮は時雨に話を振った。

「頑張れ。陽炎はいい奴だから恐れる必要はないよ」

 破宮は時雨に耳打ちした。

 ありがとう。

「私、柊時雨をこの!!『陽炎団』に入れてください!!」

「別に構わないが」

「え?!!」

「強い奴が居てくれた方が楽だからな。逆に頼みたいくらいだ」

「時雨、よかったな」

「うん!」

 綺麗だな…

 この時見せた笑顔は、破宮にはとても輝いて見えた。


 夜

 破宮と時雨の「陽炎団」入団祝いが行われていた。

 各々自己紹介を行い、それぞれを理解し合った。

「破宮、時雨、付いてきてくれ」

 陽炎は皆が眠る中、話し合う二人に呼びかけた。

「え?」

「なんで俺達が?」

「少し場所を変えよう」

 陽炎は二人の前を歩き、それを二人は追った。

「どこまで行くんだ?」

「もう少しだ」

 そして五分後、陽炎は立ち止まった。

「ここでいいか」

 そこは木が沢山生えた森の中で特に何か特徴があるわけでも無い場所だった。

「わざわざこんな遠くまですまないな」

「何をするんだ?」

「情報の照らし合わせだ」

「そういう事ね」

「なるほどな」

 各々違う道を歩んできた三人が持つ情報は沢山有り、夜が明け、朝日が昇るまで話し合いは終わらなかった。


読んで頂きありがとうございます!


挿絵が下手ですみません…一応アレが時雨の描いた紋章です。

今話で二章が終了になります。

次回からは登場人物の紹介を書いていこうと思います。

それが終了次第、第三章が始まります。


先に少し第三章の予告をさせて頂きます。

第三章ではこの話の三年後の話になっていきます。特にメンバーに入れ替わりはありません!更に次話からの設定の紹介で、破宮達の三年間での成長を紹介させてもらいます!

これからも破宮達の活躍を応援して頂ければ、幸いです!


感想、質問、誤字脱字などの指摘をお待ちしています!!


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