二十二話 同情
二分前
痛みが消えた!!立てる!!
“待て!立つな!!”
なんでだ!!
“相手はお前がまだ立てないと思って近づいてきている。そこを利用しろ!!”
だけ…
“お前まさか同情なんかしてないよな?”
うっ…
“あいつは俺達を襲ってきたんだ。それが上司と部下の関係を見ただけでどうした?葉宮と自分の関係でも重ねたか?!”
そういう訳ではないんだ。ただ守ることに違和感を感じたんだ。そして家族が相手にも…
“おい…ならなんでお前は慈飛を殺したんだあいつにも俺たちが知らないだけで家族がいたかもしれないだろ?”
……そうだな。
“ならここで甘い考えはやめろ!!お前は殺した奴、殺された奴の家族、親戚、友達などを敵に回す覚悟で喰ったんだろ!迷うな!お前が守ろうとしたものを奪う奴らを殺せ!”
分かった。しっかり殺す。
“ならいい”
獄の声は今まで聞くよりもドス黒く、重かった。
「立てよ!」
その瞬間、男は銃を連射した。
カンカンカンカンカンッ!
破宮は即座に鉄の盾を造り出し、弾き飛ばした。
やはりあいつの鉄の硬度は硬い!そして今の挑発で、立とうとしていたがあいつは立てなかった。近づける!!確実に殺す!
男は銃に銃弾を装填し、更に距離を詰めた。
五十メートルもないか。早く近づいてこい。
男の接近を待つ破宮は、左手に剣を構えていた。
破宮は、鉄の盾を造った際に左手に剣を造り出していた。
男との距離は、四十メートル、三十メートルと距離を確実に近まっていた。
そして男は、破宮の頭に銃口を向けた。
「これで…」
男は引き金を引こうとした。
しかし、男が造り出した剣が彼の腕を襲った。
「くっ!!」
パンッ!
男は引き金を即座に引いたが、それよりも先に剣が男の腕を吹き飛ばし、銃弾は狙った場所から大きくそれた方向へ放たれた。
「ぉらぁああ!!!」
それと同時に破宮は立ち上がり、左腕を大きく上げ、振り落とした。
グチャ!
左は利き腕じゃない分力が足りないか!!
剣は中途半端に男の身体に食い込んでいた。
「あぁああああああ!!!」
男は痛みに耐えきれずに倒れこんだ。
破宮は即座に剣を腹部から引き抜いた。
「はぁ…はぁ…がひゅっ…」
そして破宮は男の首元に剣を向けた。
“止めを早く刺せ!”
もうこいつは死ぬ。ついでに両腕も吹き飛ばした。もう抵抗はできない。だから少しだけ待ってくれ。
“そうか…分かった。だが絶対に止めを刺せ。変な行動をした際にもだ!”
獄は渋々ながら破宮の行動を受け入れた。
「お前、名前は?」
「拷問でもするのか?」
男は痛みに耐えながら答えた。
「大丈夫だ。拷問をするつもりはない。お前みたいなやつが拷問にかけても何も言わないのは知っている」
破宮は亮のことを思い出しながら言っていた。
「これはただの質問だ。だから答えなくてもいい」
「名前だっけ?北原鮮だ」
「鮮か。家族は?」
「家族…家族か」
鮮は言葉が詰まった。
「これは質問だ。答えなくても…」
「いや、少し前のことを思い出していただけだ。今は居ない」
「そうか」
「殺されたんだ」
「それ以上は言わなくてもいい。嫌な思い出なんだろ?」
「もう俺は死ぬんだろ?しかも俺を殺すのはお前だ。少しくらい愚痴を聞いてくれてもいいだろ?」
「分かった」
“いいのか?女の方を助けに行かなくて?”
俺の造り出したアイツが壊れたという感覚はないから大丈夫だろう。
「四年前に起こった最初の戦争地でな」
「西暦千二百七十八年の出来事か。『捷』と『カルバン』の二点で起こった無差別殺戮か」
「そうだ。どちらも考えることは同じで、先手必勝を狙った」
「最初に西陣営の隊が『捷』を襲い、その急報を聞いた東陣営が『カルバン』を襲ったんだよな。両陣営共に防衛地点も用意しなかった為に両地点で合計三万の死者が出た戦いか」
「そのうち二万八千は罪もない市民だ。それよりなんでそんなに詳しいんだ?」
「……すまない。その戦いに俺の隊の隊長が参加していたんだ。そいつがいつも開戦日の十二月十五日に謝罪していたんだ。それを聞いただけだ」
「そいつは…そいつはなんて言ってた?」
「『自分の力の無さを痛感した戦いだ。目の前で抵抗をしない人を殺していく奴らに、異議を申し立てることも実力行使で止めることもできなかった。』と言ってた。そしていつも『俺もあいつらと同じなんだ。自分が可愛いからあの非道な行為を止めなかった。泣き叫んで助けを求めてきた人達を無視した。俺も同罪だ』と自分を責め立てていた」
それを聞いていた鮮は涙を流していた。
「そんな奴が居てくれたのか…」
「お前…そいつのことを恨まないのか?」
「俺はあの時はただ妻と娘が蹂躙され、犯される姿を唯々眺めていた。そしてノコノコ一人で生き延びて、やっとここで死ねる。最後にそいつの遺志を継いでる奴が居たことが俺にはうれしいことなんだよ」
「そうか…それはよかったよ」
「質問はそれだけか?」
「お前を俺は喰いたい。いいか?」
「喰われるのか。いいぞ。強い奴の中で何か見ることができればいいな」
「そうか。な…」
ドガァンッ!!!
壊された?!
“やはり行った方がよかったな”
俺の考えが間違えていた。すまない。
「もう…もういや!!!!殺さないで!!」
舞風は叫び声を上げた。
「舞風喋れたの?!それよりも落ち着くの!!」
しかし朝潮の声は聞こえてはいなかった。
「あぁああああぁぁっぁっぁあああ!!!」
鉄の盾で造られていた物は一瞬で吹き飛んだ。
「殺されたくない!殺さないでよお父さん!!」
舞風は見えない影に怯ええるかのように叫んだ。
「私が我儘だったんならそこを治す!言うことだって何でも聞くから!!もうやめてよ!!お父さん」
そこね!
女は舞風と距離を詰めようとした。
「嫌っ!!!」
しかし女は弾き飛ばされてしまった。
今ので確信した!こいつは慈飛の娘だ!!
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