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拒絶された世界の中で  作者: ヒグラシ
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十七話 暗鬼

 


「遅い!!」

 谷風は右腿の傷などを気にもせずに破宮に飛びかかった。

「拒絶された思い」

 後二メートル!!言い切る前に殺せる!

 そう確信した谷風の前に鉄の盾が造り出された。

「うぉおおお!!」

 それを谷風は前と同じように蹴り破ろうとした。

 だがそれはできなかった。

「五枚重ね…か?」

 破宮は盾をあえて五枚とも間隔を空けずに造り出した。

 そのことによって盾の硬度は変わらないものの蹴り破りにくくする事ができた。

 この作戦は見事に成功したのである。

「我の手で解き放たれよ!!!」

 谷風が怯んでいたことによって時間を稼ぐことができた破宮は能力を完全に発動した。

 その瞬間四人の近くにあった血溜りから剣が造り出され、四人を襲った。

 谷風は破宮が転倒した際に出来ていた血溜りの上にいたため、造り出された剣を避けられずに腹部に突き刺さりかけた。

「まずい!!」

 しかしその瞬間剣は消えた。

「後ろ!」

 鉄の盾が後ろから頭を襲った。

「がっ!」

 頭に鉄の盾を叩きつけられた谷風は倒れた。

 それと同時に三人の前の血溜りからも剣が造り出され、襲いかかった。

「私たちの所にも」

「二人とも私の所に!!」

 三人の女のうち、一人の女が叫び、そこから火が発生した。

「溶かし…きれない!!!」

「任せて」

 溶け切らずに残っていた剣は双刀使いの女が剣を叩き折った。

「剣の速度は遅いから簡単に折れた」

「谷風助けに行ってくる!!」

 だがそれを阻むように破宮は妨害した。

 こいつ!早い!!

「谷風をこれ以上傷つけるつもりも殺そうとも思わない」

「なにを言ってる!!」

「だから俺の話を聞いてくれ」

「嘘だ…嘘だよ!!!」

 “右腕はもう生えてきたからいいが…ダメージが残ってるな”

 仕方ないだろ。こいつらも慈飛のことで疑心暗鬼になってんだな。一人一人黙らせていかないと…

 “冷静になれ…お前さっき陽炎が子供達と会って、こっちに来ていることも会話の内容もわかって…”

「ならかかってこいよ」

 もう破宮には獄の声は聞こえていなかった。

 破宮の野郎…熱くなりすぎていやがる…スイッチが入っちまったのか。

「行く」

 破宮も双刀の構えを取り、双刀使いの女を迎撃しようとした。

 ガン!!!

「え?」

 なにかが着地した音を聞いた破宮は迎撃をやめ、振り向いた。

 そして驚いた。

 谷風が倒れていた場所に一人の男が立っていた。

「陽炎じゃない?!」

「誰?」

 その瞬間、双刀使いの女は男に飛びかかった。

 あの男!強い!!双刀を一本で止めやがった!!

 しかし破宮も考えていることは同じだった。

 こいつは消すべきだ!!!

 破宮も双刀使いの女と同じく飛びかかった。

 双刀使いの女によって動きが止められている男を破宮は容赦なく斬るために飛びかかった。

 そしてそれがわかっていたかのように双刀使いの女は男と距離を取った。

「喰らえ!!」

 男は突然のことで避けることもできずに斬り裂かれた。

「ガッ!!」

 男は言葉にならない叫び声をあげ倒れた。

次は…

 ドスンッ!!

「今度はな…陽炎?!そして『ドラ』!!」

「畜生!!『炎龍』こいつらを蹴散らすぞ!!!」

「陽炎どうしたんだ?!」

「嵌められたな。慈飛を殺した時点で襲われることを覚悟していたが…早すぎる」

「まさか追っ手か?」

「そうだ!負傷者は」

「谷風がやられた」

「私が谷風をこっちに連れてくる」

浜風はまかぜ、頼んだぞ。雪風は谷風の治癒。磯風いそかぜは治癒中の警備を浜風と行え!!」

「じゃあこいつは…」

「俺たちの味方だ」

「連れてきたよ!!」

 場は完全に混乱していた。

 そして破宮が得た情報はさらにこの場を混乱させた。

「陽炎!どうするガキ共が襲われているような音がするんだ!!」

「なんだと…」

「浜風、谷風をここに置いて」

「うん…大丈夫なの?」

「そこまで傷は深くないよ」

「陽炎…どうする?」

「俺がこの後来る奴らを相手するから…」

「ちょっと…待ってくれ」

「谷風!大丈夫なの?!!」

「あぁ…」

 谷風は立とうとした。

「今は立っちゃダメ」

 雪風が忠告したように谷風は立ち上がろうとしてすぐに倒れた。

「なら…磯風も浜風も行ってくれ。あいつらを…」

「それもダメ」

「なんでだ…」

「私がもし治癒を始めたら動くことができない。そしたら陽炎だけじゃ対処しきれない数だったら私たちは死ぬ」

「ならどうすれば…」

「だから俺を信じろ!!」

 破宮は叫んだ。

「なら…おまえは…お前は本当に信頼できるんだな!!」

「あぁ」

「信じていいんだな!!」

「勿論だ!」

「なら…俺はお前を信じる!!だから頼んだあいつらを」

「任せろ!!」

「そうか…なら…今戦うことの出来ない俺の分に戦ってくれ。雪風、俺の腹の部分の肉を繰り出してくれ」

「それを私にやらせるの?」

「頼む」

「わかった」

 雪風は納得し、双刀のうち一本を引き抜き、谷風の腹を切った。

「痛いけど我慢して」

「覚悟はしているから」

「じゃあやるよ」

 雪風は腹に剣を突き刺した。

「治癒させるから…我慢して」

 そしてそのまま刳り貫いた。

「あぁあああああああああ!!!!」

「我慢して…って言ってるのに。終わったよ」

「はぁ…はぁ…そいつを…喰って…くれ…」

「おい大丈夫なのかよ!!」

「磯風は黙っていて。黙れないなら浜風がどこかに連れて行って」

「分かったわ。磯風静かにしているのよ」

「うん…」

「破宮君。これね。抵抗があるかもしれないけど喰べて」

「大丈夫だ。もう慈飛を喰っているからそんなことに抵抗はない」

「そう」

 破宮は雪風から谷風の肉を受け取り、喰った。

 これは凄いな!!慈飛の腕を喰った時のように力が溢れてくる!!

 谷風の肉を喰った破宮には力が溢れ、傷も完全に塞がった。

「それよりお前は大丈夫なのか?」

「大丈夫。早く助けに行ってあげて」

「わかった」

「破宮…すまないな。子守を俺が任せたばかりにな」

「構わないよ…それよりすまないな」

「お互いさまってことだな…早く行け!!」

「あぁ!!」

 破宮は子供達を救うために拠点へ向かった。


読んでいただきありがとうございます!


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