十六話 疑心
「谷風飛ばし過ぎだよ!」
「あいつの能力の『龍飛』が羨ましいな…」
「あの速度は出せない」
「私たちも全速力で行くよ!」
「あいつらまさか破宮を敵だと思ってなんか…いるな…団長の俺が誤解しやすいのにな」
自分が最初に破宮を敵だと思い殺そうとしたことを思い出し、最悪な状況が今起こってると予想した陽炎は全速力で走りだした。
「らぁああ!!!」
谷風の剣が右から破宮目がけ振り落とされた。
「…がっ!!!」
破宮は剣で止めることなく、鉄の盾で弾いた。
「俺は敵じゃない!!!」
「のわ…慈飛は俺たちの仲間でありながら裏切ったんだぞ!!名も知らないお前を信頼できると思うか?」
谷風は慈飛の前例のせいで疑心暗鬼に囚われ、事実さえも嘘にしてしまおうとしてしまっているように破宮には見えた。
こいつは間違えなく『陽炎団』のメンバーだ。殺さないでなんとかする方法が。
破宮の考えていることなどお構いなしに谷風の剣は襲いかかってきた。
一度後ろにさが…っ!!
破宮は谷風への対処に気を取られ、後ろに刺さっていた剣に気付かずに倒れ込んだ。
こんなことが多すぎて痛みに疎くなっていたのか。
“おいどうするんだ!!”
慢心はいけない。
“お前再生するからって自分の身を投げ出し過ぎじゃないのか?”
それでもいいんじゃないのか?
“いくら再生するからってな…いつかは死ぬぞ”
え?
“お前死なないと思ってたのか?”
こんなに再生するからな。
“じゃあなんで慈飛は死んでいるんだよ!!”
あ…じゃあ死ねない!!
“今更か!”
破宮は襲いかかってきた谷風を鉄の盾で一瞬だけ動きを止めた。
「こんなもの!!」
谷風は鉄の盾を蹴り抜いた。
これだけで壊せるのかよ!!
「五体不満足になっても後悔はないな?」
「あ?今のはお前が敵だと認めたということでいいのか?」
「そういうことにしていろ!!」
そう叫び、破宮は後ろに刺さっていた剣をあえて剣先を左手で掴み、引き抜いた。
左手を損傷、腹部は貫通とボロボロの状況の破宮を見て、谷風は破宮を嘲笑った。
「気で狂ったのか?絶望で」
「さぁ…どうだか?」
破宮は初めて自分で谷風との距離を近めた。
「ついにやる気を出すってことだな」
破宮は左手に引き抜いた剣、右手に造り出した剣を握った。
二刀流か…初めてのタイプだな。だが!!!
「『龍飛』、力を貸せ」
来るか?!
破宮は谷風が襲い掛かってくることは予想していた。
しかしその速度までは予想できていなかった。
「がっ?!」
破宮の右腕は吹き飛んだ。
速い!!だがっ!!
「ぐっ!!」
破宮は右腕を犠牲にする代わりに谷風の左の太腿を剣で深く斬り裂いた。
「これでお前の自慢の速度は失ったな…話を聞いてもらえるか?」
「ははは…」
慈飛の時もこんな感じな…まさか!!
破宮はあえて左へ飛んだ。
「ちっ!!」
「こいつわかってたのか」
「嘘だろ!」
“四対一だと…”
右腕を失ったのがきついな。
“無駄なことするからだろ…”
ガキどもは?
“あいつらなら逃げたよ”
逃げれたなら巻き込まないで済むな。
“なにか作戦でもあるのか?”
今までの状況から整理すると俺の血の所から鉄の剣も盾も造り出すことができるはずだ。だからあえて血を広範囲にまき散らした。
“他の三人は偶然だろ”
まぁそうだな。だからこそ今発動する!!
「希望、絶望。歓喜、悲哀。支配、喪失。欲望渦巻き、敗れる世界の中。理想に生き、破れ散り逝ったものよ」
「呪言か!!」
「この距離なら!!」
谷風はボロボロの状態の破宮が呪言の発動をする前に止めを刺すため、地を蹴った。
「陽炎さん!!!お兄ちゃんが!!」
破宮の場所に向かおうとしていた陽炎は、谷風に強制され逃げてきた子供達と偶然にも遭遇した。
「やっぱり戦ってるのか…」
「私たち…お兄ちゃんのこと見捨ててきちゃったの…」
「大丈夫だ。あいつはそう簡単に死なないから。今俺が止めに行くしな!お前らは一度拠点に戻っていろ!」
「なら私の『ドラ』使ってほしいの!」
「助かる!!」
陽炎は「ドラ」に乗り、子供達が来た方向へ向かった。
着くまでに二分くらいか…耐えてくれよ!
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