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拒絶された世界の中で  作者: ヒグラシ
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十三話 決着

 


 五月雨は驚愕していた。

 悲鳴がした場所にたどり着き、そこで見た光景は五月雨が率いていた隊の隊員隊が、男に虐殺を受け、喰われているものだった。

 なんだ…これ。

 五月雨は恐怖に捕らわれ、一時的に混乱をきたしていた。

 そのため男がこちらに気付いた事にさえ気付く事はできていなかった。

「あれ君も?」

「え……?」

「た…隊長!!避けて!!」

 その声で混乱から覚めた時には、男は五月雨に飛びかかっていた。

「っ!!!」

 五月雨は地面を思いっきり蹴り飛ばし、後ろに後退した。

 駄目だ!!この距離だとあの勢いを避けることはできない!

 その瞬間、五月雨の身体が男に引っ張られた。

「君も僕の力の元になってよ。イラつくクソガキ殺すためにさ!!」

 しかしこの時には五月雨はいつもの冷静さを取り戻していた。

 こいつらを救うためには!俺が死ぬわけにはいかない!

「すまない!!『炎狐えんこ』!」

 五月雨は英霊を発動し、男を襲った。

「陽炎隊長と同じ系統かな。火力は弱そうだけど!!」

 男は倒れていた隊員を引き寄せ、盾にした。

「君は冷酷になれるかな?」

 男は試していた。

 五月雨が 部下を殺してまで自分に攻撃を仕掛けられるかを。

 まぁもし殺してきたなら、その死体をあの隊長を起点として「吸引」を使えばいいんだけどね。

 しかし、男の予想は外れた。

 自分を襲ってくると思っていた召喚獣は、盾を燃やすことは無く、代わりに五月雨が襲いかかってきた。

 え?

「肩借りるぞ!!!」

 五月雨は盾にされていた部下の方を踏み、そのまま飛んだ。

 そして「吸引」の勢いを利用し、飛びかかったが、その瞬間、五月雨は吹き飛ばされた。

「がぁっ!!」

「もう終わり?」

 男はそう聞きながら、隊員に剣を突き刺した。

「うっ!!ぁあぁああああああああああ」

「やめろ!!!」

「嫌だよ…あははっははああっははは」

「この…この気狂い野郎が!!!!!」

 五月雨は怒りに身を任せ、飛びかかろうとした。

 そのため、後ろから迫りくる剣に気づく事ができなかった。

「君も終わり」

 しかしそうはいかなかった。

 五月雨と剣との間に「炎弧」が割って入ったのだ。

「キィ…ィィ」

 そしてそのまま剣を溶かし切り、消滅した。

「主人をかばうなんて偉いね…まぁこんな主人で可哀想に」

「あぁあああああ!!!」

 またも無謀に切りかかろうと試みる姿に男は、笑いを通り越し、失望していた。

「みんなみんな学習しないんだな!!!」

 男は即座に「吸引」を使い、五月雨を引き寄せ、左腕を蹴りだけで捻じ曲げた。

「あぁああ!」

 しかし五月雨は諦めなかった。

 俺がここで死んだとしたら、こいつはあいつらのもとに行く!!せめて、せめて少しでもあいつらが有利になる状況を作るんだ!

 捻られた左腕は一時的に行動半径を広められると考えた五月雨は、捻られた左腕を男の顔に目がけ振りかざし、そのまま脛を蹴った。

 そしてそのまま地面を蹴り飛ばし、男の首に足を引っかけた。

「くっ…素晴らしいね、でもねっ!!!」

 しかし「反発」の勢いには耐えきれずに吹き飛ばされ、右足の靭帯を損傷させてしまった。

「畜生…」

 五月雨は近づいてくる男に向かい剣を向けながら呟いた。

「殺されるまで抵抗しようなんて偉いね」

 本当は後ろから「吸引」で引き寄せた剣で辛くんだけどね。どんな顔して死ぬのかな。

 どうやらここで俺は死ぬな...ごめん。

 抵抗する姿は見せていたが、心は折れていた。

 反撃の一撃を放つ勇気も無く、殺されるのを待っているだけだった。

 そして五月雨と男の距離は1mを切った。

 隊員のみんなも救えなかった...悔しいな。

「さぁ終わりだよ!」

 男は剣を振り下ろし、それと同時に「吸引」を発動した。

 ヒュンッ!

 風を切る音が響いた。

 男はこれから見る光景は、目の前で抵抗しようとした五月雨が後ろから剣に貫かれ、何故なのか理解もできずに死んでいく姿になると思っていた。

 しかしその光景は見ることができなかった。

 キンッ!!

 後ろから迫る剣は鉄の壁に阻まれ、振り落とした剣は、突如現れた男の剣で阻まれたのだ。

「え...?」

「五月雨さん、間に合って良かった」

「もう!もう『再生』したのかっ?!」

「慈飛、弱い者イジメは楽しかったか?これからは受ける側になってもうぞ!」

 少年が慈飛へ宣告する前に、慈飛は能力を発動していた。

 ここはお前が最初に暴れた場所だ!剣も死体も沢山転がっていて、僕の有利な状況なんだ!今すぐに決めてやる!決めてやる!!

 慈飛は恐怖に勝つために自分に言い聞かせていた。

「他人に恐怖を抱かせ、なぶり殺すのが好きなのに自分がその立場になったら逃げるなんて都合の良いやつだな!」

 少年は他方向に迫り来る剣に目もくれず、慈飛との距離を詰めた。

 気づかないんだな!罠に引っかかってるんだよ!!

 慈飛によって引き寄せられた剣は、今までの攻撃とは違い、一度「吸引」を発動、少年の近くに接近した瞬間に解除、

 そして剣が地面に落ちる少し前の時に「吸引」を再度発動、それによって上からも下からも剣が迫り来る状況を作っていた。

 その事に五月雨は気づいていたが、右足が思うよう動かず助けに行くことができなかった。

「おい!!上からも下からも攻撃が来ているぞ!!第六小隊!!生きている奴らは二人一組になって襲い掛かる剣に対応しろ!!!」

 五月雨の声に返答する者はいなかったが、何人かは五月雨の言うとおりに対応しようとしていた。

 しかし、対応をしようとした人たちには抵抗する力もなかった。

 そして無数の剣は迫りくる。

「俺はまた…」

 しかし迫りくる無数の剣を鉄の壁に阻み、弾くことで剣は隊員を避けて少年へ向かっていった。

「え?」

 五月雨は状況が理解できなかった。

 どうして鉄の壁が?誰が?

 それは明らかに少年の能力だった。

「なんでだ!なんでだぁああ!!!」

 しかし慈飛はそれを疑い、動揺を隠せずに少年へ襲い掛かった。

「さっきは!俺の攻撃を止められなかっただろうがぁあああ!!!」

「なんでだろうな?」

 少年は襲い掛かり、右から振り落としてきた剣を根元から薙ぎ払った。

 そしてその力に耐えきることができずに、慈飛の剣は吹き飛んだ。

 そのまま少年は慈飛の腹に剣を突き刺し、慈飛のことを地面に叩きつけた。

「おい…離せ…いた…」

「黙れよ」

 少年はしゃべろうとする慈飛に踵落しを喰らわせ、顎を砕ききった。

 さらにその勢いは止まらずに喉に踵落しが決まり、呼吸が簡単にできる状況ではなくなった。

「がひゅっ…ひゅうっ…」

 慈飛は喉に穴が開き、声さえ出せなかった。

「おい!!避けろ!!」

 五月雨は状況を理解することを諦め、少年を救うことだけ考えていた。

「大丈夫だ!」

 少年は慈飛の腹に手を突っ込み、肉を握った。

「あぁあああああ!!がふっがひゃ…」

 そして少年は握った肉を喰らった。

「やっぱり少し甘いんだな…そして力が湧くってことか」

「何してんだ!!!避けろよ!!」

 少年は五月雨の忠告を聞かず、もう一度慈飛の肉を奪い、喰らった。

 その時にはもう慈飛から悲鳴は聞こえなかった。

「もうそろそろかな」

 少年は慈飛から肉を奪い、喰らうことをやめ、クラウチングスタートのような姿勢をとった。

 あれこうやってやるように亮が教えてくれたんだっけ?あれ…もう覚えていないな。

 少年は思い出に浸っていた。

 “おい来てるぞ”

「避けてくれ!!!」

 獄と五月雨の声は同時に聞こえてきた。

 今だな!!!!

 少年はそのまま勢いよく駆け出した。

 少年が狙ったのは剣が自分を貫くギリギリでの回避し、剣が勢いを抑えられず、慈飛を貫く事だった。

 もちろん自分が進む方向から迫りくる剣は止められない。

 それは隊員を救った時のように受け流していった。

「やっぱり受け流しきれないか!!」

 少年は剣をすべて受け流せないことを悟り、剣をへし折ることを決めた。

 さっき剣がへし折れたときにあの剣は俺をあの後狙い続けてこなかった。ということは剣をへし折れば俺に襲いかかる剣は止められる!!

 少年は襲いかかる剣の根元を狙い、へし折っていたが数の差に対応できなくなってきていた。

 予想以上に慈飛に突き刺さらないで俺を狙ってくるな!!

 “なら俺の言うことを続けて言え”

 今まで使わせなかったってことはなんか代償があるんだろ?

 “多分な”

 だが出し惜しみしている場合じゃないな…頼む。

 “よし”

 そして獄は呪言を唱えた。

 “希望、絶望。歓喜、悲哀。支配、喪失。欲望渦巻き、敗れる世界の中”

「希望、絶望。歓喜、悲哀。支配、喪失。欲望渦巻き、敗れる世界の中」

 “理想に生き、破れ散り逝ったものよ”

「理想に生き、破れ散り逝ったものよ」

 “拒絶された思い”

「拒絶された思い」

 “我の手で解き放たれよ!”

「我の手で解き放たれよ!!!!!」

 その瞬間、少年の周りを無数の剣が囲んだ。

「消え去れ!!!」

 無数の剣は迫りくる剣とぶつかり合った。

 キンキンキンッッッツ!!!

 慈飛の剣は少年の呪言によって造り出された剣によりへし折られていった。

 よし!!今ならいける!!!これで終わらしてやる!

 少年は自分に迫りくる剣がなくなったことを確認し、慈飛にとどめを刺すことを決め、走り出した。

 それと同時に倒れている慈飛から剣が飛んできた。

 少年は剣を避けるために走った時以上の初速を出していたため、避けることはできなかった。

 ちっ!あの時腹に刺したままのやつか!!勝ちを急ぎ過ぎた!!

 しかし少年は、貫かれることなど考えていなかった。

「あぁああああ!!!」

 少年はぎりぎりで地面を蹴り飛ばした。

 慈飛が倒れているところから飛んできたため、低軌道だった剣は少年のジャンプには対応できなかった。

 そして少年は剣を一度見た後、剣の軌道を読み、鉄の盾を造り出した。

 ガキンッ!!

 剣は避けることなどもできずへし折れた。

 それとともに盾も割れた。

 なんで造り出す鉄の塊に差が出るんだ?

 “それはわからない”

 まぁこの後確かめて行こう。

 思考はそらしながらも少年は慈飛へ向かっていた。

「さぁ終わりだ」

 少年は倒れている慈飛を見下ろし呟いた。

「いたい…こわい…たすけてよ…しらぬい…さん…」

 焦点も合わずに虚ろな目をし、慈飛は意味の分からないことを言い続けていた。

「つよくなれば…がんばれば…あいしてくれるって…まもってくれるって」

 不知火っていうのは陽炎の知り合いかな…

「なのに…なのに…」

 その瞬間、慈飛は自分の横に転がっていた剣を握り、立ち上がった。

「それを!お前が奪ったんだ!!!!」

 そして少年めがけ、剣をふるった。

 まだ余力が!再生していられるほど時間もない!!仕方ない!

 少年は即座に右手に握っていた剣を振り落とした。

 少年が振り落とした剣は、慈飛の剣が自分に到達するより先に慈飛を斬りつけた。

「あっう!!」

 慈飛は痛みによって剣を振り落とす方向がずれ、斬りつけたのは、身体ではなく左腕だった。

 そしてそのまま少年の左腕は吹き飛んだ。

「あぁあああああ!!」

 少年は吹き飛んだ左腕など気にもせず、振り落とした剣をそのまま水平に斬り、右足を斬った。

「うぁああああああ!!」

 右足を斬られたことにより、踏ん張りが付かなくなり倒れた。

「いたいいたいいたい」

 少年は慈飛に再度近寄った。

「怨念の中で死ね」

 その瞬間、剣が造りだされ、慈飛の身体にありとあらゆる場所を貫いた。ある場所を除いて。

「そしてこれで終わりだ」

 少年は持っていた剣で慈飛の心臓を貫き、一度引き抜いて首を跳ね飛ばした。

「やっと終わったよ…俺がきちんと殺したよ…亮、陽炎…」

 それとともに少年は倒れた。



次回第一章終了です。


読んでいただきありがとうございます。

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