十二話 凶器
「またか…」
「あぁ」
少年は男とまた会っていた。
「血でも足りなくなったのか?」
「お前…変わったな」
「確かにな…」
少年の中にも自覚はあった。
亮が慈飛の「解体ショー」の餌食になり、暴走していたときのような感情が湧いてこなくなっていた。
「まぁそんな話はいいな…これからお前に力を与える」
「力…なら早くしてくれ。俺はあいつを早く殺したいんだから」
「……あぁ。」
その瞬間、男の前に剣が現れた。
それと同時に少年は距離を大きくとった。
「いつからそんな能力を...」
「落ち着けよ。この能力は俺の能力じゃない。お前の能力だ」
「え…?じゃあなんでお前が使えるんだ?」
「分からない。だが予想は出来ている」
「それは?」
「お前が自分を『吸血鬼』と認めたことでこの能力が発動したんじゃないかと俺は思っている。」
「じゃあなんでお前が俺の能力を使えているんだ?」
「それはわからない。それよりも時間がないんだろう」
男は一瞬で少年との間合いを詰め、少年に剣を突き刺した。
「ごふっ…」
こいつ強い!まったく動きが見えなかったぞ!
「これでお前に能力は渡した。使いこなすも無駄にするもお前次第だ」
「あぁ…」
少年の意識が薄れ行く中で、男は少年へ話しかけた。
「お前は名前にこだわっていたな。俺の名は『獄』だ。これから長い付き合いになるだろうな…」
「どう…いう…こ...」
少年は意識が途絶えた。
「お前には予想できないか。これからお前を襲い通づける悲劇も」
少年が感覚から覚めた時に前に広がる光景は異常だった。
鉄の塊が盾のように少年への攻撃を防いでいたのだ。
「これが…俺の…能力か?」
頭の中を叩き割るほどの頭痛が少年を襲いながら、少年は自分の能力を理解しようとしていた。
その瞬間、剣が少年を襲った。
そしてその剣がへし折れた。
「今のが君の能力かい?」
少年は慈飛を無視しながら攻撃を避けていた。
「ちっ!!どうやって発動すればいいんだ!!!」
頭痛は強くなっていき、遂に慈飛の剣を喰らってしまった。
“落ち着け、それを受け入れろ”
それ?まさか…なるほど!!
「ぼっとしてるんじゃねぇ!!!」
慈飛は怒りに任せて剣をふるった。
まさか…俺が気絶して居た瞬間は一瞬だったのか?あいつは自分が上じゃないとダメな人間なはずだ!俺のさっきとは違う行動に違和感を感じているのか!!
そして少年が理解しようと冷静になったとき少年を襲っていた頭痛は消え、代わりに少年の意識に侵入した。
「我へ逆らう者、仇なす者の愚かな攻撃を!」
「それがお前の!」
一度冷静になりかけていた慈飛の脳内に喰われた時の恐怖がよぎった。
そして慈飛は有利に立とうと攻撃を強めた。
「弾け!往なせ!消し去れ!!」
その瞬間少年を襲おうとした剣は、少年の前に立ちはだかった鉄の壁に阻まれた。
「なっ!!なんだよ!コ…」
少年は動揺によって起きた慈飛の隙を見逃さなかった。
少年は地面を蹴り飛ばし、慈飛の首をへし折るために距離を詰めた。
そしてそのまま蹴りを喰らわせた。
「うっ!!」
少年の蹴りは慈飛の首に決まり、慈飛は吹き飛んだ。
「首…折れたかな…」
少年は自分を襲おうとし、能力が切れたことによって下に落ちていた剣に手を伸ばし、それを拾った。
そしてそのまま慈飛のもとに近づいていった。
五月雨、水無月が率いる隊は、葉宮、柊たちのいる場所へ、全速力で向かっていた。
「これは…ひどいな」
その際隊は、少年が皆殺しを行った場所を通っていた。
「血の匂いがきつすぎる」
「死体の中に敵が隠れているかもしれない!警戒を解くなよ!!」
「あぁあああああああああああああああああ!!!!!!!」
「っ!なんだ!!!何があった!!警戒網を広げ過ぎたか!」
その悲鳴は左の五月雨隊の方から聞こえていた。
「確認に行くしか…」
「お前は先に行ってくれ!早く葉宮隊長の所に行ってやれ!部隊長だろ?」
「分かった…」
「俺の方のやつらも連れていけよ!」
「そんなしたらお前に危険が!」
「そうですよ!!!危ないです!!!!」
「もし隊長が戦っているとしたら戦力は多い方がいいはずだ!」
「だが...」
「いいから!!!行け!!!」
五月雨は水無月に向かい怒鳴った。
「っ!!了解!!!」
「分かった…その代わり馬だけは置いていく。必ず戻ってこい。」
「あぁ、約束だ。」
水無月たちは五月雨の気迫に負け、隊を連れて葉宮の所へ向かった。
「良かったよ…ここが軍紀に厳しいとこじゃなくて。厳しいとこだったら一人で残るなんて言ったら俺を気絶させてまで連れていかれるところだったな…」
そして五月雨は水無月たちが残した馬に乗り、悲鳴が聞こえた場所へ向かうため、馬に乗った。
「ごめんな…付き合わせてしまってな。」
馬に謝りながら、悲鳴の聞こえた場所へ向かった。
刻々と迫ってくる少年に慈飛は恐怖していた。
死んだふりでもしていれば……っ!!!!
しかしその希望が叶わなかった。
少年は拾った剣を慈飛に突き刺した。
痛い痛い痛い痛い!!!!!でもっ…でもっ!!
慈飛は生き残るために必死に耐えた。
しかし少年は、
「おい、本当は生きているんだろ?突き刺した瞬間に身体が震えていたぞ。それとも恐怖でか?おい!おい!!」
叫びながら突き刺した剣を何度も何度も抜いては刺してを繰り返した。
「あぁああああぁぁあっぁぁあぁあああ!!!痛いよ!痛いよ!!助けてよ!!不知火さん!!」
「不知火?」
「なんで?なんで?なんで?なんでだよ!!!僕をこんな目に!!!」
「こんな目?ふざけんじゃねぇ!!!!!」
少年はその一言に今まで心を塞いでいた蓋が外れて、開いてしまった。
そしてそこから溢れたものには、今での怒りも悲しみも苦しみも少しの喜びも願いも理想もなにもかもが交じりに混じりきっていた。
「お前が…お前が!!!亮を殺したんだ!!俺に言葉もこの世界も生き方も教えてくれた人を…うっっ…お前が殺したのに!!それなのにお前は『なんで?』だ?『こんな目』にあうのは当たり前に決まっているだろ…」
今しかない!!!
その瞬間、慈飛は能力を発動した。
シュンッ!!
今までで一番の速度で剣が少年を襲った。
チッ!!!!まだ闘う気力があるのか!!
「弾け!!!」
少年は音だけで攻撃の位置を特定し、能力を発動した。
しかし能力によって発動した鉄の壁は、さっきまでと違い剣を弾くことはできず、貫通した。
ギリリッッ!!
そしてそのまま剣は少年の背中に刺さり、そのまま貫通した。
「くっ…」
今だ!!!今しかない!
少年が痛みによって剣を離した瞬間を見逃さず、慈飛は剣を自分の身体から引き抜き、そのまま少年の腹部を一閃し、深く斬り裂いた。
「がふっ…」
少年は痛みで倒れ、そこで慈飛が逃げる姿を見た。
あはは…とどめ刺すの忘れているぞ?いいのかよ…ミスった、畜生。
“油断するからだ、慢心してるからそうなるんだ”
あぁそうだな…獄。
“少しだけ我慢しろ。そうすればすぐに追えるからな。”
大丈夫さ、もう守るために必死になる必要なんてないんだからさ。
“そうか…”
でもさ、歩くくらいならいいか?あいつとなるべく距離を離されたくないんだ。もしかしたら水無月たちの方に行ってしまうかもしれないからさ。
“歩くくらいなら大丈夫だろう。そんなに大切な奴らか?”
あぁ、葉宮の紹介だからって言うのもあるだろうけど…名前も知らない俺を仲間と思って大切にしてくれたよ。
“そうか、ならよかったな。”
少年は斬られた腹を抑えながら獄とともに慈飛を追う為に歩いて行った。
読んでいただきありがとうございす!!
感想お待ちしています!