第七話・それぞれのスタイルで
「あれ?これ…」
「んー?」
「すみれ姉さん、まだ持っててくれてたんだね」
「!?…あ、あー、うん。なんとなく、ね」
部屋の掃除をしてたら。
すみれ姉さんのベッド周りにちょこちょこと置いてあるぬいぐるみの中に、そいつがいた。
昔、一緒に地元のゲーセンに遊びにいった時に、すみれ姉さんが頑張って取ろうとしてたんだけど、何にも考えずにやってるから全然ダメで。
悪態ついて諦めたすみれ姉さんが、他のゲームに夢中になっている間に、こっそりさくっとゲットしてプレゼントした、デフォルメされた柴犬のぬいぐるみだ。
「そっか」
「………恥ずかしいから見つからないように奥に隠しごにょごにょごにょ」
「え?」
「なんでもないよ!」
「?」
★
プライズは、ガチでプレイを楽しむ玄人さんを除くと、接客無しでは成り立たないコーナーになってきてて。
《芸夢之塔》でも当然、利益の確保を念頭に置きつつ、微調整を加え、お客さんにゲットして頂けるように接客している。
その接客の仕方が、各自で特色があって面白い。
★
ドムさんの場合。
「………」
寡黙なキャラのドムさんは、難儀しているお客さんがいると、ボディーランゲージで、“ちょっと待って”のポーズを取り、ちょこちょこと景品の位置の調整をしたあと、“どうぞ”のポーズを取って、無言で去っていく。
でも、一度接客したお客さんのことはきちんと気にかけていて、様子を見つつ、何度も調整して、ゲットのあかつきには、専用の袋を差し出して景品を入れて頂いたのち、お客さんに無言でサムズアップしてから去っていく。
接客業としてはどうかと言われそうな応対なのだけど、余計なことを一切言わないという部分を気に入っている方や、そんなドムさんの様子が可愛いという女性のお客さんなんかもいて、一定の支持を得ていたりするのだ。
★
たまきさんの場合。
プライズコーナーに女性客がわらわらといる時は、メダルコーナーからたまきさんが召喚される。
スマートな出で立ちで、中性的な美形のたまきさんは、女性のお客さんに対すると、
「ああ、貴女がこのぬいぐるみを抱いて微笑む姿は、さぞかし愛らしいのでしょうね。叶うものならば、是非とも見てみたいものです」
などと、意味のわからない台詞の数々を放ち、こころさん命名“ヅカモード”に移行。魅惑の笑顔と仕草、甘い囁きで、お客さんのハートをがっちりキャッチしつつ、ほんのり頬を染めている彼女らに、いつの間にか景品をゲットさせてしまうのだ。
たまきさん、なんておそろしい子!
★
みことさんの場合。
逆に男性客、特に女性なれしていなさそうな方々がわらわらといる場合には、みことさんが召喚される。
エンジェルスマイルをさらりと使いこなしてしまうみことさんが、「頑張って下さい!」とか、「もう少しです!」とか、にっこにっこしながらぶちかますと、投入口に五百円玉が乱舞し、ゲット後のご褒美、小首を傾げながらの「おめでとうございまーす!」の台詞とともに放たれるゴッデススマイルで、たとえかなり割高な投資をしていたとしても、どちら様もほわほわと昇天してしまうのである。
しかし僕は聞いてしまった。
あらかた客をさばいたあとで、フロアを去り際、
「ふふ、ちょろいですねえ」
と、黒い笑みを浮かべながらみことさんが呟いたのを。
みことさん、とってもおそろしい子!
★
こころさんの場合。
こころさんは、なんというか、お客さんをノリノリにしてアドレナリンを過剰分泌させ、景品ゲットまでの道のりを、ドキドキわくわくのイベントにしてしまうのが上手い。
景品を取れなければ終われないぜ!みたいな空気にしてしまうのだ。
こころさん自身も全力でリアクションし、惜しいところで取れなければお客さんと一緒に本気で悔しがり、取れたときにはヒャッハー!な感じでハイタッチとかしながら大喜びする。
週末に家族連れのお客さんがいたりすると、こころさんとお子さんがタッグを組んできらきらした瞳で、「パパがんばれ!」とかやっちゃったりすると、知らない内にパパさんのおこづかいががりがり減っていくのだが、ゲットした景品を抱きしめたお子さんとこころさんに、「パパありがとー!」と満面の笑みでお礼を言われると、まんざらでもない笑みを浮かべてお子さんの手をひきつつフロアを去っていく。
ぶんぶん手を降りあってバイバイしているこころさんとお子さんを見ると、とっても和みます。
★
まあこんな感じで、この《芸夢之塔》のプライズコーナーでは、お客さんの様子を防カメで見ている店長が、状況に応じて各員を召喚し、ごりごりと利益をあげているのである。
え?
あ、僕の場合、ですか?
いや、その。
えー。
とほり。
あの、他の皆さんのコメントを、どうぞ。
「………」(ノーコメント的沈黙)
「新人の奴か?普通だな」
「普通ですねえ」
「やー、普通かなあ?」
ええ。
そうですともさ。
僕の接客はあまりに普通すぎて、この店では存在感が薄いのでございますよ。
故に、店長から召喚されることもありませぬ。
たまたま通りがかって呼び止められたら接客する程度でございまして。
ぐむう。




