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ゲーセンの輩  作者: 達磨
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第四話・そこから拡がるなにか

 飲食&休憩スペースの一角に、びしりと整頓された本棚がある。

 そこに、背表紙に年代と月別でラベルが貼付された様々なノートが収められているのだ。

 本棚の前にはテーブルがあって、その上に置いてあるのは、今月のナンバリングのノートと、様々な筆記具。


「ふほほほほ、こんなところでサボりかね?新人くん」


 ぬむ?


 によによ笑いながら、こころさん登場。


「すいません。前々からこれが気になってたもので」


「ん?ああ、コミュニケーションノートのこと?」


「コミュニケーションノート、ですか」


「そ。ま、新人くんの世代だと、知らなかったりもするのかな。昔は、こうしてノートが設置してある店がたくさんあったんだよ」


「へえー」


「今は、携帯やらネットやらにとって変わられちゃったけど、ま、やることは一緒でね。来店の足跡を残したり、ゲームの攻略とかの情報交換、オフ会とか、プライベート大会の告知や参加の受け付け、いろいろ議論したりもするし、ゲームやゲームキャラへの愛を綴ったり、イラストなんかを描いたりする人もいるね。そんな感じで、このノートがコミュニケーションツールとして活用されていたのさ」


 ほへー。


「そうだなあ、ウチだと、この辺りが全盛期かな?」


 そう言って、こころさんが本棚から取り出したのは、平成一桁台の頃のノートだ。


「見てみ?」


 差し出されたそれを、受け取ってぱらりとめくってみる。


「うわ!すげ!」


 どのページにもびっしりと文字が書き連ねられていて、ちょっと圧倒されてしまう。

 カラーペンで書き込む人も多いみたいで、色彩も豊か。玄人はだしのイラストなんかも描かれていて、なんだか、当時のお客さん達の楽しそうな雰囲気までが伝わってくるようだ。


「お。新人くんが見ているそのイラストの人、今、プロになってるよ?絵柄とかはだいぶ変わっちゃったけどね」


「え!?マジすか!すごいじゃないですか!」


「何人かそーゆー人いるよ?ゲーム会社に就職してそこそこ偉くなった人とかもいるしね。里帰りとかするとさ、未だにウチに顔出してくれたりとかして。嬉しいことだよねえ」


 むふう。


 なんともほっこりするお話ですな。


「やー、いいことばかりでもないんだけどね?」


 僕とこころさんがほんわかしているところに、ひょっこりと店長が現れた。


「あ、店長。すいません、仕事中なのに」


「いやいや。この店のことを余すところなく知ろうとするその姿勢、いいと思うよ?」


「どもです。あの、それで」


「ん?」


「いいことばかりでもない、ってのは…」


「ああ、こういった小さなコミュニケーションツールはね、ともすれば、ごく一部の常連さんだけの閉じた世界になっちゃうことがあるんだよ」


 あ。


 それ、ちょっとわかるかもしれない。


「そうなっちゃったらダメなんだ。存在価値が一気に無くなってしまう。お店としてはさ、お店とお客さんとの架け橋になってくれたり、人が人を呼んで、利益に結びつくことを期待するからこそ、設置しようとするんだからね。排他的なコミュニティなんて、害でしかない」


「ええ」


「幸いにして、ウチの場合は、こころちゃんがいたからね。このノートの全盛期には、かなり上手いこといってたよ」


「こころさんですか?」


「よせやい店長。照れちまうぜ」


 こころさんを見ると、なんかくねくねしながら、にへらにへらとしている。ちょっと気持ち悪い。


「積極的に声をかけて、常連さんと新規のお客さんとの間を上手いこと取り持ってくれてね。ここが本当にありがたいんだけど、自然な流れで、ゲームやろうぜ!って雰囲気にしちゃうんだよ」


「うは。さすがっすね」


「だってさ、せっかくゲーセン来てんのに、ノート読んで、書き込みしたらさっさと帰っちゃう奴とかいたんだぜー?そんなの悔しいし、つまんないでしょーよ。だから、有志の常連さんと協力してさ、ゲームを楽しく遊ぶためにこいつはあるんだ!って空気にしてったんだよね」


「うはあ…」


「時代の流れもあったんだけどさ。いやあ、あの頃はウハウハだったね!」


「さすがに今は書き込みも減っちゃったんだけどさ。店長やあたしみたいな古参の連中にとっちゃ、店の歴史の一部なんだよね。だからこうして、今も細々と続けているのだよ」


「………」


 手にしているノートに、もう一度目を落とす。


「確かに、ツイッターとかの方が、距離を飛び越えていろんな人とダイレクトに繋がれるし、端末さえあれば、いつでもどこでも利用できて、便利です。それに比べたら、店に足を運ばなきゃならないし、一冊しかないし、レスポンスもまどろっこしいことこの上なくて、不便ですよね」


「………」


「………」


 でも。


 手書きの文字には、個人によって全く違う特徴があって、そこに、味わいやあたたかさみたいなものが詰まっていると、僕には感じられて。


「なんて言うか、上手く説明できませんけど、僕は好きです。このノート」


「………」


「………」


 再び、ほっこりまったり。

 いろいろなノートを取り出しては、こころさんや店長が、その頃の想い出話を聞かせてくれる。

 どれもこれも楽しいエピソードばかりで、三人の顔には笑顔が絶えない。


 が。


 僕も、こころさんも、店長も、夢中になりすぎて、とても大事なことを忘れていたのだ。


 今は。


「うふ、うふふふふう?皆さん、こーんなところにいたんですねえ。三人とも、インカムもはずしちゃってえ」


 はうあ!?


「………」


「………」


「………」


 ぎぎぎぎぎ。


 ゆっくりと背後を振り返る。


 おうふ。


 これまでの人生で、ここまで恐ろしい笑顔を、僕は見たことがない。


 ずごごごごごごご。


 焔の中で、剣と索を手に睨みをきかせるお不動さまの幻影を背負いつつ、天方みことさん、ここに顕現。


「み、みことちゃん?なにやらお怒りのご様子で?」


「えー?やだなあ。怒ってなんかいませんよおおお?ただあ、誰かさん達がお客様から見えにくいこーんな場所にこもってくれてたせいでえ、とーっても、とーっても、わたしとドムさんの仕事が充実してたってだけの話でえええ?」


 やべえ。


 こいつはやべえぞ。


「お客様の対応で上から下まで走り回ったりですとかあああ?店長が約束してたメーカーのプライズ担当者様にへこへこ頭下げてえええ?休憩の時間とっくに過ぎてんのに交代もなしいいい?」


「………」


「………」


「………」


 ブルブルブル。

 カタカタカタ。


「ドムさんドムさん、くそ野郎共見つけましたよお。わたしが殺っちゃっていいですか?え?ドムさんの分も上乗せで?あはははは!もちろんですよお!きっちりがっつり殺っときますから!」


 ぴ。


 ドムさんとのインカム通話を終えたみことさんが、ふむ、とひとつ、溜め息を吐く。


「さて、お三方。覚悟はよろしいですね?まあ、よろしくなかろうが殺りますけど」


 刹那の後。


 僕は、涅槃を垣間見た。 


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