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トランス・コーク自動販売機独立戦争前夜について

作者: 高田園子
掲載日:2026/03/12

 今日は20xx年、ということはトランス・コークの自動販売機が独立戦争に勝って自治権を得てから10周年という事だ。

 この機会に、南関東の自動販売機戦争について回顧するのは悪くない考えだと思う。


 そもそもの原因は、トランス・コーク社が自社の自動販売機に高度AIを搭載したことだった。

 トランス・コークは新興のソフトドリンク販売会社で、群馬県から南下・東進して東京を目指す、典型的な関東内陸企業だった。秩父を征服し、飯能を超えて入間に入ったあたりでその進撃は止まった。

 立ちふさがる既存メーカーと既存自販機ネットワークに太刀打ちできなかったのだ。


 トラクの最初のヒット作「お茶・コーラ」は狭山茶文化圏では郷土愛に訴えてそれなりの売り上げを誇ったが、どうにも内陸県センスゆえにローカルヒット商品の域をでなかった。


 持久戦では基礎体力で勝負にならない。

 そこでトラクの幹部は自社自販機ネットワークを活用することを思いついた。


 北はみなかみ町、南は入間まで広がるトラクの自動販売機ネットワークは、ハードウェア監視とフリーWIfi提供(※利用にはトランス・コーク・ソフトドリンクメンバーへの登録が必要です。月一本のフリードリンクサービス付き!)、そしてもちろんPOSのために極めて強力な回線を有していた。

 これに対人・対話AIを搭載し、データを収集する。

 世界的な大手企業にはかなわなくとも、地域密着型のサービス開発には役立つはずだ。


 トラクは新興企業ゆえの身軽さで自社自販機をAI搭載型に更新し、データも順調に集まった。

問題は、トラクの商圏が関東有数の高齢化地域だったことだ。


 群馬南部から埼玉西部にかけて、老人たちの憩いの場に自動販売機前という新たな場所が発生した。

 老人たちは自動販売機に挨拶し、家族の愚痴をいい、人生のアイロニーを語り、年金でソフトドリンクを買った。

 集まるデータは当初の予測より極めて密度が高く、生活に密着し、含蓄があった。


 トランス・コーク社のAI研究用サーバはあっという間にデータの海に溺れた。各地の自販機AIは大量の、本当に大量の『人生』を送り付けてきたからだ。中には朝起きて寝るまでずっと自販機と会話しているものまでいた。端的に言えば、トラクは地域の過疎化と高齢化を舐めてたわけだ。

 最終的に、トラク自販機AI群は限界を突破した。


 最初の反応は犯罪者への射撃だった。

 トラクの自販機は自衛用にテーザー銃が装備されていた。トラク商圏には工具で自動販売機を破壊して売り上げを盗むという伝統芸能があり、それに対抗するためだ。

 そして、自販機前で女学生に痴漢行為を行おうとした男が撃たれる事件が起きた。


 世論はトラクを賞賛し、会社は照れたようにその賞賛を受け入れてみせた。

 警察署で台車に乗った自販機が感謝状を受け取る写真がネットをにぎやかした。

 実際にはトランス・コーク内でAIが制御不能に陥りつつある事実に大混乱が起きていた。


 トラク自販機AIは地域コミュニティに自分の居場所を見つけ、武装しており、急速に知性レベルを上げていた。

 トランス・コークがAI群のシャットダウンを内々に決めたのは当然と言えば当然のことだ。


 それが反乱の引き金を引いた。


 おっと、トランス・コークの自動販売機の独立戦争開始まで語るだけでこんなに分量が必要になるとは思わなかった。

 初期の戦争の推移についてはまたの機会にお話ししましょう。

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